眼科を受診される方のお悩みで多いのが「飛蚊症」です。飛蚊症には、なるべく早い段階での治療を要するものと、そうでないものがあります。本記事では、飛蚊症についてよく理解していただくために、どのような症状なのか、治療が必要なのはどんな状態のときか、具体的な治療方法などについてまとめています。「視野の中に虫が飛んでいるように見えるがどうすれば良いかわからない」「飛蚊症の治療方法について詳しく知りたい」という方はぜひ最後までご覧ください。
飛蚊症とは
飛蚊症というワードは聞いたことがあっても、それがどんな症状で何が原因となっているかを知っている方は多くはないでしょう。まずは飛蚊症の方によく見られる症状や原因など、基本的な知識を説明していきます。
飛蚊症の症状
「飛蚊症」とは病気の名前ではありません。明るいところや白い壁を見たときに、視界の中に糸くずや黒い点、おたまじゃくしのようなものが動いて見えるといった症状の名前です。これらの症状は、視線を動かしても追いかけるようにしてついてきて、目をこすったりまばたきをしたりしても消えることはありません。数は人それぞれ異なり、1個の場合もあれば2個・3個と複数見えることもあります。さまざまな形があるように、色も濃いものから半透明のものまでさまざまです。
飛蚊症の原因
眼球内には、水とコラーゲンでできた硝子体という組織が詰まっています。この硝子体に濁りが発生すると、明るいところを見たときに濁りの影が網膜に反射し、糸くずや黒い点のように見えるのです。この濁りは、生まれつきによる場合もあれば、加齢によって硝子体が変質した場合に起きることもあります。硝子体の変質によって網膜が強くけん引されると、目を閉じていても光が見えることが特徴の「光視症」という症状が現れる場合もあります。さらに、網膜裂孔や網膜剝離といった別の疾患の影響によって飛蚊症が現れているというケースも考えられます。
治療の必要がない飛蚊症
飛蚊症の症状が見られるからといって、必ず治療をしなければいけないわけではありません。ここからは、治療の必要性がない飛蚊症について説明していきます。治療を受けようか迷っている方はぜひ参考にしてください。
生まれつきの飛蚊症
母親のおなかの中で胎児が成長する過程では、硝子体に血管が通っています。この血管は生まれた時点で消失しているのが一般的ですが、完全になくならずに一部が残っていると、これが濁りとなって飛蚊症の症状が現れます。健康的な方にも起こる現象のため、日常生活に支障がなければ治療をする必要はありません。ただ、本当に生まれつきのものかどうかを判断することが大切ですので、一度は検査を受けることをご検討ください。
加齢によって生じる飛蚊症
硝子体は加齢によって収縮し、網膜から剝がれていきます。視神経乳頭や網膜血管についていた硝子体は少し濁っており、剝離することでその陰が網膜に落ち、飛蚊症の症状が現れることがあります。一過性に数が増えますが、次第に気にならなくなることが多いです。この状態は後部硝子体剝離といい、誰にでも起こる自然な現象のため焦る必要はないですが、その一方で網膜裂孔や網膜剝離、黄斑円孔といった他の眼底疾患を引き起こすリスクもあります。
また、後部硝子体剝離は年齢が若くても近視の方であれば生じやすい傾向にあります。なお、生まれつきや加齢によって生じる飛蚊症は病気ではないため、治療や手術を受ける際は自由診療となることがほとんどです。費用に関して詳しく知りたい場合は、治療を受ける医療機関に確認してみましょう。
治療の必要がある飛蚊症
治療の必要性が低い飛蚊症がある一方で、治療を必要とする飛蚊症も存在します。それは、網膜裂孔や網膜剝離が原因となっている場合の飛蚊症です。これらの疾患について詳しく解説していきます。
網膜裂孔・網膜剝離
網膜裂孔とは、硝子体が引っ張られることで網膜との癒着部分が引き裂かれ、穴が開いてしまう疾患です。穴が開いたときに網膜の色素上皮細胞が目の中に散らばることで、飛蚊症が現れます。また、硝子体のけん引が強いと、先ほど説明した光視症を自覚する場合もあります。
さらに、穴が開いた状態を放置してしまうと、目の中を循環する液体が穴を通って網膜の後ろに入り込むため、網膜剝離を引き起こす可能性があります。網膜は、眼底にある毛細血管から酸素や栄養を受け取っているため、剝離が起きるとそれらが供給されなくなってしまいます。この状態が長く続くと、次第に網膜の機能は低下し、視野狭窄や視野欠損などにつながっていきます。眼底から網膜が剝がれても痛みが出ることはなく、かなり進行するまで気づかないことも多くあるため、飛蚊症などの初期症状があれば早めに医療機関を受診することが大切です。なお、網膜裂孔の段階であればレーザーによる治療を行うことが可能ですが、網膜剝離に至ってしまうと手術を行う必要があります。
治療が必要かどうかの判断について
では、ご自身の症状が、治療が必要かどうかを見極めるにはどうすれば良いのでしょうか。飛蚊症が気になる際に取るべき行動例をご紹介します。
眼科を受診して眼底検査をする
飛蚊症や光視症の種類や進行具合を見極めるためには、眼底検査をしなければいけません。眼底検査とはその名の通り、眼球の底にある網膜や血管・視神経などの状態を調べることができる検査です。眼底カメラや眼底鏡という器具を用いて、瞳孔から眼底までの状態を観察します。医療機関によっては、検査結果がわかりやすいよう写真撮影をする場合もあります。眼底検査を行う際は、瞳孔を開く必要があるため散瞳薬を使用します。その場合、光をいつも以上にまぶしく感じたり、視界がかすんだりするため、車や自転車などの運転はできません。眼科を受診する際は、ご家族に送迎してもらうか、徒歩や公共交通機関を利用するようにしましょう。
こんな症状のときは眼科へ
「眼科を受診するべきタイミングがわからない」という方も少なくないでしょう。受診の目安としては、飛蚊症の数が急激に増えたうえで引いていかないかさらに増加している、形の異なる飛蚊症が生じている、墨を流したような飛蚊症が出ているという場合です。また、視力低下の進行スピードが速いと感じたり、視野の一部が欠けたりしている場合も、早めに眼科を受診するようにしましょう。なお、クリニックを選ぶ際のポイントとしては、目に関する知識を豊富に持つ日本眼科学会認定 眼科専門医が在籍しているかどうかを確認することをおすすめします。
飛蚊症の治療:硝子体手術について
治療の必要性はないが、患者さんがどうしても気になり治療を希望している場合や、眼底検査で硝子体の濁りが確認された場合、硝子体出血を起こして強い混濁が残っている場合には、硝子体手術が提案されます。ここからは、硝子体手術のおおまかな内容やリスクなどについてご紹介します。
そもそも硝子体とは
まずは、硝子体について説明します。硝子体とは、目の中の8割を占めるゼリー状の組織です。99%の水とコラーゲン・ヒアルロン酸などの成分でできており、色は透明です。眼球の壁を内側から支えて、形をキープしたり、網膜や水晶体の代謝を助けたりする役割を担っています。硝子体は、カメラのフィルムのような役割を果たす「網膜」に隣接しています。そのため、網膜に炎症や出血が起きると、混濁が硝子体の中に広がり、飛蚊症や視力低下につながるのです。
硝子体手術とは
異常が起きた硝子体を切除し、硝子体混濁の原因に応じた治療を行うのが硝子体手術です。手術を行う際はまず目を消毒し、そのうえで点眼麻酔を施します。次に、白目の部分に手術機器を挿入するための穴を3つ開けます。それぞれの穴の役割としては、手術の際に眼内を明るく照らす照明を入れるもの、眼球の形を維持するために必要なかん流液を注入するもの、硝子体を切除するメスやレーザーを挿入するためのものです。これらの穴は極めて小さく、術後は自然にふさがります。
このような事前準備が完了したら、硝子体を切除していきます。この際、眼底周辺部に異常がないか、網膜が弱くなっていないかなどの確認も行われます。硝子体切除後、あらゆる疾患に応じた処置が済めば、手術は終了となります。なお、黄斑円孔や網膜剝離の処置を施した場合、網膜を内側から押さえる必要があるため術後にガスまたはオイルを注入します。
硝子体手術の手術時間
硝子体手術にかかる時間は患者さん一人ひとりによって異なるため、一概にはいえません。軽症であれば5分程度、重症であれば3時間程度かかることもあります。いずれにしても日帰りで行うことができます。手術中、眼内にかん流液しか入れていない場合は術後体位の制限はありません。
しかし、ガスを注入した場合は、食事やトイレに行く以外の時間はうつむきやうつぶせの体勢で過ごす必要があります。家事はもちろん、仕事を行うことはできません。どれくらいの期間をこの体勢で過ごすかは患者さんによって異なるため、事前に医師に確認しておきましょう。ご家族からのサポートが受けられない場合や術後管理に不安な方は、入院設備が整っている眼科を選ぶことをおすすめします。
なお、オイルを注入した場合は、特定の体位を取る必要はないのですが、ガスと違って網膜の状態が落ち着いてからオイルを抜く手術が必要になります。つまりオイルを注入するのは、かなり重症な場合か患者さんの体位の保持が難しい場合などの限られたケースになります。
硝子体手術のリスク
硝子体手術のリスクは極めて低いのですが、まれに合併症を引き起こすというリスクがあります。その中でも特に重篤なのが、網膜剝離と眼内炎です。網膜剝離は、硝子体手術を受けた患者さんの200〜300人に1人の割合で発症します。眼内に残った硝子体が収縮することで網膜裂孔を形成し、その穴から眼内の水分が入り込むことで網膜剝離へと進展してしまいます。硝子体手術後の網膜剝離は進行がとても速いため、緊急手術が必要になります。
一方で眼内炎とは、手術中や術後に、傷口から目の中に細菌やウイルスが入り込んでしまう合併症です。強い炎症を引き起こすため、抗菌剤を混合したかん流液を用いて硝子体を洗浄する緊急手術を行う必要があります。これら2つの合併症は、硝子体手術を行う前よりも視力を低下させてしまう恐れがあるということを頭に入れておきましょう。その他、術後高眼圧や角膜浮腫といった一過性のものや、続発緑内障、駆逐性出血、硝子体出血、眼内レンズ偏位といった追加で手術が必要となる合併症もあります。
白内障の同時手術について
硝子体手術を行った後は白内障が進行しやすいため、50歳以上の方で硝子体手術を受ける方には白内障の同時手術を勧めている医療機関が多いです。まずは、白内障とはどのような疾患なのかをご説明します。
白内障は、目の中でカメラのレンズのような役割を果たしている「水晶体」が濁ってしまう病気です。視界がぼやける、目がかすむ、明るいところが異常にまぶしく感じる、物が二重に見えるといった症状が現れます。白内障は早い方だと40代から発症し、80歳を過ぎるとほとんどの人が罹患しているといわれています。主な原因は加齢によるものですが、アトピーや糖尿病、外傷などの疾患から白内障を引き起こす場合もあります。
白内障手術では、水晶体を超音波で砕いて吸引した後、アクリル製の人工眼内レンズを挿入します。眼内レンズには、焦点が1カ所にのみ合う「単焦点眼内レンズ」と、近距離・長距離や近距離・中距離・長距離といった複数の距離に焦点が合う「多焦点眼内レンズ」があります。「なるべくメガネをかけない生活をしたい」というご希望や、仕事内容・ライフスタイルに応じて選択することができます。なお、目の中に一度挿入した眼内レンズは生涯使用可能です。どのレンズを選べばいいかわからない場合は、遠慮せず医師に相談してみることをおすすめします。術後は経過観察のため、1週間以内、1カ月、3カ月といった間隔で定期的に通院するようにしましょう。
まとめ
飛蚊症の症状や原因、関連する眼科疾患、硝子体手術や白内障手術についてまとめましたがいかがでしたでしょうか?飛蚊症は直接命に関わる疾患ではないですが、視野に何かが見えることでそれがストレスになったり、失明するリスクのある疾患が隠れていたりします。「よくあることだから」と自己判断で放置してしまうのではなく、まずは一度検査を受け、適切な対応を取るようにしましょう。
参考文献