ぶどう膜炎とは、眼球の中にある「ぶどう膜」に炎症が起きた状態のことです。では、なぜぶどう膜に炎症が起きてしまうのでしょうか。
この記事では、ぶどう膜に炎症が起こる原因・ぶどう膜炎になった場合の自覚症状などについて解説します。
記事の後半では、医療機関を受診した場合に行う検査・治療についても解説するため「自分はぶどう膜炎かも」と考えている方も参考にしていただけたらと思います。
ぶどう膜炎の原因は?
眼球内にある虹彩(こうさい)・毛様体(もうようたい)・脈絡膜(みゃくらくまく)を、まとめて「ぶどう膜」と呼びます。
ぶどう膜は白目(強膜)よりも内側にあるため、外気に触れることはありません。しかし、血管が非常に多いため炎症を起こしやすい組織です。
炎症の原因は、大きく感染症・非感染症の2つに分けられます。それぞれにどのような原因が含まれるのか、次の見出しから詳しくみてみましょう。
感染性のぶどう膜炎
まずは、感染性のぶどう膜炎について原因を解説します。感染の原因となる菌はどのようなものなのでしょうか。
細菌・真菌感染
感染性ぶどう膜炎の原因は、細菌や真菌(カビ)などです。細菌にはさまざまな種類があり、眼科疾患のイメージがない細菌もぶどう膜炎の原因になることがあります。
たとえば、肺に感染するイメージが強い結核菌、性感染症として知られる梅毒をひきおこす梅毒トレポネーマも、ぶどう膜炎の原因菌です。
ウイルス感染
ぶどう膜炎の原因となるウイルスとしては、単純ヘルペスウイルス・水痘帯状疱疹ウイルス・サイトメガロウイルスなどが挙げられます。
単純ヘルペスウイルス・水痘帯状疱疹ウイルスの代表的な症状は皮膚症状であり、またサイトメガロウイルスに感染すると発熱・倦怠感などがみられます。
非感染性のぶどう膜炎
次に、非感染性のぶどう膜炎について、原因となる主な病気を解説します。ぶどう膜炎の原因となる病気として代表的なものは、原田病・サルコイドーシス・ベーチェット病などです。
それぞれどのような病気で、なぜぶどう膜炎に繋がりやすいのでしょうか。疾患の症状とともに、ぶどう膜炎との関連についても解説します。
原田病
原田病とは、全身に症状が現れる炎症性疾患です。原因は、自分自身の体内にあるメラニン色素に対して免疫が異常に反応してしまうことだといわれています。
そのため、欧米の方よりもメラニン色素の多いアジアでの発症率が高い病気です。症状が現れやすい部位の1つとして、メラニン色素の多い組織である虹彩(黒目)や脈絡膜が挙げられます。
虹彩や脈絡膜はぶどう膜を構成する組織なので、原田病の方はぶどう膜炎になる可能性が高いといえるでしょう。
サルコイドーシス
サルコイドーシスは、全身のさまざまな臓器に肉芽腫ができる難病です。日本国内の調査では、サルコイドーシス自体は10万人に1.7人と発症率の高い病気ではありません。
しかし、ぶどう膜炎のなかでは最も多い原因疾患で、原因の10%ほどを占めるといわれています。
肉芽腫ができる臓器により症状は異なりますが、ぶどう膜に肉芽腫が発生することで炎症が起こりやすくなり、ぶどう膜炎の発症に繋がります。
日本国内では、ぶどう膜炎など眼の症状をきっかけにサルコイドーシスと診断されるケースも多いです。
ベーチェット病
ベーチェット病は、免疫の異常反応により口内炎・関節炎・皮膚の紅斑・外陰部の潰瘍など全身性の炎症が起こる難病です。
ベーチェット病の方は、ぶどう膜の一部である虹彩・毛様体にも炎症を起こしやすく、ぶどう膜炎になるリスクが高いといえます。
日本では、ベーチェット病により特定疾患医療助成制度を受給している方が約2万人いるため、推定患者数は2万人程度か、それより少し多い程度です。
なお、ベーチェット病・サルコイドーシスは厚生労働省が指定する「指定難病」となっているため、もし診断されると医療費の助成制度を利用できる可能性があります。
助成制度の詳細・対象となるかどうかなどが気になる方は、診断を受けた医療機関で相談すると良いでしょう。
原因不明
ぶどう膜炎の30~40%は、さまざまな検査を行っても原因が特定できません。
このように原因が不明なぶどう膜炎を「特発性ぶどう膜炎」と呼びます。
ぶどう膜炎の症状
さまざまな原因で起こるぶどう膜炎ですが、もしぶどう膜炎にかかるとどのような症状が現れるのでしょうか。
視覚の症状を中心に、眼の見ため・全身の症状についても紹介します。気になる症状がある方は、受診の際の参考にしていただけたらと思います。
霧視
霧視(むし)とは、目がかすんで見える症状のことです。原因の多くはゆっくりと視力が低下することで、ぶどう膜炎以外にも下記の病気で頻繁に見られます。
- 屈折異常
- 加齢黄斑変性
- 白内障
- 糖尿病網膜症
飛蚊症
飛蚊症(ひぶんしょう)とは、実際には目の前には何もないにもかかわらず黒い粒・糸くずのような物が漂っているように見える症状です。
飛蚊症の直接的な原因は、眼球の中にある硝子体(しょうしたい)の濁りで、硝子体が濁る理由の1つとして眼内の炎症が挙げられます。
ぶどう膜炎になった場合も、本来は無色透明であるはずの硝子体が濁り、飛蚊症を自覚する方がいるでしょう。
羞明感
羞明感(しゅうめいかん)とは、一般的にはまぶしいと感じない明るさに対して苦痛・不便を感じるほど視界がまぶしいと感じることです。
ぶどう膜炎になると羞明感をおぼえる理由は、飛蚊症と同じく硝子体が濁ることとされています。視界がぼんやりと白っぽく濁ることで、光を強く感じやすくなるのです。
その他の症状
ここまで「見え方」についての症状を3つ紹介しましたが、そのほかに眼痛・充血などの症状が見られることがあります。
ここまで紹介した症状は、両眼同時に起こることもあれば片眼だけに現れる場合もあるでしょう。
また、全身性疾患が原因の場合は、眼の不調以外の症状を伴う可能性があるため注意が必要です。
たとえば、ベーチェット病・原田病で現れる全身の症状には下記のようなものがあります。
- 再発を繰り返す口内炎
- 陰部の潰瘍
- 毛嚢炎
- 頭痛
- 発熱
- 知覚過敏
- 耳鳴り
そのため、上記のような症状で受診した場合は「ここは眼科だから」と遠慮せず、口内炎の頻発や関節炎など気になる症状も併せて伝えてみましょう。
全身性の症状があるという情報が、ぶどう膜炎だけでなく原因疾患を診断する手がかりになる可能性があります。
ぶどう膜炎の検査
ここまで紹介したような症状からぶどう膜炎が疑われる場合には、医療機関ではどのような検査を行うのでしょうか。
「ぶどう膜炎」と診断するための一般的な検査と、病気の原因を特定するための検査について詳しく解説します。
眼の一般的検査
眼科で行う一般的な検査としては、視力検査のほかに眼圧検査・視野検査・眼底検査・細隙灯顕微鏡検査などがあります。
ぶどう膜炎では、硝子体の濁りにより視力が低下する場合があるでしょう。また、炎症が網膜まで及んだことで急激な視力低下・視野欠損をきたすこともあります。
そのため、視力検査で視力低下が起こっていないか・視野に欠けている部分がないかなどを確認することは重要です。
次に、眼圧検査とは眼球内部から外に向かってかかっている圧力(眼球内圧)を測定する検査です。
眼球はいくつかの膜が重なってできた風船のような構造ですが、眼内にある房水という液体によって圧力に保たれているためハリのある球形を保っています。
しかし、眼内に異常が起こることで房水が生産される量・流出する量のバランスが取れなくなり、眼圧が変化する場合があるのです。
ぶどう膜炎でも、房水の調節に深くかかわっている毛様体に炎症が起こったことにより眼圧が急激に変化することがあるため、眼圧検査を行います。
3番目の眼底検査とは網膜・視神経の状態を確認するための検査です。写真を撮る検査なので、痛みを伴わずに眼内の様子を観察できるでしょう。
眼底検査では、炎症が広がったことによる網膜出血、原田病による脈絡膜のメラニン細胞崩壊、サルコイドーシスに特徴的な数珠状の硝子体混濁などが確認できます。
4番目の細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査はスリット状の細い光を目に当てながら顕微鏡で結膜・角膜・虹彩・瞳孔・水晶体などを観察する検査です。
ぶどう膜炎になると炎症細胞が房水の中に漂ったり、炎症によってにじみ出た体液・組織により虹彩が水晶体と癒着している様子が観察できます。
蛍光眼底造影
蛍光眼底造影検査は、点滴で造影剤を入れたあとで眼底写真を撮影する検査です。使用する造影剤は眼底写真では蛍光色に映ります。
そのため、炎症を起こして脆くなった血管から造影剤が漏出している様子なども鮮明に確認することができるでしょう。
また、炎症により血管が傷つき新たに新生血管が発生した様子などからも炎症が起きている場所を詳しく知ることができます。
その他の検査
上記の検査では、原因となる病気ごとに特徴的な所見がみられることもあります。また、眼内の状態から「ぶどう膜炎である」という診断はできるでしょう。
しかし、全身性疾患・感染によるぶどう膜炎は、眼の検査だけでは原因が特定できないこともあります。
このような場合は、ここまで紹介した検査のほかにも検査が必要です。
たとえば、全身性疾患が疑われる場合には血液検査・尿検査・X線検査などを行い、眼のほかにも炎症・肉腫の発生などがみられるかなどを確認します。
また、感染が疑われる場合には原因となる菌・ウイルスを特定することが重要です。
そのため、眼球内にある房水を採取して、含まれるウイルスの遺伝子検査・菌の培養検査などをします。
そのほかに、結核菌によるぶどう膜炎が疑われる場合にはツベルクリン検査を、梅毒が疑われる場合には採血による梅毒の検査などを行うこともあります。
ぶどう膜炎の治療
上記のような検査の結果「ぶどう膜炎」と診断された場合には、どのような治療を行うのでしょうか。
ぶどう膜炎の治療は薬剤療法が中心です。状況ごとに、どのような薬を使用するのか代表的なものを紹介します。
ステロイドによる治療
ぶどう膜炎の主な治療は、炎症を抑えることです。消炎のためには「ステロイド」と呼ばれる副腎皮質ホルモン剤を使用することが多いでしょう。
炎症が眼内にとどまっている場合には、まず点眼薬でのステロイド投与を始めます。その後は、炎症の広がりによって眼局所注射など投与方法の検討が必要です。
もし炎症が全身性のものだった場合には、点滴や内服薬など全身に届く方法でノステロイド投与を行います。
ステロイドは炎症を抑える効果が高い薬剤ですが、複数の副作用が報告されている点には注意が必要です。
投与開始後は、定期的に診察を行い眼の状態・副作用の強さなどを確認する必要があります。ステロイドの副作用による合併症としては白内障・緑内障などが報告されています。
散瞳薬による治療
散瞳薬とは、点眼することで瞳孔を開いた状態にする薬です。眼底検査で眼の中をよく観察するために使用することが多いですが、治療にも使用することがあります。
たとえば、ぶどう膜炎の患者さんは炎症による虹彩と水晶体の癒着を起こしやすい状態です。この癒着を防ぐために散瞳薬が役立ちます。
散瞳薬を使用すると瞳孔が開くため、一定の時間は「まぶしい」「見え方が普段と異なる」などの影響が出るという点には注意が必要です。
免疫抑制剤による治療
非感染性のぶどう膜炎のなかには、免疫機能が過剰にはたらくことによって起こるものがあります。
そのため、炎症が強い・繰り返すといった場合には、免疫の働きを抑制するための薬を使用して治療する場合があります。
また、いま起きている炎症を抑えるためだけではなく、繰り返す炎症発作を予防するために免疫抑制剤を使用する場合もあるでしょう。
生物学的製剤による治療
私たちの細胞同士が情報をやり取りする際に分泌するのが「サイトカイン」というタンパク質です。
このサイトカインは免疫が正常に働くために必要な物質ですが、ぶどう膜炎のような炎症性疾患の発生・悪化にも関与していることが分かってきました。
そのため、ぶどう膜炎の治療では特定のサイトカインの働きを抑える「生物学的製剤」という薬を使用することがあります。
まとめ
ぶどう膜炎は、眼内にある虹彩・毛様体・脈絡膜といった組織が炎症を起こした状態で、細菌・ウイルスのほか全身の炎症性疾患などが主な原因となります。
ぶどう膜炎になると、目の充血や眼痛のほか、目のかすみや飛蚊症がきっかけで「何か目がおかしい」と気付く方もいるでしょう。
放置すると視力低下によって不便を感じるだけでなく、網膜まで広がった炎症・合併症などにより失明につながることもあるため注意が必要です。
原因ごとの適切な治療を受けるためには、見え方・目の様子に違和感をおぼえたら、早期に眼科を専門とする医療機関に相談することをおすすめします。
参考文献
- 小児ぶどう膜炎(内眼炎)の診断と治療
- ぶどう膜炎の治療の進歩
- ぶどう膜炎|日本眼炎症学会
- Vogt-小柳-原田病|日本眼炎症学会
- サルコイドーシス(指定難病84)|公益財団法人 難病医学研究財団
- ベーチェット病(指定難病56)|公益財団法人 難病医学研究財団
- 指定難病患者への医療費助成制度のご案内|公益財団法人 難病医学研究財団
- ぶどう膜炎 なぜ? どうしたらいいの|公益社団法人 日本眼科医会
- 目の定期検査のすすめ|公益社団法人 日本眼科医会
- ヘルペスと帯状疱疹|公益社団法人 日本皮膚科学会
- サイトメガロウイルス感染症とは|NIID 国立感染症研究所
- 「かすむ(霧視)」原因と考えられている病気一覧|公益財団法人 日本眼科学会
- 「視界に動くモノが見える(飛蚊症)」原因と考えられている病気一覧|公益財団法人 日本眼科学会
- 「まぶしい(羞明)」原因と考えられている病気一覧|公益財団法人 日本眼科学会
- ぶどう膜炎診療ガイドライン
- 眼底検査の基礎知識|公益財団法人 栃木県保健衛生事業団