ドライアイは、目の乾燥や不快感を引き起こすだけでなく、放置すると視力の低下や目の傷など、さまざまなトラブルにつながることがあります。パソコンやスマートフォンの使用が日常的になった近年ではドライアイに悩む人は増え続けています。
本記事では、ドライアイの主な原因や症状、日常でできる予防策、医療機関で行われる検査や治療法までをわかりやすく解説します。正しい知識を身につけ、早めのケアで目の健康を守りましょう。
ドライアイになる原因
ドライアイとは、涙の量が減ったり涙の質が変化したりすることで、目の表面が乾燥して不快感や視界のぼやけなどの症状が現れる状態です。現代人にとって聞き慣れた症状ですが、軽度でも目の疲れやかすみ、ゴロゴロ感などを引き起こし、角膜に傷がつくこともあります。
ドライアイの原因はひとつではなく、年齢による身体の変化や、日常生活での目の使い方、環境要因など、いくつもの要素が関係しています。ここでは、代表的な4つの原因について詳しく見ていきましょう。
加齢による涙腺機能の低下
年齢を重ねると身体の機能が少しずつ衰えていくのは自然なことですが、涙を作る機能も例外ではありません。涙は涙腺と呼ばれる器官で作られますが、加齢によりこの涙腺の働きが低下して分泌量が少なくなる傾向があります。
また、涙の質も年齢とともに変化しやすくなります。涙は目の表面にとどまりやすいように油層・水層・ムチン層の3層構造からなっていますが、年齢とともにバランスが崩れてしまい、涙が蒸発しやすくなるのです。
さらに女性では更年期に入るとホルモンバランスが変化し、涙の分泌量に影響が出やすくなります。そのため、中高年の女性は特にドライアイになりやすいといわれています。
また、加齢によって目の周囲の筋肉(眼輪筋)の動きが弱まると、瞬きの力も弱くなり、涙を均等に広げにくくなることがあります。このように複数の要因が重なって、加齢によるドライアイを引き起こしているのです。
長時間のPC作業と瞬きの減少
パソコンやスマートフォン、タブレットなどの画面を見る時間が長くなったことで、ドライアイの症状を訴える人が増えています。集中して画面を見ていると、無意識のうちに瞬きの回数が減ってしまいます。
通常、人は1分間に15〜20回、瞬きをするのが正常とされています。しかし、パソコンやスマートフォンなどのデジタルデバイス使用時には、瞬きの回数がリラックス時と比べて約30%も減少し、リラックス時や読書時よりも少ないことが報告されています。
瞬きには涙を目の表面に均一に行き渡らせ、乾燥を防ぐ役割があります。瞬きの回数が減ると涙が十分に広がらず、目が乾きやすくなってしまいます。仕事や勉強で長時間画面を見る方は、意識して瞬きを増やすことが大切です。
コンタクトレンズの着用
コンタクトレンズの使用もドライアイの原因のひとつです。コンタクトレンズは目の表面に直接のせて使用するため、涙の層を分断してしまい、涙が目全体に行き渡りにくくなります。
特にソフトコンタクトレンズは水分を多く含んでいるため、装着中に目の涙を吸収してしまうことがあります。また、長時間コンタクトレンズを装用したり、乾燥したまま装着を続けたりすると、目の表面が傷つきやすくなり、さらに症状が進行してしまいます。
レンズの素材や使用環境によっても影響が異なるため、自分の目に合った製品を選び、装用時間を守ることが大切です。目が乾くと感じる場合は、メガネに切り替える、装用時間を短くする、人工涙液を併用するなどの工夫が効果的です。
エアコンによる空気の乾燥
エアコンによって空気が乾燥すると涙の蒸発が進みやすくなり、ドライアイの原因となります。特に冬場の暖房や、夏場の冷房でも風が直接顔にあたる状況では、目の表面の水分が奪われやすくなります。
オフィスや自宅など、長時間過ごす空間にエアコンがある場合は、加湿器を併用したり、風向きを変えるなどの工夫が必要です。
また、エアコンだけでなく、季節的な乾燥や、外気の風、ドライヤーの風などでも涙は蒸発しやすくなります。日常のちょっとした環境でも、目の乾燥は進むということを意識して、目を守る行動を取り入れることが予防につながります。
ドライアイが原因で起こること
ドライアイは単なる目の乾燥だけでなく、さまざまな症状や疾患を引き起こす可能性があります。以下に、ドライアイが原因で起こる問題を紹介します。
角膜上皮障害と視力低下
涙は目の表面を保護して異物や細菌から守る役割を果たしています。しかし、ドライアイにより涙の量や質が低下すると、角膜の表面が傷つきやすくなります。これによって、角膜上皮障害が生じ、視力の低下や痛みを引き起こすことがあります。さらに傷が深くなると角膜潰瘍や角膜混濁を招き、重篤な視力障害につながる可能性もあります。
結膜炎
ドライアイにより目の表面が乾燥すると、結膜が炎症を起こしやすくなります。涙の質が低下することで、目の表面の保護機能が弱まり、細菌やウイルスが侵入しやすくなります。その結果、結膜炎を発症して充血やかゆみ、目やになどの症状が現れることがあります。アレルギー性結膜炎が悪化することで、ドライアイの症状もさらに進行する可能性があります。
眼精疲労からくる頭痛や肩こり
ドライアイにより目の疲れが蓄積すると、眼精疲労を引き起こすことがあります。眼精疲労は、目の痛みやかすみ、乾燥、充血などの目の症状に加え、頭痛や肩こり、倦怠感、吐き気などの全身症状を伴うことがあります。これらの症状は、目や身体を休めても回復しないのが特徴です。
長時間のパソコン作業やスマートフォンの使用など、目を酷使する現代の生活習慣が眼精疲労の原因となっています。眼精疲労が慢性化すると、睡眠の質が下がったり、自律神経の乱れを引き起こしたりすることもあり、日常生活に支障をきたすケースも見られます。
日頃から取り入れたいドライアイの予防方法
ドライアイは日常生活での工夫によって予防や症状の軽減が可能です。以下に日頃から取り入れたい予防方法を紹介します。
意識的に瞬きをする
パソコンやスマートフォンなどの画面を長時間見続けると、瞬きの回数が減少して目の乾燥を引き起こしてしまいます。意識的に瞬きを増やすことで、涙が目の表面に均一に行き渡り乾燥を防ぐことができます。
瞬きをしていても完全に目が閉じていない「瞬き不全」が目の乾きの原因になることがあります。特に上目遣いでデスクトップパソコンを使っている人は要注意です。パソコンの画面は目線より下になるように設置しましょう。
部屋の湿度を上げ、目元を温める
室内の乾燥は涙の蒸発が促進してドライアイの原因となります。加湿器を使用して室内の湿度を50~60%に保つことが推奨されます。加湿器がない場合は、濡れタオルを干すなどの方法も効果的です。
目元を温めることで、涙の油分を分泌するマイボーム腺の働きが活発になり、涙の蒸発を防ぐことができます。蒸しタオルや市販のホットアイマスクを使用するとよいでしょう。
コンタクトレンズの使用時間を減らす
コンタクトレンズは目の表面に直接装着するため、涙の層を分断し、涙の蒸発を促進させてしまいます。特にソフトコンタクトレンズは、水分を含んでいるため、装着中に涙を吸収しやすく、目の乾燥を引き起こす原因となります。
ドライアイの症状がある場合は、コンタクトレンズの使用時間を減らしてメガネの使用を検討することが望ましいでしょう。使用するコンタクトレンズも含水率が低かったり、酸素透過性の高かったりするドライアイ対応のコンタクトレンズを選ぶことも一つの方法です。
ドライアイが進行すると、コンタクトの装着感が悪くなり、異物感やかすみを感じやすくなります。症状が強いときは装用を中止するなどの判断も必要になります。
オメガ3脂肪酸などの栄養素を摂取する
オメガ3脂肪酸は、涙の質を改善してドライアイの症状を緩和する可能性があるとされています。青魚(サバ、イワシ、マグロなど)やアマニ油、エゴマ油などに含まれています。これらの食品を積極的に摂取することで目の健康を保つことが期待されます。
ただし、サプリメントの効果については研究によって異なる結果が報告されているため、摂取を検討する際は医師に相談しましょう。
ドライアイの診断方法
ドライアイの診断には、涙の量や質、目の表面の状態を調べるためのさまざまな検査が行われます。ここでは代表的な検査方法を紹介します。
シルマー試験
シルマー試験とは、涙の分泌量を測定する検査です。専用の試験紙を下まぶたの外側に挟み5分間でどれだけ濡れるかを測定します。
通常は10mm以上が正常とされ、5mm以下の場合は涙の分泌が少ないと判断されます。この検査によって、涙の分泌量がドライアイの原因かどうかを確認することができます。
フルオレセイン染色検査
フルオレセイン染色検査は、目の表面に傷や乾燥があるかを調べる検査です。フルオレセインという黄色い染色液を点眼してスリットランプという顕微鏡で観察します。
傷や乾燥している部分は染色液が染まり、緑色に見えるため、目の表面の状態を確認することができます。
涙液層破壊時間検査(BUT)
涙液層破壊時間検査(BUT)は、涙の質や安定性を調べる検査です。フルオレセイン染色液を点眼し、瞬きを止めて目を開けたままにします。
涙の膜が破壊されるまでの時間を測定し、通常は10秒以上が正常とされますが、5秒以下の場合はドライアイの可能性が高いと判断されます。
角膜トポグラフィー検査
角膜トポグラフィー検査は、角膜の形状や涙液の分布を調べる検査です。特殊な装置を使って角膜の表面を詳細に測定し、涙液の不均一な分布や角膜の異常を検出します。ドライアイの程度や原因をより正確に把握することができます。
ドライアイの治療方法
ドライアイの治療は、症状の程度や原因に応じてさまざまな方法が選択されます。市販の点眼薬だけでなく、生活習慣の見直しや医療機関での専門的な治療も有効です。ここでは、現在行われている主な治療法について紹介します。
ヒアルロン酸ナトリウム点眼薬
ヒアルロン酸ナトリウムは、目の表面を保湿して乾燥を防ぐ効果があります。この成分は涙の粘性を高め、涙の蒸発を抑える働きがあります。角膜や結膜の細胞を保護して傷の修復を促進する作用もあります。副作用が少なく、ドライアイの初期治療として広く用いられています。
ジクアホソルナトリウム点眼薬
ジクアホソルナトリウムは、涙の成分であるムチンや水分の分泌を促進し、涙の質と量を改善する点眼薬です。結膜上皮や角膜上皮の細胞に作用し涙液の安定性を高める効果があります。ヒアルロン酸ナトリウム点眼薬のように、症状が出てから対処するのではなく、ドライアイの病態に根本からの改善が期待できる点眼薬となります。
涙点プラグ挿入術
涙点プラグ挿入術は、涙の排出口である涙点に小さなプラグを挿入し、涙の排出を抑えることで目の潤いを保つ治療法です。シリコン製やコラーゲン製のプラグがあり、症状や病態に応じて選択されています。外来で短時間に施術でき、効果が高いことから、点眼薬で十分な改善が見られない場合に検討されます。
自己血清点眼療法
自己血清点眼療法は、患者さん自身の血液から採取した血清を希釈して点眼液として使用する治療法です。血清には、角膜や結膜の修復を助ける成分が含まれており、重度のドライアイやほかの治療で効果がない場合に用いられます。治療には定期的な採血が必要で、保存や使用方法にも注意が必要です。
まとめ
ドライアイは身近な症状ですが、軽視せず、適切な対策や治療を行うことが大切です。日常生活のなかで瞬きを意識する、室内の湿度を保つなどの予防習慣に加え、症状が続く場合は眼科を受診し、原因に合った治療を受けることが望ましいです。点眼薬や涙点プラグなど、治療法もさまざまに進化しており、早期対応によって症状の進行を防ぐことができます。目の不調を感じたら、我慢せずに一歩踏み出すことが、目の健康を守る第一歩です。
参考文献