年齢を重ねていくにつれ、生活に密着する健康不安として、眼の病気があるのではないでしょうか。今まで読めていたスマホの文字が読みにくい、暗くなると何か見えづらい、白っぽい膜がかかっている気がする……など、ふとした日常のなかで「眼」に対する不安を感じる人も多いかと思います。そんな不安の中でも「緑内障」は特に怖い病気! というイメージを持っている方も多いはず。しかし、ひとくくりに緑内障といっても、実際には様々な種類があり、治療法の選択肢も少なくありません。正しい「緑内障」の知識をもって予防や受診の参考にしていきましょう。
正常眼圧緑内障とは
物を見るためには、眼球内部の圧力によって眼球を丸い形に保つ必要があります。この圧力を眼圧と呼びますが、眼の中には血液の代わりに栄養を運ぶ房水(水晶体と角膜の間に満たしている液体)が流れていて、この房水も眼圧を保つ役割も担っています。眼圧が高いと緑内障を発症しやすくなりますが、眼圧が正常値内であっても緑内障を発症することがあります。それが正常眼圧緑内障です。 正常眼圧緑内障は、視神経が耐えられる眼圧が低く、正常値でも異常を起こして発症するケースや、視神経の血流悪化によって発症するケースなど、そのメカニズムは解明されていませんが、日本人の緑内障の約7割を占めています。症状は数年かけて進行することが一般的ですが、初期には自覚症状があらわれにくい特徴もあります。ここでは正常眼圧緑内障について、症状と原因について説明していきます。
正常眼圧緑内障の症状
症状のうち最も多いのは、視野欠損(見える範囲が欠けていること)です。しかし、検査で視野欠損が確認されても、自覚症状がないことがよくあります。なぜなら多くの場合、長い期間に少しずつ視神経が傷ついていくため、自分では視野の変化に気づきにくいからです。また、片眼の視野が欠けても両眼で見ることにより、傷ついていない方の眼や脳が欠けた視野を補ってくれるため、視野の欠損を認識できないこともあるのです。 このようなことから、視野欠損が自覚できるようになるのは、ある程度進行した中期以降といわれています。この時期になると、距離を見誤って階段を踏み外す、文章を書くと斜めにずれる、横からでてきた人や自転車に気づきにくい、という見え方の異常が顕著になるケースが多いようです。
正常眼圧緑内障の原因
先述のとおり、発症メカニズムについては解明されていませんが、正常眼圧緑内障では、眼圧が正常範囲内といっても、常に一定の圧力がかかっています。視神経の状態には個人差があるため、眼圧や周辺の血液循環の悪化などの影響が発症にかかわっているとも考えられているようです。
正常眼圧緑内障の検査
緑内障の検査と同様に、正常眼圧緑内障の検査も次の項目で行われている眼科が一般的です。
- 眼圧検査
- 隅角検査
- 眼底検査
- 視野検査
- OCT検査
上記5つの検査について次項で詳しく説明いたします。
眼圧検査
眼圧検査は緑内障の検査としては欠かせない重要な検査です。眼圧は測る時間や季節によっても変化します。また、眼圧は年齢や性別、体格、血圧など様々な要素で変わるもので、個人差が大きいことが特徴です。このように自身の基準値を治療開始前に解っておくことが、その後の治療効果を評価するためにも重要となります。 方法としては、眼球に風を吹きかけ、眼球が風を押し返す力を計測する非接触式の検査をはじめとし、最近ではごく小さなプロープ(針)の跳ね返りから計測する反跳式眼圧計も登場しています。
隅角検査
眼の中には「房水」という液体が循環しています。房水は「毛様体」というところで作られ、「隅角」というところから出ていきます。作られた量と出ていく量が同量であれば、眼圧は一定に保たれます。緑内障では隅角の状態が原因になる場合もあるため、観察する検査が必要となります。検査は専用のコンタクトレンズを眼の上にのせ、光をあてて隅角の状態を観察する内容で、麻酔をしての検査のため痛みは感じません。
眼底検査
眼底には視神経が束になっている「視神経乳頭」があり、眼底検査はその状態と視野検査の結果から緑内障の診断を行う重要な検査です。 検眼鏡検査は、部屋を暗くした状態で、先に瞳孔を広げたうえで眼底を覗き込み、視神経乳頭などを詳細に観察します。周辺部まで眼底観察することにより、眼底全体の状態を把握することができるのです。また、眼底カメラを用いて眼底を撮影して記録に残すことができます。
視野検査
視野とは、視線を動かさずに見ることができる範囲のことです。視野検査はまっすぐ前方を見ている時に、上下左右前方、どのくらいの範囲が見えているかを調べます。ちなみに、正常な人では、片眼につき上方60度、下方75度、鼻側に60度、耳側に100度という広い視野を持っています。人は両眼で物を見ているので、検査では片方の眼を隠さないと自分の眼の視野に異常があるかどうかはわかりません。視野検査ではいろいろな角度や部位から様々な大きさと強さの光を出して、見える範囲を調べます。中心以外の範囲での見え方を調べる検査なので、検査中は正面の固視点をじっと見ていることが大切です。眼を動かして光指標を探さず、正面を見て周辺の見える範囲に光指標があらわれるまで待ちます。 検査方法は、動的視野検査と静的視野検査の2種類です。2つの検査には違いがあり、動的視野検査は大きな半球状の機械を使用して行い、光指標が周辺の見えない領域から中心に向かって、見えるところまで移動していく検査。静的視野検査は半球状の機械もしくは、コンピューター画面を使用して行い、光指標が動かず、いろいろな明るさの小さな指標がついたり消えたりする検査です。
OCT検査
OCT検査を行うことで、眼底検査でも確認する視神経乳頭陥凹拡大の程度やNFLDの確認などを客観的に評価することができます。
正常眼圧緑内障の治療方法
緑内障に対し現在効果が確認されている治療は、眼圧を下げることだと考えられています。これは正常眼圧緑内障でも同じです。どのくらいの眼圧が適切であるかは大きな個人差がありますが、一度傷ついてしまった視神経は、基本的には元に戻ることはありません。緑内障の治療は失明に至る視神経の障害の進行を防ぎ、現状維持を目的としています。早期に発見し、軽度のうちに治療を開始できれば、ほとんど自覚症状がない状態を維持することが可能です。また、眼圧を下げるためには、薬物療法が基本ですが、必要に応じレーザー治療や手術療法を行うこともあります。 多くの緑内障では点眼薬で眼圧を下げることが治療の基本ですが、タイプや重症度、求められる眼圧、全身状態などを考慮しながら、使用する薬の決定がされます。なお、点眼薬以外にも必要に応じて内服薬を使用することもあります。 また、房水の出口である繊維柱帯にレーザーを照射することで房水の排出を促進し、眼圧を下げる方法もあり、この治療により点眼薬を減らせるようになりました。 さらに、薬物療法やレーザー治療において十分に効果が出ない場合には、手術療法も選択肢の一つとなります。最近注目を集めているのが、低侵襲緑内障手術です。医療用チタンでできている小さなインプラントを、房水を排出する組織に埋め込み眼圧の調整を行います。最大のメリットは白内障手術と同時に行うことができるため、視機能の改善と眼圧の改善が同時に期待できる点です。しかし自由診療であるため、治療費が高額となることや副作用のリスクも考慮しなくてはなりません。
正常眼圧緑内障以外の緑内障
正常眼圧緑内障は眼圧が正常値内であるにもかかわらず緑内障を発症する病気であることは前述のとおりです。しかし眼圧の上昇が視神経を傷つけ発症するのが緑内障です。発生要因や症状などにより病気の分類がされています。次項でその分類ごとの病気の違いをお読みください。
そもそもどのような分類があるか
緑内障には正常眼圧緑内障を含め、大きくわけて次の5つの分類があるといわれています。
- 開放隅角緑内障
- 正常眼圧緑内障
- 閉塞隅角緑内障
- 発達緑内障
- 続発緑内障
次に各分類の特徴を説明します。
開放隅角緑内障とは
開放隅角緑内障とは、眼圧が高くなることで視神経が圧迫される状態です。具体的には房水による圧力を眼圧と呼びますが、眼球内に過剰な房水が溜まると眼圧は上昇します。その結果、眼球が視神経を圧迫し、視野が欠けるなどの症状があらわれます。正常眼圧緑内障も広義においては開放隅角緑内障に入りますが、正常な眼圧内でも起こるのが正常眼圧緑内障である点から分類は2つにわかれます。単純に開放隅角緑内障という場合は分類上、正常眼圧緑内障は含まれないようです。なお、症状は視野狭窄が主なものですが、進行はゆるやかで自覚しにくいため診断が遅れる原因となっています。その点も正常眼圧緑内障と類似しているといえるでしょう。
閉塞隅角緑内障とは
閉塞隅角緑内障とは、隅角(房水の排出口)が閉じて起こる緑内障です。何らかの原因で隅角が完全に閉じると、房水が排出されなくなり、眼球内に房水が過剰に蓄積され、眼圧が上昇。その影響で視神経が圧迫されます。この病気は急激に発症し、一気に重症化しやすいのが特徴です。短時間で失明することもあるため、異変に気づいたらすぐに眼科を受診してください。症状は激しい眼の痛み、頭痛、吐き気などで両眼に同じ症状があらわれることが多いようですが、片眼だけに症状がある場合もあります。
発達緑内障とは
発達緑内障は、先天性の緑内障です。早期型と遅発型の2種類に分けられ、早期型は、生後1歳未満で発症します。主な症状として「涙が多くでる、光を異常にまぶしがる、まぶたがピクピクけいれんする、黒目が混濁する、黒目が大きく見える」などがあげられます。原因の一つとしては遺伝子異常が考えられており、治療は外科手術が代表的です。 また、遅発型は10歳から20歳の間に発症するといわれ、症状は視野狭窄などで、若年者の緑内障も発見が遅れやすいという傾向にあります。理由は、一般的に緑内障は高齢者の病気というイメージが強く、また症状の進行がゆるやかで自覚症状もないことが多いためです。重症化して初めて気づくことも少なくありません。
続発緑内障とは
続発緑内障は二次的な原因で引き起こされる緑内障のことです。具体的な原因としては「眼のケガや病気、医薬品の副作用、全身疾患」などが代表的です。眼のケガや病気の主なものは「ぶどう膜炎、網膜虚血性病変、白内障手術、角膜移植、眼内腫瘍、外傷」などです。また、医薬品の副作用としては、ステロイド薬の長期使用による眼圧上昇などで、全身疾患の例としては「アミロイドーシス、糖尿病、ベーチェット病」があります。多くの場合、症状はゆるやかに進行しますが、急性の場合は、眼痛、頭痛、吐き気などの症状が急激にあらわれる場合もあります。
緑内障の典型的な症状
緑内障の典型的な症状は、見える範囲が徐々に狭くなる視野狭窄です。初期には、視野の真ん中がかすんだように見えにくくなり、症状の進行に伴って、かすみの範囲が徐々に広がっていきます。緑内障の多くは長年かけてゆっくり進行するので視覚の違和感はほとんどなく、失明直前まで自覚症状と認識できないケースも少なくありません。眼圧検査は保険組合や自治体の健康診断でも受けられることが多いので、定期的に健康診断を受けるようにしましょう。
緑内障の主な要因
緑内障の原因は、眼圧の上昇により視神経が圧迫されることですが、その要因は、はっきりと解明されていません。一説では「生活習慣病(高血圧、糖尿病など)、加齢、強度の近視、遺伝、眼の病気や手術経験(白内障や硝子体異常)、薬の副作用、眼周辺の血流悪化」などがいわれています。
緑内障の予防方法
発症原因が解明されていないため、有効な予防方法も確立されていませんが、緑内障の危険因子は不規則な生活習慣とも指摘されています。そのため、緑内障のリスクを下げるためには、生活習慣の改善が大切です。栄養バランスのとれた食事や適度の運動はストレス発散に役立ち、良質な睡眠をとることにより規則正しい生活リズムを身につけられます。また定期的な健康診断を受けることも、予防の重要なポイントとなることでしょう。
まとめ
正常眼圧緑内障は緑内障の7割を占める病気です。40歳を超えると発症リスクが上がるといわれていますが、まだ解明されていないことも多くあります。しかし、発症リスクには、生活習慣による影響の可能性も示唆されています。緑内障に限らず、若年期を卒業したら生活習慣の見直しが大切です。心身ともに健やかに過ごすことは、バランスのとれた食生活や、運動や趣味によるストレス解消、定期的な健康診断の受診など、ちょっとした心がけで実現できます。緑内障の理解と共に日常生活の見直しをはじめてみてはいかがでしょうか。
参考文献