子どもの近視は、世界的にも増加しています。そのため、さまざまな近視進行予防方法の研究が進んでいます。しかし、明確なエビデンスが得られない治療方法もあまりなく、情報の整理が必要です。進行を抑制する治療薬やサプリも販売されていますが、成長期の子どもに服用させてよいのか、迷うこともあるでしょう。生活改善も必要な要素でもあるようです。それらの正しい知識を有効に活用しましょう。
近視について
近年、子どもの近視は増加が著しい状況です。小学生では約7割、中学生にいたっては、約9割以上が近視であり、しかも低年齢化が進んでいるという調査報告があります。 この状況は日本だけではなく、中国、香港、台湾、韓国、シンガポールなど東アジアにおいても近視人口は増加しています。高校卒業までに9割くらいの子どもが近視となるのは憂慮すべき事柄です。 生まれたときは十分に目が見えておらず、遠視の状態です。それは赤ちゃんの目が小さいため、目の奥行(眼軸長)が短いからです。1歳児で0.1~0.2程の視力しかありません。6歳くらいまでに網膜や視神経の発達により正常な視力になりますが、眼軸長が伸びすぎると近視になってしまうのです。
- 近視とはどのような状態ですか?
- :近くのものは見えて、遠くのものが見えづらい状態が近視です。目にはカメラと同じような役割があります。カメラのレンズにあたるのが黒目と呼ばれる角膜です。目から入った光は、この角膜と水晶体を通って、カメラのフィルムにあたる目の奥にある網膜へと到達します。見たいものにピントが合う状態になるには、角膜や水晶体で屈折した光が網膜上で結ばれなければなりません。しかしほとんどの場合、近視は、角膜から網膜までの距離(眼軸長)が長くなってしまうことで、網膜の手前でピントが合ってしまい遠くが見えにくくなるのです。
- 近視になってしまう原因は何ですか?
- 近視の原因としては、生まれつきの遺伝因子や、生活環境などによる環境因子が複雑に関係していると考えられています。しかしそれらが原因であるかどうかは、完全には解明できていません。例えば、長時間目を酷使しても近視になる人とならない人がいるので、環境因子だけが原因ではないといえるでしょう。また、遺伝因子が強くはたらくケースがあることもわかってはいます。親が強度の近視である場合は、子どもに早い時期から強い近視が見られたり、両親ともに弱い近視がある場合にも、子どもの近視確率が高くなったり、という報告事例もあるからです。しかし、すべてのケースではないため、遺伝因子だけでは説明がつきません。
- 近視の見え方について教えてください
- 遠くがぼやけて見えますが、近くに行けばはっきり見えます。学校の視力検査で視力低下が判明した頃には、黒板の字がぼんやりして板書ができず、前に行って確認するようなことが起きはじめるでしょう。
近視はサプリで改善・進行の抑制ができる?
近年、低年齢の頃からスマートフォンや携帯ゲームの長時間利用などにより、近くのものを見る機会が増加しています。生活環境の変化の指摘により、近視は生活習慣病ととらえられています。従来の治療方法はもとより、食事療法やサプリメントなどを組み合わせる治療(総合医療)の考え方も知られるようになりました。近視進行を抑制するため、屋外活動を日常化するような生活習慣の改善や、サプリメントによる効果の期待などが臨床研究データから確認されています。
- ブルーベリーのサプリは近視に効果がありますか?
- ブルーベリーが目によいのは本当ですが、食べ物のなかで、ブルーベリーだけが、特別によいわけでもありません。 ブルーベリーが目によいという情報には諸説ありますが、第二次世界大戦中のイギリス人パイロットの生活習慣に起因するようです。その兵士は薄明かりのなかでも敵機がよく見えたそうで、食生活ではブルーベリージャムを毎日食べていたといわれています。そこから科学者が研究し、ブルーベリーに含まれるアントシアニンが視神経の改善を促すということがわかったのです。しかし、この結果だけで、アントシアニンで視力が上がったというエビデンスにはいたっていません。ブルーベリーにはビタミンAも豊富に含まれています。目、肌、喉などの粘膜保護の効果もあることから、目によいという情報が広がったのではないでしょうか。
- 近視の進行を抑制できるサプリの成分を教えてください
- クチナシの果実やサフランに含まれる黄色の天然色素にクロセチンという成分があります。クロセチンはにんじんやトマトに含まれるカロテノイドの一種です。 近視の進行には、過剰な眼軸長の伸長も原因するので、近視誘導モデルのマウスにクロセチンを投与した結果、眼軸長の過剰伸長と屈折度の変化の抑制が確認されました。さらに、臨床研究では6~12歳の小児がクロセチンを服用したところ、眼軸長の伸長が14%抑制、屈折度数の低下には20%の抑制が確認されたそうです。長期的に近視の予防効果があるかどうかはわかっていませんが、その可能性が期待されて注目されています。
- サプリを摂取する際の注意点を教えてください
- 近視抑制に効果的なサプリメントには、ブルーベリーのアントシアニン効果がうたわれているものがかなりあります。ただし、目のなかにある夜間視力を上げる色素(ロドプシン)を助ける効果はありますが、特に糖尿病網膜症の方にとっては、過度な摂取が血糖値を上げることにつながるので注意が必要です。また、クロセチンを使ったサプリメントは子どもでも服用しやすいという特徴がありますが、屋外活動(バイオレットライト)の補完療法としての効果であるという点にも注意しておきましょう。
サプリ以外で近視の回復や進行を抑制する方法
近視になったときには、まず眼鏡やコンタクトレンズでの矯正方法が一般的ですが、手術をしない視力矯正法や点眼治療、日常生活の改善による進行抑制などもあります。
- 近視は自然に治ることはありますか?
- 成長期に起こる近視においては、レーシックなどの屈折矯正手術では治せますが、自然に治ることはないといわれています。しかし、成人してからの近視には、近視になった要因(パソコンや、スマートフォンの長時間使用など)を避け、点眼治療をすれば、近視の程度は軽くなることもあるようです。
- 日常生活においての注意点を教えてください
- 日常生活で近視の進行を抑制するには、近見作業時は、正しい姿勢と適度な明るさ、30cm以上の視距離をとることです。また、目の疲労軽減には、近見作業を30分以上継続した後は5分以上の休憩が必要です。テレビやゲームでもこの休憩スケジュールを活用しましょう。なお、1日2時間以上の屋外活動で近視になりにくくなることが知られています。さらに早寝早起きしてきちんと朝食をとることも効果的です。
- 近視進行の抑制方法を教えてください
- 近視の進行抑制治療として、低濃度アトロピン点眼による治療があります。1日1回点眼するだけの簡単な治療方法で、近視の進行をおよそ60%軽減できると報告されています。また、手術をしない近視矯正法として、オルソケラトロジー(ナイトレンズ)があります。特殊なコンタクトレンズを寝ているあいだに装用し、角膜の平坦化で、近視を一定時間矯正するのです。1~2ヵ月の継続で日中は裸眼で過ごすことが可能で、近視抑制効果もあります。
さらに注目されているのは屋外活動(バイオレットライト)という近視進行抑制です。バイオレットライトとは、太陽光に含まれる波長360~400nm領域の紫色の光のことです。屋外活動でバイオレットライトを浴びると近視を抑制する遺伝子が活性化され、近視が起こりにくいといわれています。
編集部まとめ
ブルーベリーは目がよくなる、というようなイメージが定着しているせいでしょうか。ブルーベリーが目によいという情報はたくさんあふれていますが、目によい成分はアントシアニンだけではありません。子どもでも服用できるサプリも開発されています。また、外遊びには近視を抑制する効力があることもわかってきました。サプリや治療薬を使うことと、生活環境を改善することも視力には有効であることを知っておきましょう。
参考文献