ICLは眼内コンタクトレンズともいい、その名前のとおり、目のなかにコンタクトレンズを挿入する視力矯正手術のことです。レーシック手術ができない人にも適応できるため、幅広い層に適した治療といえるでしょう。安全性が高いとされるICLですが、デメリットやリスクにはどのようなものがあるのでしょうか。ICL手術を受けるにあたって知っておきたい点や費用について解説します。
ICL(眼内コンタクトレンズ)とは
ICLとはImplantable Collamer Lensの略で、眼内コンタクトレンズとも呼ばれています。世界中で治療されており、安全性の高い視力矯正手術として注目を集めているICLとは、どのような治療なのでしょうか。
ICLの仕組み
目に入ってきた光は、カメラのレンズの役割をする角膜や水晶体をとおって、目の奥にある網膜へ届きます。レンズの役割をする角膜や水晶体のピント調節がうまくできないことで、近視が発生するのです。
ICLは角膜と水晶体との間にコンタクトレンズを挿入することで、ピント調節を正常化して視力を矯正する仕組みです。切開創は約3mmと小さく、縫合も不要な手術です。メリットとしては、安全性が高いこと、長期的な視力の安定が期待できること、万が一の場合はもとに戻せることなどが挙げられます。
ICLに向いている人
ICLは、アレルギー性結膜炎などが理由で通常のコンタクトレンズが装着しにくい人や、裸眼でクリアな視界を手に入れたい人などにおすすめの手術です。レーシック手術が適応されなかった人でも、ICLなら受けられることもあります。ICLは近視度数‐3.0D~‐18.0Dが適応できる範囲とされています。強度近視や角膜が薄い人などにとっては、レーシックよりもICLに向いているといえます。
ICL手術が受けられない人
ICL手術が行える条件に、原則21歳以上であること、角膜内細胞密度や前房深度が規定以上であること、手術前1年の視力が安定していること、屈折変化が小さいことなどがあります。高齢になってからの手術になると、水晶体に加齢性の変化が起こるため、45歳くらいまでの手術が望ましいとされています。
これらの条件以外にも、目に活動性の炎症があったり、創傷治癒に影響のある基礎疾患を持っている人、白内障に罹患している、妊娠中や授乳中の女性など、医師が手術に適さないと判断した場合はICL手術は受けられません。自分が手術に適応できるかどうかは、専門クリニックにて事前のカウンセリングや検査でチェックしてもらいましょう。
レーシックとICLの違い
ICL以外の視力矯正手術で広く知られているのがレーシックです。レーシックは、角膜に専用のレーザーを照射して、光の屈折機能を調整することで視力を矯正する手術方法です。近視、遠視、乱視を治すことができ、国内では2000年に厚生労働省から認可されて以降、たくさんの治療経験のある手術です。レーシックとICLにはどのような違いがあるか解説していきます。
手術の適応範囲
レーシックとICLの手術適応の条件には共通点があります。
- 視力が安定している
- 手術ができないようなほかの眼疾患がない
- 糖尿病や膠原病といった全身疾患がない
レーシックとICLの手術適応の違いに角膜の厚さがあげられます。
レーシックでは、角膜の厚さや形状に問題がなくて‐6.00Dまでの近視であればレーシックが適応になります。一方、ICLでは角膜の厚さが薄かったり‐6.00D以上の強い近視の場合はICLの方が適しています。実際の手術において、どちらが適応できるかは眼の状態によりますので、詳細な適応範囲については眼科医に相談しましょう。
視力の安定性
レーシックは、長期にわたって安定した視力を維持することができます。ただし、強度近視の場合には、少しずつ裸眼視力が低下してしまうケースもあります。強度近視の場合は削る角膜の量が多くなるため、角膜が前方に突出する副作用も出やすくなってしまいます。
一方で、ICLも長期的かつ安定した視力が維持できる手術です。ただし、乱視用のレンズの場合は、強い衝撃などを受けると眼内のレンズが回旋してしまい、乱視の軸がぶれることがあります。眼内のレンズがずれてしまうと再手術が必要となります。ICLでは白内障手術を行うときには、眼内コンタクトレンズを取り出して手術を行うことができます。
手術の可逆性
レーシックでは、一度角膜を削ってしまうともとの形状には戻せないため、可逆性のない手術といわれています。一方、ICLは眼内に挿入したコンタクトレンズを摘出することで、手術前の状態に戻すことができます。白内障の手術を行う場合や、効果が得られなかった場合などは、手術前の状態に戻せるのがメリットのひとつでもあります。
見え方の違い
レーシックはダウンタイムが短いといわれており、手術当日からでも視力の回復が期待できます。遅くても手術翌日には視力が回復したことを実感できるでしょう。
レーシック手術は、角膜を削りフラップという蓋をする影響から、一時的にドライアイ症状が起こることがあります。手術後の見え方もコントラスト感度の低下など、見え方に違和感を感じる方もおられます。ハローやグレアと呼ばれる、夜間に光を見たときに現れる、見にくさを訴える症状もありますが、一般的には、時間の経過とともに落ち着いてくることがほとんどです。
一方で、ICLは手術当日は見え方がぼんやりとしており、翌日から鮮明に見えるようになることが一般的です。レーシック同様にハローやグレア現象が起きることがありますが、時間経過とともに治まっていきます。
ICLのメリット・デメリット
レーシックが受けられない人でも、受けられる可能性があるのがICLです。治療を検討する際には、メリットとデメリットの両方を知っておくことが大切です。
メリット
ICLのメリットは、治療を行うことで視力が回復し裸眼でも生活ができるようになることです。手術後に視力が低下してしまうリスクも低く、長期的に安定した視力が期待できます。
強度近視の人や角膜の厚さに関わらず手術を受けられるため、レーシックが適応外となった人でも適応できるのもメリットです。ICL手術を行った後に、トラブルが起こったり、ほかの病気の治療でレンズが邪魔になった場合は取り出すことも可能です。ICLは、さまざまな種類のレンズが作られているため、自分に適したレンズを眼科医に相談するとよいでしょう。
デメリット
ICLのデメリットは費用が高いことです。ICLは自由診療であるため、治療にかかる費用は全額自己負担です。費用相場はレーシックよりもやや高額で、医院によって異なりますが両眼で45万~80万円が相場とされています。
手術を受けるまでの期間をようすることもデメリットのひとつです。オーダータイプのレンズであれば、1ヵ月程度、作製期間が必要になることもあります。発症頻度は低いですが、術後の感染症リスクもあります。
ICL手術のリスクと病院の探し方
ICLの手術を受ける際には、手術にどのようなリスクがあるのか知っておくことが大切です。ICL手術で後悔しないためには、病院選びのポイントも解説します。
ICL手術を受けるリスク
どのような手術にも合併症のリスクがあるもので、ICLも例外ではありません。合併症の頻度は少ないですが、手術後の感染症、結膜炎や急性角膜浮腫、眼内炎などが起きる可能性があります。感染症予防のためにもできるだけ目に触れないようにしましょう。定期検診や処方された薬をきちんと服薬する必要もあります。
ICL手術後にレンズが合わなくなることもあります。手術後に見えにくくなってしまった場合は、レンズを摘出すればもとの状態に戻すことが可能です。もし不具合などが生じた場合には、担当の眼科医に相談しましょう。
ICL手術の安全性
ICLは片眼15分程度と短い時間でできる手術です。眼内にコンタクトレンズを挿入するための切開創は約3mmと小さく縫合の必要もないため、体への負担が少ないのも特徴です。失明のリスクもほとんどなく、安全性の高い手術といわれています。
治療を受ける病院の選び方
ICL手術で後悔しないためには、病院選びが大切です。ICLの治療経験を豊富に有しているかどうかも病院選びのポイントです。技術力のある医師に執刀してもらうことが、満足のいく結果につながります。ホームページや実際にICLを受けた方の声などが掲載されている病院を選ぶとよいでしょう。
カウンセリングからアフターフォローまで、総合的にサポートしてくれるかどうかも大切です。手術後に期待した効果がでなかったにも関わらず、アフターフォローや術後の説明が十分に受けられないというICL難民と呼ばれる人もいます。カウンセリング、手術、アフターフォローまで、しっかりサポートしてくれる病院を選びましょう。丁寧に説明してくれるか、質問に対してきちんと回答してくれるかなど、カウンセリングの時点で医師の対応を見極めることも必要です。
ICL手術の費用について
ICL手術は公的保険制度が使えないため、費用が高額になるのが特徴です。ICL手術の費用相場や、少しでも費用を抑える方法についてご紹介します。
ICL手術の費用相場
ICL手術の費用相場は45万〜80万円程度であり、医療機関によってかなり費用に幅があります。手術費用は高額ですが、長期的なコストパフォーマンスは良好な手術といわれています。例えば、通常のコンタクトレンズ費用が1ヵ月6,000円かかると、10年間では72万円ものコンタクトレンズ費用が必要になります。ICL手術に60万円かかったとしても、矯正効果は長期間続くので、費用対効果は高くなります。
手術費用の内訳には以下のようなものがあります。検査代、レンズ代、手術代、薬代、定期健診代、保護メガネ代、アフターフォロー代などありますが、費用に含まれる内容は病院で異なります。 A病院とB病院が同じ60万円の費用と提示していたとしても、A病院ではすべて込みで60万円、B病院では手術代のみで60万円でトータルでは80万円かかってしまうということもあります。見積もりの際には、必ず内訳まで確認しておきましょう。
少しでもICL手術の費用を抑える方法
ICL手術費用を少しでも抑えるためには、どのような方法があるのでしょうか。手術の費用を抑えるポイントをご紹介します。
◆医療費控除を申請する
公的保険が適用される場合は高額療養費制度が使えますが、ICL手術は公的保険適用外につき使うことができません。ただし、確定申告時の医療費控除の対象になります。医療費控除とは、同一生計の家族を含め、1年間に支払った医療費が基準額を超えた場合に、超過支払い分が税額控除される制度のことです。ICLにかかった費用を医療費控除として申請すれば、税金の一部が還付されます。ICL手術をした年の確定申告では、忘れずに医療費控除を申請しましょう。
◆複数の病院で見積もりを受ける
ICLにかかる費用は、病院によって大きな差があります。手術を検討している場合は、ひとつの病院に限らず、複数の病院から見積もりをとりましょう。見積もりを見る際には内訳を確認しておくことが重要です。ホームページでは手術代のみの料金を掲載しているケースもあります。実際には総額でいくらかかるのかを比べるためにも、複数の病院で見積もりを取ることをおすすめします。 アフターフォローの年数や内容も、それぞれ異なりますので注意が必要です。技術面、費用面、サポートの充実度など、総合的に判断して病院を選ぶとよいでしょう。
まとめ
ICLは眼内にコンタクトレンズを挿入する視力矯正手術です。角膜が薄い人や強度近視の人でも手術が受けられるICL手術ですが、デメリットとして費用の高さがあります。45万~80万円が相場であり、病院によって料金が大きく異なるのが特徴です。ただし、病院選びの際には費用面だけでなく、技術や治療経験の豊富さ、費用の内訳、サポートの内容など、総合的に判断したうえで決めることをおすすめします。
参考文献