緑内障の手術を検討中だけれども、手術内容や合併症について不安を感じている方は多いのではないでしょうか? 本記事では緑内障の手術について以下の点を中心にご紹介します。
- 緑内障の手術の種類
- 緑内障の手術の合併症
- 緑内障の手術後の注意点
緑内障の手術後の生活について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
そもそも緑内障とは?
緑内障とは、視神経の損傷により視野が狭くなる病気です。この病気の原因の一つは眼圧の上昇であり、眼内の房水の圧力に関わっています。目には栄養を運ぶ房水と呼ばれる液体が存在し、毛様体で生成され、シュレム管を通じて排出されます。この房水の圧力によって目の形状が維持され、これが眼圧として知られています。眼圧はわずかな変動があるものの、通常は安定した値を維持します。 緑内障の進行はしばしば検知が難しく、初期段階では目の中心に小さな暗点が現れ、本人には気づきません。中期になると暗点が広がり、視野の欠損が増加しますが、一方の目が他方を補っているため、症状に気づかないことがよくあります。しかし、緑内障が進行し末期に達すると、視野がさらに制約され、視力が低下し、日常生活に支障をきたすようになります。無視すれば最終的に失明に至りかねません。
緑内障の手術
緑内障の進行を抑え、視力を守るためには、時に手術が必要です。以下では、緑内障手術の方法について述べていきます。
レーザー手術
緑内障の手術において、一つの選択肢として挙げられるのが「レーザー手術」です。この手術は比較的迅速に行われ、手術前後の生活制限がほとんどありません。 まず、急性緑内障発作が発生したり、発作リスクが高い場合、虹彩の根部に小さな穴を開けて、新たな房水の通路を作る方法が採用されます。このプロセスは、房水の流れを調節し、眼圧のコントロールを可能にします。この方法により、緑内障の症状を緩和し、視神経への圧力を軽減します。 もう一つのレーザー手術は、線維柱帯と呼ばれる房水の出口に焦点を当てます。ここでレーザー光線が照射され、房水が外にスムーズに流れ出る抵抗を減少させ、眼圧を低下させます。このプロセスは眼圧を効果的に制御する手段の一つであり、視神経へのダメージを軽減します。 レーザー手術は非常に迅速に行われ、通常、日常生活に大きな制約を課しません。これにより、緑内障の進行を遅らせ、視力の維持や改善に寄与することが期待されます。
観血手術
「観血手術」とは、緑内障の治療において最終手段として選択される外科手術の一種です。通常、薬物療法やレーザー治療が効果を示さず、眼圧が適切に下がらず、視野の狭窄が続く場合に実施されます。観血手術にはいくつかの異なる方法が存在し、その中から患者の病態に最適なものが選択されます。 房水の通り道を改善し、流出路を再建する手術が一つの選択肢です。この方法では、房水が正常に流れ出るための通路を修復し、眼圧の調整を助けます。また、房水を球結膜下に排出する濾過手術や、チューブを用いて眼球周囲の深部に設置するプレートへ房水を導くチューブシャント手術も行われます。これらの手術は、眼圧を適切な範囲に保ち、視神経にかかる圧力を軽減するのに役立ちます。
濾過手術
「濾過手術」は、緑内障治療の一環として行われる外科手術ので、通常の治療法が効果的でない場合や目標とする眼圧を達成できない場合に採用されます。この手術は、眼圧の調整が必要な患者に対して実施されます。 一つの方法は、従来の濾過手術である「トラベクレクトミー」です。この手術では、房水の排出経路を改善し、眼圧を下げるための手術が行われます。 また、2011年に厚生労働省の認可を受けた新たなアプローチとして「インプラントを用いた濾過手術(エクスプレス)」も存在します。手術後に、糸をレーザーで切って房水の排出を調整し、眼圧を目標とする10mmHg前後に調整します。
チューブシャント手術
「チューブシャント手術」は、緑内障治療において重度の症例に対して行われる外科手術の一つです。通常の治療法が効果を示さないか、眼圧を下げることが非常に困難な場合に適用されます。 この手術は、緑内障による眼圧の制御が急務である患者に対して実施されます。手術では、眼内にチューブを留置し、房水(眼内液体)を眼球周囲の深部に流すことを可能にします。これにより、眼圧を効果的に調整し、緑内障の進行を遅らせます。 チューブシャント手術には、2つの主要なタイプがあります。一つは「直線チューブタイプ」で、チューブが前房に挿入されます。もう一つは「毛様体扁平部挿入タイプ」で、チューブが毛様体の平坦な部分に挿入されます。どちらのタイプも、眼圧を効果的にコントロールし、視神経にかかる圧力を軽減するために使用されます。
緑内障手術の合併症
緑内障手術は視力を維持するために有効とされている治療法ですが、時には合併症のリスクが存在します。以下では、緑内障手術の合併症に焦点を当て、そのリスクについて詳しく解説します。
駆出性出血
「駆出性出血」とは、緑内障手術の合併症の中でも非常にまれなケースです。この合併症は、眼圧が急激に変動することにより、眼内の血管が破裂し、大量の出血が生じる現象です。駆出性出血は発生頻度が低いものの、発症すると手術が中断され、失明の危険性が生じる重大な合併症となります。 この出血は通常、手術中または手術後の初期段階に発生することがあります。眼圧の急激な変動が、血管に負担をかけ、破裂を引き起こすことが考えられます。駆出性出血が発生すると、視界が奥行き感覚を失い、手術を続行することが難しくなります。 緑内障手術を受ける際、この合併症のリスクは非常に低いと言えますが、患者と医師の間で適切な手術計画とリスク評価が行われることが重要です。手術中に血圧の急激な上昇や眼圧の異常な変動を避けること、適切な予防策を講じることが、駆出性出血のリスクを最小限に抑えるのに役立ちます。手術前に医師との十分な相談と情報共有が欠かせず、合併症を適切に管理するための鍵となるでしょう。
眼内炎
眼内炎も、非常にまれですが重大なリスクを伴います。この合併症は、手術の創から細菌や他の病原体が眼内に侵入し、眼内感染を引き起こす可能性がある現象です(発生率は約0.1%程度)。眼内感染が発症すると、再手術が必要な場合があり、抗生物質の投与も行われます。感染が進行すれば最悪の場合、失明の危険性もあるため、感染予防が極めて重要です。 感染を予防するためには、手術前と手術後の点眼を指示通りに守ることが必要です。特に緑内障手術の一形態である「線維柱帯切除術」の後は、長期的な抗生物質の点眼が必要です。手術部位からの感染リスクを最小限に抑え、手術の成功と視力の保全を確保するために、医師の指導に従いましょう。
高眼圧
高眼圧は、手術中や手術後に眼圧が上昇する状態を指します。この状態は、手術時に出血や炎症などが生じた際に発生することがあります。 高眼圧が発生すると、視神経にかかる圧力が増大し、視力に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、適切な処置が必要です。一般的な対処法には、眼球マッサージや、必要に応じて縫合糸をレーザーで切開することが含まれます。また、点眼薬や内服薬を使用して、眼圧を適正範囲内に調整し、経過をモニタリングすることが重要です。 高眼圧は緑内障手術において発生しうるリスクの一つであり、患者の早期発見と適切な管理が不可欠といえます。
低眼圧、脈絡膜剥離、濾過胞漏出
低眼圧、脈絡膜剥離、濾過胞漏出は、緑内障手術の合併症として起こり得ます。 低眼圧は、眼圧が過度に低下し、眼球にひずみを生じる状態です。特に線維柱帯切除術後にみられることがあります。この状態では、視力が低下し、視機能が悪化する場合があります。通常、ほとんどの場合は経過観察によって改善が期待されます。 一方、脈絡膜剥離や濾過胞漏出は、眼内の水分が結膜から漏れ出す現象を指します。これらの合併症が発生すると、視覚に支障をきたす可能性があります。特に漏出が明らかな場合、再縫合の手術が必要となることもあります。
術後の視力低下、視野進行
術後に視力低下、視野進行が生じる可能性があります。緑内障手術の主要な目標は、長期的な視力の維持や改善であり、即時の視力向上を追求するものではありません。 手術後に視力が低下する原因として、術後乱視が挙げられます。手術が成功しても、乱視が生じることがあり、視力に悪影響を及ぼすことがあります。また、手術直後に眼圧の上昇が見られることもあり、これが視野の狭窄や進行につながる可能性があります。特に進行した緑内障の患者は、視力低下のリスクが高まるとされています。 緑内障手術は、視力の長期的な改善を目指すものであるため、手術後に視力の変動があることは考えられることです。患者は手術前と手術後に医師と綿密なコミュニケーションをとり、手術の目的やリスクについて理解し、適切なフォローアップを受ける必要があります。
異物感、充血
異物感、充血は、緑内障手術の一部患者に見られる一時的な合併症です。手術後2〜3週間で通常、目立った充血は解消されますが、線維柱帯切除術の場合、術後も軽度の充血が持続し、結膜がわずかに盛り上がる場合があります。 この充血は、手術部位の組織の修復プロセスと関連があります。手術が成功しても、一時的に目が充血し、異物感を感じることがあります。ただし、これは通常、経過観察をするうちに改善するもので、患者は適切な指導を受けつつ、回復に専念できます。 緑内障手術において、異物感や充血などの一時的な症状は比較的一般的です。このような合併症は通常、視力の改善と手術の成功には影響を与えず、短期間で症状が軽減されることが期待されます。
緑内障の入院期間と費用
緑内障の手術の入院期間は、手術の種類によって異なりますが、目安は約10日程度です。手術後の経過をモニタリングし、必要な医療ケアを提供するために、短期間の入院が一般的です。 入院費用は、患者の負担割合や入院するお部屋、手術の内容などによって異なります。一般的に、医療費の3割を負担する方にとって、入院費用は片眼手術を含む食事代を含めて、15万円から30万円程度が目安とされています。ただし、これはあくまで一般的な目安であり、具体的な費用は入院する病院やクリニック、手術の内容によって変動します。 緑内障の手術を検討する際には、医療機関と入院費用について詳細な説明や見積もりを受けることが大切です。入院費用の詳細について、医療スタッフや病院スタッフに相談し、予算の設定と手術計画を適切に立てましょう。
緑内障の手術後の注意点
緑内障の手術後、適切な注意が欠かせません。以下で解説していきます。
緑内障は治る病気ではない
緑内障は神経の病気であり、その本質からくる現実として、完全な治癒が期待される疾患ではありません。緑内障手術は、病状の進行を抑え、視力を維持するために行われますが、手術自体は緑内障を完治させるものではありません。手術の主な目的は、眼圧を降下させることで緑内障の進行速度を緩やかにし、視力の喪失を防ぐことです。 また、手術後には再手術の可能性も考慮しなければなりません。手術後、しばらく経過すると結膜(眼球を覆う膜)が癒着してしまい、眼内と外部との房水の流れが妨げられることがあります。その結果、眼圧が再び上昇する可能性があるため、適切なケアが不可欠です。眼球マッサージや点眼による眼圧コントロールが試みられますが、病状が進行し視力の保持が脅かされる場合には再手術が検討されることもあります。 緑内障患者にとって、継続的な医療管理と遵守が不可欠であり、手術後も緑内障との共存を意識しながら生活していく必要があります。
緑内障手術後の入浴
緑内障手術を受けた後、適切なケアが必要です。手術直後、感染予防に特に注意が必要で、目をこすったり、顔を洗ったりすることは避けるべきです。首から下のお風呂やシャワーは、一般的には手術後1週間前後から可能となりますが、具体的なタイミングは眼の状態により異なることがあります。飲酒についても、手術後1週間ほどは控えることが推奨されています。 通常、手術後1〜2週間で日常の仕事や生活に戻ることができます。ただし、激しいスポーツや長期の旅行など、体への負担が大きい活動については、医師の許可を得るまで待つ必要があります。手術翌日から眼帯は不要になりますが、目の状態が安定するまでの約3ヶ月間は点眼治療が必要です。
まとめ
ここまで緑内障の手術についてお伝えしてきました。緑内障の手術の要点をまとめると以下の通りです。
- 緑内障手術の種類は、レーザー治療、濾過手術、およびチューブシャント手術などがあり、目的は眼圧の調整と視神経保護
- 緑内障手術の合併症には、眼内炎、高眼圧、低眼圧、異物感、充血、駆出性出血、視力低下、視野進行などがある
- 緑内障手術後の注意点は、感染予防、入浴、飲酒制限、活動制限、点眼治療の遵守が挙げられる
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。