日々を過ごしていて、急に視力が落ちたと感じたり、目に見えるものが歪んで見えたりする・かすんで見える・暗く見える・黒い点や異物が見えるなど、今までなかったはずの症状に突然気づいて心配になっていませんか?
疲れ目かな?など安易に考えて放置するのは危険かもしれません。一つひとつは小さな症状でも、重大な視力障害へつながる疾患が隠れている場合があります。
今回は、硝子体手術の方法・費用・術後の注意点について説明し、硝子体の異常に関連のある疾患についても触れてますので参考にしてください。
硝子体手術の手順
硝子体(しょうしたい)とは、水晶体の奥の部分を満たしている無色透明のゼリー状組織のことです。 角膜・水晶体で屈折して入ってきた光が、硝子体を通って網膜に像を結びます。
このゼリー状組織には網膜が接しているため、外傷・老化・様々な疾患などが原因で出血を起こしたり、濁ってしまったりしやすく、硝子体が網膜を引っ張るなど硝子体の異常が目にさまざまな障害を引き起こします。
硝子体に異常が起こった場合に行われるのが硝子体手術です。
具体的な手術の方法は、白目の部分に3つの小さな穴を開け、異常をきたしている硝子体を切除・吸引する、という方法が取られます。
3つの穴は、眼内の圧力を維持するためのパイプを通す穴・硝子体を切除する器具を挿入する穴・ライトを入れるための穴です。
硝子体除去と同時に網膜の修復や除去などを行い網膜の回復を図ります。状況に合わせて眼内へ灌流液を填入したり、ガスやシリコンオイルを填入することもあります。
開ける穴が小さくてすむ腹腔鏡手術であれば、局所麻酔ですむため多くが日帰りの手術となりますが、眼内へガスやシリコンを填入する必要のあった場合などは入院が必要になることに留意してください。
硝子体手術の日帰り手術の流れ
次は硝子体手術の日帰り手術はどのような流れで行われるのかを説明します。
硝子体手術は短時間で終わるものがほとんどです。日帰り手術も可能ですが、手術までに十分な診察と検査を受けるために数回の通院が必要となります。
手術を受けるまでに必要な通院回数は病院・クリニックによって変わってきますので、事前に医療機関に尋ねてみるとよいでしょう。
まず手術日を決める前に、病気の状態把握と合わせて必要な検査を行っていきます。
機械を使用して眼球全体の精密検査・散瞳検査・採血などを行い、その情報をもとに手術方法を決定し手術日の予約を取ります。
散瞳検査を受けた場合、検査後しばらくはピントが合いづらくなるため、自動車など乗り物の運転は危険ですので避けるようにしましょう。 手術当日は手術時間より早めに医療機関へ行き、麻酔や点眼で瞳孔を広げる処置をします。
個人差が大きいのですが、手術自体は30分~2時間と短時間で終わります。
日帰りすることができますが、手術後は眼帯をする必要があるため、しばらく運転はできません。公共の交通機関を利用するなど工夫しましょう。
また、術後の状態を確認するため、手術を受けた翌日に再度受診する必要があります。
硝子体手術にかかる費用
硝子体手術は保険適用です。そのため費用は自己負担額により異なります。
単純で一般的な硝子体切除術を日帰りで受けた場合の費用は10割の場合で約15万円(税込)以上です。自己負担額が3割の人は約4万6千円で手術を受けることができます。
ただ、この金額は基本的な手術方法で手術を受けた場合のことであり、病気の状態によって治療内容は変わってきます。同時に網膜の治療が必要になった場合などです。
手術内容が複雑になるほど費用は増加しますし、実際には手術費用に加えて薬や麻酔など費用も必要となってきます。不安な場合は事前に医療機関に問い合わせておきましょう。
硝子体手術が必要となる疾患
硝子体が原因で眼底出血を起こしたり、網膜に異常をきたしてしまうことがあります。硝子体中の病的な組織を取り除き、網膜の病気の悪化を防ぐために行われるのが硝子体手術です。
硝子体手術の適応疾患には、糖尿病網膜症・裂孔原性網膜剥離・硝子体出血・黄斑前膜・黄斑円孔・黄斑浮腫・網膜静脈閉塞症などがあります。
糖尿病網膜症
糖尿病網膜症とは、目の中の網膜という組織が障害を受け、その結果視力が低下していってしまう疾患です。
網膜は眼底にある薄い神経の膜で、ものを見るために重要な役割をしています。糖尿病の三大合併症のひとつといわれています。
網膜とは眼底にある薄い神経の膜のことで、無数の血管が張り巡らされている部位のことです。
初期段階では、その血管が小さく出血している所見が見られるようになりますが、まだ自覚症状が見られません。
中期頃になると、網膜の細かい出血がさらに増え、損傷を受けた血管が少しずつ詰まってきて酸素が十分に行き渡らなくなるため、酸欠状態を避けるため新しい血管を増やし酸素の巡りを補うようになります。
この血管のことを新生血管(しんせいけっかん)と呼び、この状態の頃には目のかすみなどを自覚するようになってきます。
新生血管は硝子体内部にも伸びてきますが、無数に増えた新生血管は細くもろいです。そのため、簡単に出血を起こし、硝子体出血が起こることになります。
この頃には視力低下や、視野に黒い影が見える飛蚊症(ひぶんしょう)と呼ばれる症状を自覚するようになるでしょう。
新生血管の出血部がかさぶたのようになると、それが網膜を引っ張ってしまうことで網膜剥離を起こすことがあります。眼科を受診するなど眼底検査を定期的に受けるようにしましょう。
裂孔原性網膜剥離
裂孔原性網膜剥離(せっこうげんせいもうまくはくり)は、さまざまな原因により網膜にできた裂孔や円孔から硝子体液が網膜下に入り込むことで起こる網膜剥離のことです。
網膜剥離とは、網膜が眼球の壁から剥がれてしまうことをいいます。網膜が剥がれる原因にはいろいろな種類があります。
まずひとつは、外傷を受けたことが原因となる網膜剥離です。外的な要因で網膜に裂孔(裂け目・破れ目)ができてしまうことがあります。
ほかには、網膜の一部がごく薄くなってしまったことにより、その部分が擦り切れて破れやすくなってしまうという病態があります。若い人が網膜剥離を起こす場合の原因として知られているものです。
さらには、糖尿病網膜症の項で説明したように、網膜の微細な血管が出血しやすくなることが原因で起こる網膜剥離です。
いずれの原因でも飛蚊症(ひぶんしょう)・光視症(こうししょう)・視野の異常が自覚されます。光視症とは、光がないところでもピカッと光る閃光のような光を感じる症状のことです。
飛蚊症よりも光視症を自覚した場合は裂孔原性網膜剥離が起きている可能性が高いといわれていますので、光視症が自覚される場合は早めに眼科を受診することをおすすめします。
硝子体出血
目の中の空間には硝子体というゲル状の物質が入っており、その奥には網膜があります。
さまざまな部位からの出血が硝子体に溜まってしまう状態が硝子体出血です。
網膜の血管からの出血が主な原因ですが、硝子体が出血したりして濁ってしまったりすると、網膜に光を届けられなくなります。その状態になると暗く感じたり、目がかすんでしまったり、一部が見えないなど視力の低下を感じるようになるのです。
出血は数ヶ月をかけて自然と吸収されることもありますが、出血が吸収されず残ってしまうと視力が回復しないままとなることがあります。
収されず残ってしまった出血を取り除くには、硝子体手術を受ける必要があります。
黄斑前膜
黄斑前膜(おうはんぜんまく)は、黄斑に薄い膜ができて、その膜が黄斑に張り付いてしまう疾患のことです。
網膜の中心には黄斑という部分があり、黄斑の中心には中心窩という浅い窪みがあります。中心窩は視力にとって重要な場所です。
中心窩の網膜は新生血管が生じない構造をしているため出血や萎縮が起きることが少なく、進行はゆっくりで基本的には失明には至らない良性の疾患といわれています。
黄斑前膜には特発性と続発性があり、特発性は加齢により自然に発生し、原因がはっきりとしていないため予防は難しいといわれています。
網膜と癒着している硝子体が加齢と共に液体に変化して網膜から少しずつ剥がれていく生理現象です。
剥離が起きる際、硝子体と黄斑の癒着が強いとうまく硝子体が剥がれず、黄斑に残った硝子体から黄斑前膜が生じてしまうのです。このときに、中心窩が破れてしまった状態のことを、後述する黄斑円孔(おうはんえんこう)と呼びます。
続発性は炎症や手術の後に発生するもののことをいいます。
黄斑前膜では、対象物がゆがんだり大きく見えたりする症状が出現するのですが、病変が片方だけの場合、良い方の目で補完されるため症状に気づかないことがある疾患です。
黄斑円孔
黄斑前膜に似た疾患として黄斑円孔(おうはんえんこう)があります。
黄斑円孔は黄斑の中心窩に穴が開いてしまう疾患です。中心窩は視力に関わっているため視力低下や視野狭窄が起きてしまい、日常生活に支障が出る場合があります。
治療方法は黄斑前膜と同様に硝子体手術を行いますが、目の中に空気やガスを入れるため、術後の数日間はうつむき姿勢になる必要がありますのでその際は入院が必要です。
黄斑浮腫
黄斑には色や形を見分けるための視細胞が密集して存在しています。
黄斑浮腫(おうはんふしゅ)とは、この黄斑部に液状の成分が溜まり、浮腫(むくみ)を起こして視力が低下してしまう病気です。
原意として挙げられるのが、糖尿病網膜症・網膜静脈閉塞症・ぶどう腹炎・白内障の手術後などで、これらの疾患により出血や炎症が起きることが原因だといわれています。
黄斑浮腫では、進行するに従ってさまざまな症状が現れてきます。かすみ目・ぼやけて見える・視力が低下する・物が歪んで見える・色の濃淡が分かりにくくなる・明暗が分かりづらいなどです。
治療方法としては、硝子体手術のほかに、ステロイドの注射・レーザー光凝固術・アバスチン注射などがあります。
網膜静脈閉塞症
網膜は血管を多く持つ器官であり、網膜が正常に機能するためには血液による栄養と酸素の運搬が必要です。
網膜の血管は心臓から酸素を供給する網膜動脈と老廃物を心臓に送る網膜静脈から構成されています。
網膜の血管も閉塞を起こすことがありますが、これが網膜静脈閉塞症(もうまくじょうみゃくへいそくしょう)という疾患です。発症すると急に見えにくくなります。
細い静脈で起こる網膜静脈分枝閉塞症より、より太い静脈で起こる網膜中心静脈閉鎖症の方が広範囲が損傷されるため影響は大きくなります。しかし、発生頻度は分枝静脈閉塞症の方が5倍程高いです。
早期に治療を開始すれば視力を維持することは可能ですが、虚血したまま放置すれば失明することがあります。
硝子体手術後の注意点は?
硝子体手術後の注意点はいくつかありますが、術後3日間は外部刺激を避けるように保護すること・水に濡らさないことを控えるようにします。
次に、血液循環が増加してしまうほどの身体運動を避けることなどが挙げられます。
重いものを持つこと・飲酒・喫煙などは血流を増加させるので約1週間は控えるように指導されることが多いでしょう。
術後の状態を安定させるためにはリラックスして過ごすことが重要で、1ヶ月経つと日常生活に制限はほぼなくなります。
硝子体手術後すぐ見えるようになる?
手術の後すぐに見え方が良くなるわけではなく、約6ヶ月~1年の間に見え方が回復して状態が安定するケースが多いです。
術後すぐには出血による炎症や浮腫が引かず時間をかけて回復していくために日数がかかります。
手術で硝子体内に空気やガスを入れた場合などは一時的に見えにくいと感じる人が多く、日常生活へは少しずつ戻るなど急激な活動を始めないようにしていくなど注意が必要です。
硝子体手術後に気をつけることは?
前述しましたが、手術で硝子体内に空気やガスを入れた場合などはガスが安定するまで数日間うつ伏せの姿勢で過ごす必要があったり、眼を保護するために保護メガネや眼帯を使用する必要があったりします。
このときは特に外的刺激を避けることと安静が重要で、精神的ストレスも悪影響となるため、不安や心配をしすぎずリラックスして過ごす必要があります。
術後1週間までは目を濡らしてしまわないようにすることが重要で、入浴時の洗顔・洗髪などはこの時期まで控えなければなりません。この時期を過ぎるとお化粧などもできるようになります。
1ヶ月後には通常の日常生活が送れるようになりますが、目を直接圧迫したりこすったりしないよう気をつけて過ごしましょう。
硝子体手術の合併症
手術後の合併症とは、手術後の好ましくない症状や状態のことをいいます。
主なものとしては術部の感染や出血・痛みなどがありますが、硝子体手術後に見られる合併症について知っておきましょう。
網膜剥離
手術後にさまざまな原因で網膜剥離を起こす場合があります。
手術中に硝子体を切除する際に、網膜裂孔ができてしまい、その裂孔に硝子体の液体が流れ込み網膜剥離を起こすことがあるのです。
そのような場合は、再び硝子体手術を行い、網膜剥離を治療する必要があります。
また、手術後に異常な増殖組織が形成され、それが網膜を引っ張ることで網膜剥離を起こす可能性もあります。
出血
硝子体手術後に、硝子体内に出血を起こすことがあります。 術中に血圧が極めて高かったり、体に力が入って目の動脈に圧がかかってしまったりすると起きる可能性が高くなります。
これらが原因で出血が起こっても、1~2週間で自然吸収されることがほとんどです。
感染
手術後の創部から眼の中に細菌やカビなどが入り込み、細菌感染を起こした場合に発症します。眼の中で菌が増殖すると重篤な視力障害を生じ、失明に至ることもあります。
ただ、現在の手術方法は術創を最小限に留めるため傷口は非常に小さく、感染の合併症を起こすことは滅多にありません。
重篤な後遺症を残す合併症なので、感染をしてしまわないよう術後は清潔に保ち、手でこすったりなどしないように注意しましょう。
眼圧上昇
手術では少なからず傷をつくってしまうため、眼の中の循環が悪くなって一時的に眼圧が上がることがあります。 炎症が起きるため一時的に眼圧が上昇してしまうのです。
ほとんどの場合、点眼薬や内服薬で下がります。 出血などを合併している場合は同時に視力低下が見られることがありますが、出血が自然吸収されることで眼圧も下がるため心配ありません。
出血の量が多い場合は、出血を取り除く処置が必要となることがあります。
まとめ
硝子体手術は日帰りで受けることが可能な手術ですが、原因によっては費用の増加や入院が必要な場合もあり注意が必要です。
硝子体に異常があると視力や見え方に影響が出てきてしまいます。また、別の疾患から硝子体に出血が起こっている場合もあるため、日々の中で眼の状態や視力を確認するなどして敏感になっておくことが必要です。
中には重篤な後遺症が出るものもあるため、視力や視野に違和感を持ったら、視力検査や眼底検査までできる医療機関へ早めに受診することをおすすめします。
参考文献