レーシックは角膜を薄く削ることで、近視などを矯正することでメガネなしで遠くに見えるようになる屈折矯正方法の一つです。しかし、ある事件をきっかけに日本でレーシックを行う方は大きく減りました。本記事ではレーシック手術が減った理由、そして現在主流の治療方法について解説します。
レーシック手術の件数
レーシック手術と聞くとなんとなく危険なイメージを持っている方もいらっしゃるでしょう。世界ではまだ多く行われている手術ですが、日本ではその数が減ってきています。本章では日本と世界のレーシック事情について解説します。
- 日本ではレーシック手術が減っていると聞きましたが本当ですか?
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はい、近年日本におけるレーシック手術の件数は大きく減少しています。レーシックは2000年代前半から普及し、ピーク時の2008年頃には年間約40〜45万件もの手術が行われました。
しかしその後、2009年に都内クリニックで発生した銀座眼科事件をきっかけに信頼が落ちてしまい、レーシック症例数は2008年の約45万件から2014年には約5万件と、9分の1以下に激減したと報告されています。
この事件では手術器具の不十分な滅菌が原因で複数の患者さんに角膜炎が発症し、当時大きく報道されました。その後も術後の不調に苦しむレーシック難民の存在や患者さんによる集団訴訟、厚生労働省や消費者庁からの注意喚起などが相次ぎ、日本のレーシック件数は急減しました。
現在では、国内のレーシック実施数は年間約2万件と推定されており、ピーク時から大幅に減った状態が続いています。この減少傾向は一時的なものではなく、長期的に見ても日本ではレーシック離れが起きているのが現状です。
- 海外でもレーシック手術の件数は減っていますか?
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海外においても、日本ほど極端ではないもののレーシック手術の件数はピーク時より減少傾向にあります。例えば、米国では、レーシックが1990年代後半から急速に普及し、2000年前後には年間約140万件に達しましたが、その後経済状況の影響もあって減少に転じました。直近10年間ほどは米国では年間60万〜80万件程度で推移し、大きな増加には戻っていないと報告されています。
ヨーロッパなどほかの地域でも2000年代後半以降はレーシック件数が頭打ちになったり減った国が多く、2008年の世界的な金融危機(リーマンショック)前後から需要が落ち込んだ例が見られます。一方で、中国やインドなど人口規模が大きい国では依然としてレーシック件数が多く、こうした国々が全体の件数を支えている面もあります。
レーシック手術の件数が減少した背景
日本ではレーシック手術の件数が減少しています。そこには一つの大きな事件が関わっています。本章ではレーシック手術が減少したきっかけについて詳細に解説します。
- レーシック手術の件数が減少したきっかけを教えてください。
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日本でレーシック離れが起きた直接のきっかけとして、2009年に起きた銀座眼科での集団感染事件が挙げられます。この事件では適切な衛生管理が欠如していたために複数の患者さんが角膜感染症を発症し、元院長が業務上過失傷害で有罪となりました。
この一連の報道によりレーシックへの不安が一気に広まり、翌2009年から手術件数が急減し始めました。さらにその後も、術後に十分なフォローを受けられず視力障害や痛みに苦しむ患者さんがレーシック難民として社会問題化したこと、一部の患者さんによる集団訴訟、そして行政による注意喚起が相次いだことなどが背景にあります。
また、消費者庁も2013年に「安易に手術を受けることは避け、リスク説明を十分受けましょう」とする注意喚起を公表し、術後被害情報やトラブル事例を公表しています。こうしたネガティブな情報の蓄積がマスメディアやインターネット上で広まった結果、「レーシックは危険ではないか」という世間のイメージが強まり、手術希望者が減少したと考えられます。
- レーシック手術の件数が減少しているのは、効果に問題があったからですか?
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レーシックが敬遠されるようになった主因は上述のとおり安全面の不安であり、手術の有効性そのものが否定されたわけではありません。実際、レーシックは適切な適応判断のもとで正しく施術されれば高い視力矯正効果を発揮します。
国内外で蓄積された研究論文は7,000報以上に上り、その有効性と安全性が支持されています。件数減少の背景には、むしろ一部の施設で術前検査や衛生管理が不十分だったこと、リスク説明が不足していたことなど運用上の問題が大きいのです。
- レーシックの後遺症や失敗症例を教えてください。
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レーシックは高い成功率を誇りますが、まれながら起こりうる合併症や後遺症がいくつか知られています。代表的なものとしてドライアイがあります。角膜をレーザーで削る際に角膜の知覚神経が一時的に傷つくため、術後しばらく涙の分泌が減って目が乾きやすくなるのです。多くは時間とともに改善しますが、人によっては長期間ドライアイ症状が続く例もあります。
次に過矯正による遠視化も問題となり得ます。視力を出そうとし過ぎた結果、必要以上に角膜を削ってしまうと、術後に軽度の遠視状態になってしまう場合があります。遠視になると近くも遠くもピントが合いづらく、眼精疲労や頭痛、吐き気などを引き起こすことがあります。
また、ハロー・グレア現象と呼ばれる夜間視力の問題も報告されています。これは夜間に街灯や車のライトがにじんで見えたり、ギラついてまぶしく感じたりする現象で、術後に一時的に生じる方がいます。大半は時間とともに軽減しますが、なかには長く残る例もあります。
その他、手術直後にフラップがずれてしまったり、しわが入ったりするトラブル、角膜が濁る混濁や不正乱視、極めてまれですが手術部位に感染症が起こることもあります。ただし、適切に衛生管理された施設で近年主流の機械を用いた手術が行われれば、感染症やフラップ合併症はまれです。重要なのは、レーシックにもリスクはゼロではないことを理解し、術前に十分な説明を受けたうえで納得して手術を受けることです。医師から示された制限事項を守り、術後も定期検診を受けて適切に対処すれば、多くの場合これらのリスクは予防、軽減することできます。
主流の近視治療法
レーシック手術が減ってきている一方で、日本ではさまざまな新しい治療が行われています。本章では現在、日本の主流な近視治療法について解説します。
- レーシック手術の代わりに主流となった近視の治療法を教えてください。
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日本で特に主流となっているのがICL(Implantable Collamer Lens)と呼ばれる手術です。ICL手術では角膜を削らず、目の中(虹彩と水晶体の間)に小さな特殊レンズを挿入して視力を矯正します。日本では2010年に厚生労働省の承認を受けて導入され、2014年に改良型のホールICLが認可されて安全性が向上しました。
現在、日本でもICLを選択する方が増えてきています。ICLを選ぶ理由として、角膜を削らない可逆的な手術である安心感や、強度近視でも対応できる適応範囲の広さがあります。特に、レーシックに不安を感じる層がICLに流れているような印象があります。
SMILE(スマイル)と呼ばれる新しいレーザー近視矯正手術も登場しています。SMILE(Small Incision Lenticule Extraction)は角膜にフラップを作らないため傷が小さく、理論的にはレーシックより角膜神経へのダメージが少なくドライアイのリスクを下げるとされています。また、フラップがないことで術後のケガにも強くなります。SMILEは2010年代に実用化され、日本でも2018年に承認を受けて一部の施設で導入されています。世界的には中国を中心にSMILE症例数が増えており、中国では近年SMILEがレーシックに次ぐ人気手術となって増加傾向にあります。
- 新しいレーシック手術は昔のレーシック手術よりも進化していますか?
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はい、レーシックの技術自体もこの20年ほどで大きく進化しています。初期のレーシック手術では角膜のフラップを作る際に機械式のマイクロケラトームというカンナ状の装置を使っていましたが、現在ではフェムトセカンドレーザーによって精密にフラップを作成するのが主流です。また、角膜を削るエキシマレーザー照射についても、オーダーメイド矯正が可能になっています。
さらに、Eye Trackerによる照射位置補正技術の向上や、角膜形状を詳細に解析する診断装置の発達により、術前の適応判断精度と術中の安全性・精度が格段に上がっています。
まとめ
日本でレーシックが行われることが少なくなってきていますが、用いる機械の進歩によりその安全性と精度は向上しています。それと同時にさまざまな治療法が開発されています。どの手術がよいというわけではなく、それぞれメリットとデメリットがあります。本記事を読むことで、レーシックに対する不安が解消され、さらにほかの治療法を知る機会になれば幸いです。
参考文献