白内障とは目の中でレンズの役割を果たす水晶体が、加齢・紫外線・糖尿病などによって濁り、見えにくくなってしまう病気のことです。
50歳代では約45%・60歳代で約75%・70歳代で90%・80歳代では100%が罹患するといわれています。
残念ながら完全に予防する方法はなく、白内障の根本的な治療は手術しかありません。高齢化の進んだ現在の日本では、眼科医師の行っている手術の約85%が白内障手術といわれるほどです。
この記事では、白内障手術のメリット・デメリットや、治療法・予防対策について解説します。
これから白内障手術を受けられる方や、白内障が疑われる方は、ぜひ参考にしてください。
白内障は治る?手術のメリット・デメリット
- 白内障は自力で治すことができますか?
- 残念ながら自力で治すことはできません。白内障の主な原因は加齢のため、進行してしまうと元には戻らないのです。そのため、眼科で処方される点眼薬か手術による専門の治療が必要になります。
ただ点眼薬は、発症初期の段階で進行を抑えるためには効果を発揮しますが、一度濁ってしまった水晶体を改善させることはできません。したがって、ものが見えにくい・眩しいといった症状が現れて白内障が進行してしまった場合には手術が必要になります。
- 白内障手術のメリットを教えてください。
- 人工レンズを入れることで濁りがなくなるため、ものが見えやすくなり、大半の方の視力が改善します。また白内障だけでなく、乱視・近視・遠視などの軽減も期待できます。水晶体が加齢とともに濁ってしまうのを防ぐことはできません。
しかし症状が重くならないうちに手術をすれば、合併症を発症することなくスムーズに治療ができるのです。1990年代半ば、シリコンやアクリル樹脂の、やわらかく折り曲げても元の形に戻る眼内レンズが導入されました。そのような技術の向上により、現在の白内障手術は非常に安全性の高い治療となっています。
しかも一度手術を行えば、白内障が再発することはありません。体調や生活環境にもよりますが、日帰り手術が可能なのもメリットといえるでしょう。
- 白内障手術にはデメリットはありますか?
- 白内障手術は安全性が高いといわれていますが、稀に手術中や手術後に合併症を引き起こしてしまう場合があります。
特に頻度の高いものは、白内障の手術後5年で約20%の確率で発症するといわれている後発白内障です。眼内レンズの後方に接する水晶体嚢の後ろ側の部分に混濁が生じ、白内障に似た症状が現れます。
視力低下や、まぶしい・かすんで見えるといった症状を自覚したら眼科を受診しましょう。外来による2~3分のレーザー治療で、痛みもほとんどなく症状を改善することができます。
このように、ほとんどの合併症は適切な処置により回復できますが、細菌性眼内炎には注意が必要です。罹患するのは2,000〜5,000人に1人と極めて稀ですが、放置すると失明の危険性もあります。手術後3~7日ごろに急に見えにくくなったり、強い痛み・充血がみられたりするときは、早急に手術を受けた医療機関を受診しましょう。
白内障を治すための治療法
- 白内障の治療法について教えてください。
- 日常生活に支障が出ていない場合は、点眼治療が施されます。白内障の進行を遅くするピレノキシンかグルタチオンという点眼薬で、あくまでも白内障の進行を抑えるためのものです。点眼治療によって水晶体が透明に戻ることはありません。白内障の根本的な治療は手術以外にはないのです。
下記のような症状が現れて生活に支障が出はじめた場合は、外科手術によって人工レンズを挿入する必要があるでしょう。- 仕事に影響が出るほどの視力低下がある
- 外の光がまぶしく、極端にものが見えにくくなった
- 視力が0.7以下まで低下したため、運転免許証の更新ができない
少しでも早く適切な治療を受けるために、上記のような症状がみられたときは、すぐに眼科を受診してください。
- 白内障手術前にしてはいけないことはありますか?
- 感染症の予防や手術後の生活に備えるために、以下のことを忘れてはいけません。
- 処方された抗生剤の点眼を必ず行ってください。回数は多いですが、もし忘れると手術ができない場合があります。
- 手術当日の朝ごはんは、通常通りに食べてきてください。
- 手術後はしばらく通常の洗顔ができないため、手術当日の朝はしっかり洗顔してください。
- 手術中にメイクの粉などが目の中に入ると、感染症を起こす場合がありますので、手術当日は決してメイクをしないでください。
- 白内障手術の流れを教えてください。
- 白内障の手術では、白濁した水晶体を取り除いて人工レンズを眼内に入れます。手術の流れは以下のとおりです。
- 局所麻酔をする
- 角膜(黒目)の端に、器具を通す入口を作るため切開し、水晶体を包んでいる水晶体嚢(すいしょうたいのう)という袋の前面に2~3mm程度の切り込みを入れる
- 切り込みを入れた箇所から超音波乳化吸引器を挿入し、水晶体嚢内の濁った水晶体を砕いて吸引し、摘出する
- 取り除いた水晶体の代わりに人工レンズを移植して、ピントが合うように調整する
手術の時間は、15~30分程度です。局部麻酔をしているため手術中に痛みを感じることはありません。
- 白内障治療の費用相場を教えてください。
- 白内障の手術費用は保険適用です。健康保険の負担の割合によって手術費用は変わり、薬代によっても多少の前後があります。
- 1割負担の方で約15,000円
- 2割負担の方で約30,000円
- 3割負担の方で約45,000円
上記は片眼の手術費用となり、両眼の場合はこの倍額となります。
白内障の予防対策や受診目安
- 予防のために日ごろできる対策法はありますか?
- 白内障は誰にでも起こりうるため完全に予防することはできませんが、以下の方法を日常生活に取り入れることで、発症を遅らせる可能性があります。
- 紫外線から目を守る
- 食生活の改善
- 適度に運動をする
- 禁煙する
- 目薬を使う
紫外線は白内障だけでなく、ほかの眼科疾患にも悪影響を及ぼします。曇っていても紫外線の量は多いといわれているので、外出時には注意が必要です。特に長時間外に居る場合は、紫外線カット機能のついたサングラス・つばの長い帽子を着用するようにしましょう。
また、白内障は血液中の糖由来の糖化ストレスや、酸化ストレスによって発症するともいわれています。したがって白内障の予防のためには 食生活を見直す必要もあるのです。糖化ストレスを減らすために血液中の糖を減らすこと・酸化ストレスを減らすため抗酸化作用のある栄養素を摂取することを心がけましょう。
適度な運動も大切です。特にウォーキング・ジョギング・水泳などの有酸素運動によって身体は酸化ストレスから守られます。また、喫煙者はタバコを控えるようにしましょう。
白内障・緑内障・加齢黄斑変性など目の疾患は、タバコとの関連が指摘されているのです。 禁煙が難しいようでしたら、徐々に本数を減らすようにするとよいでしょう。さらに白内障の進行防止には目薬が有効です。眼科で 白内障の目薬を処方されたら、用法・用量を守って点眼しましょう
- 白内障早期発見のための受診目安はありますか?
- 白内障により水晶体が濁ってしまうと、メガネをかけても見えにくさは改善されません。したがってメガネをかけていても、ものが見えにくい場合は白内障を疑ってよいでしょう。そのような視力の低下のほかにも、以下のような症状が現れたら、ただちに眼科を受診してください。
- 白っぽく霞んで見える
- ものが二重に見える
- ぼやけて見える
- 屋外に出ると光が眩しい
- 薄暗いところで中間色がわかりにくい(薄暗いときに段差がわかりにくいなど)
白内障の初期段階では症状が実感しにくいため、なかなか自分で気づくことは難しいのです。早期発見のためには、眼科で定期的な検診を受けるのがよいでしょう。
- 手術後の生活で気を付けることはありますか?
- 術後2~3ヶ月は医師が処方した点眼をする必要があります。手術直後に感じるまぶしさは時間とともに軽減されていきますが、もし続くような場合は サングラスをかけましょう。また術後1週間程度、外出時や就寝時にゴーグルを使用すると、感染症の予防や目の保護に役立ちます。
また、水・洗顔料・シャンプーが目に入らないように、術後1週間の洗顔・洗髪・入浴は控えましょう。首から下のシャワーは手術翌日から可能です。かたく絞ったタオルで目を避けながら顔を拭くのは当日から可能ですが、術後1週間経過して許可が出たら、眼球を圧迫しないように注意しながら洗顔しましょう。
術後1週間経って洗髪を開始するときも、初めのうちはシャンプーが目に入らないように気を付けてください。食事は制限がありませんが、お酒には炎症を悪化させるリスクがあるため、手術後約1週間は控えましょう。タバコの煙も術後の目には刺激となります。お酒と同様に1週間は控えるのが望ましいでしょう。
編集部まとめ
老化現象のひとつである白内障は、高齢になれば誰もが発症する可能性のある病気です。そしてその根本的な治療には手術しか方法がありません。
一度の手術で完治するとはいえ、眼にメスを入れるとなれば、大半の方が恐怖心を覚えるでしょう。
しかし局部麻酔によって手術中に痛みを感じることはほとんどないといわれ、早ければ15分ほどで終わってしまいます。技術の向上により、現在行われている 白内障手術は安全性が高い治療です。
感染症を予防するため、術後1週間ほど入浴が規制され、日常生活が少し不自由になってしまいます。 しかし手術によって見る景色が鮮明に変わる喜びは、何ものにも代えがたいものです。
もし白内障を疑う症状が出たときには、すぐに眼科を受診してください。適切な治療を行うことで、視界は明るく広がっていくでしょう。
参考文献