白内障と網膜剥離は、どちらも失明の可能性がある重大な疾患ですが、症状や原因、治療方法は異なります。白内障は加齢とともに水晶体が濁り、進行性がゆっくりとした疾患である一方、網膜剥離は網膜が剥がれて失明の危険性がある緊急性の高い疾患です。この記事では、症状や原因、治療法の違いを詳しく解説します。また、予防法についても解説しますので、気になる方はぜひ参考にしてみてください。
白内障と網膜剥離の違い
白内障と網膜剥離はそれぞれ異なる病態であり、症状や原因、進行速度も大きく異なります。白内障は加齢による水晶体の変化から生じる慢性的な病気である一方、網膜剥離は急激な変化を伴う緊急性の高い病気です。両者とも早期発見と適切な治療が重要ですが、アプローチや治療法は異なるため、それぞれの病気について正しい理解を持つことが大切です。
症状の違い
白内障の主な症状は、視力の低下、視界のかすみ、光が眩しく感じること、物が二重に見えることなどです。白内障は水晶体が濁ることで光の通過が妨げられ、視力が徐々に低下します。特に夜間や暗い場所での視力が悪化しやすく、日中は見えやすいのが白内障の特徴です。また、白内障が進行すると、視界が霞んだり、物体がぼやけて見えることもあります。
一方、網膜剥離は、視界に黒い点や線が見えるといった飛蚊症(ひぶんしょう)や、視界の端に光が走る光視症(こうししょう)、特定の部分が見えなくなる視野欠損などの症状が現れます。網膜剥離は、網膜が眼球内面から剥がれる状態であり、特に中心視力を司る黄斑部が剥離すると、急激な視力低下を引き起こす可能性があり、注意が必要です。
原因の違い
白内障は、加齢による水晶体の変性によって起こる疾患です。年齢とともに水晶体内のタンパク質が変性し、透明度が失われることで発症します。糖尿病や外傷、長期的なステロイド使用なども白内障を引き起こす要因となります。
一方で、網膜剥離は網膜に穴や裂け目ができる網膜裂孔(もうまくれっこう)が原因であることがほとんどです。加齢による硝子体の変化や強度近視、外傷などによって生じます。特に中高年者では後部硝子体剥離が進行する際に網膜裂孔を引き起こし、網膜剥離につながることがあります。
進行速度と影響の違い
白内障は通常、徐々に進行する病気であり、数年かけて視力が低下することがほとんどです。初期段階では自覚症状が少ないため、多くの人は気付かないまま進行してしまうことがあります。しかし、一度進行し始めると、日常生活に大きな支障をきたしてしまいます。
一方で、網膜剥離は急速に進行する疾患です。特に網膜裂孔から水分が入り込むことで剥離が拡大し、一刻も早い治療が求められます。網膜剥離は放置すると、失明につながる危険性が高く、早期発見と治療が重要です。
白内障と網膜剥離の関連性
白内障と網膜剥離には密接な関連があり、特に白内障手術中およびその後の管理が重要です。定期的な検査を通じて早期発見・早期治療を行うことで、視力を保つ可能性があります。ここでは、白内障手術後の網膜剥離リスクと、両者が同時に発症する場合について、詳しく解説します。
白内障手術後の網膜剥離リスク
白内障手術は、濁った水晶体を取り除き、人工レンズを挿入することで視力を回復させる治療法です。白内障手術にはリスクが伴い、その一つが網膜剥離です。
白内障手術後の網膜剥離の発症率は、0.3%程度です。手術中に破嚢(はのう)という合併症が発生すると、硝子体が網膜に引っ張られやすくなり、網膜剥離のリスクが高くなります。
術後数ヵ月から数年後に網膜剥離が発生することもあり、早期発見と迅速な対応が必要です。飛蚊症や閃光(せんこう)を感じる場合は、網膜剥離の初期症状の可能性があるため、速やかに眼科に受診してください。
白内障と網膜剥離が同時に発症している場合
白内障と網膜剥離が同時に発症する場合、視力低下や視野欠損などの症状が現れます。白内障による視力低下はゆっくり進行しますが、網膜剥離は急激な視力低下を引き起こす可能性があります。このため、両者の症状を区別することが重要です。
治療方針は慎重に決定され、まず網膜剥離の治療を優先し、その後白内障手術を行います。網膜剥離の治療が視力回復に直結するためです。白内障も進行すると視力に影響するため、早期の対応が求められます。
白内障の治療法
白内障の治療法は、病状の進行段階によって異なります。治療法は主に初期段階の管理と手術療法にわかれます。患者さん自身の状態や希望に応じた適切な治療法を選択することが重要です。ここでは、白内障の治療法を解説します。
初期段階の治療
白内障の初期段階では、視力の低下が軽度であるため、生活習慣の改善や定期的な眼科検診を受け進行を遅らせることがほとんどです。点眼薬による治療も行われますが、あくまで進行を遅らせるための対症療法であり、すでに濁った水晶体をもとに戻すことはできません。具体的には、抗酸化剤を含む点眼薬が使用されますが、効果には限界があります。
視力が低下している場合でも、日常生活に支障がない場合は手術を急ぐ必要はありません。患者さん自身が、明るい照明を使用したり、メガネやサングラスを使用したりするなど、快適に過ごせるような視力を維持するための工夫を行いましょう。
手術療法の種類
白内障が進行し、視力低下が著しい場合には手術が必要です。現在行われている手術方法は超音波乳化吸引術(PEA)と眼内レンズ挿入術(IOL)です。濁った水晶体を超音波で砕いて取り除き、その後人工の眼内レンズを挿入します。
眼内レンズには主に二つのタイプがあります。単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズです。
単焦点眼内レンズ:一つの距離に焦点を合わせるもので、患者さんは必要に応じてメガネを使用する
多焦点眼内レンズ:複数の距離に焦点を合わせることができ、手術後にメガネなしで日常生活を送れる可能性がある。ただし、保険適用外の場合も多く、費用面での考慮も必要。
手術は通常局所麻酔下で行われ、入院せずに日帰りで済みますが、高齢者やほかの健康問題を抱える患者さんには、入院手術が推奨される場合があります。
手術後のケアと注意点
手術後は適切なケアが重要です。また、術後1週間は感染症予防のため、洗顔や洗髪を控えましょう。ほかにも、目を強く擦らないように洗顔する必要などがあります。メイクは手術後1週間は控えめに行い、アイメイクは1ヵ月程度避けるべきです。飲酒や喫煙は、炎症を悪化させる可能性があるため、手術後1週間は控えましょう。なお、激しい運動や水泳などは、手術後1ヵ月間経ってから再開するのがおすすめです。
手術後には視力が安定するまで数週間から数ヵ月かかることがあります。この間にメガネの度数も変わるため、新しいメガネを作成する際には医師と相談してください。手術後には定期的な検診を受けることで、合併症の早期発見につながります。視力低下や異常な痛みを感じた場合には、すぐに医師に相談することが大切です。
網膜剥離の治療法
網膜剥離は、網膜が眼球の内側から剥がれる状態であり、視力に深刻な影響を及ぼす可能性があります。早期発見と適切な治療によって視力への影響をできる限り抑えることが可能です。手術後も経過観察を行い、自分自身の目の健康管理に努めましょう。
早期発見時の治療
網膜剥離の初期段階では、網膜裂孔と呼ばれる裂孔や穴が形成されることがあります。この段階での治療は、網膜剥離の進行を防ぐために効果的です。主な治療法としては、レーザー光凝固術が挙げられます。レーザーを用いて網膜裂孔周囲を焼き付け、網膜とその下の組織を癒着させることで、剥離を防ぎます。早期にこの治療を行うことで、視力への影響をできる限り抑えることが可能です。
網膜剥離の症状としては、飛蚊症や光視症などがあります。症状が現れた場合は、すぐに眼科での検査を受けることが推奨されます。
手術療法の種類
網膜剥離が進行してしまった場合には、手術が必要になります。手術法は以下のとおりです。
硝子体手術:硝子体内に出血や濁りがある場合、濁った硝子体を取り除き、網膜を元の位置に戻します。中高年層に多く行われます。
強膜バックリング法:網膜剥離した部分を元の位置に戻すために、眼球外側から圧迫する方法です。主に若年者に行われます。
光凝固術:網膜裂孔がある場合には、レーザーで周囲を焼き付けて固定します。手術の負担が少なく入院の必要もないため、初期段階で行われることがほとんどです。
手術の選択は、患者さんの年齢や健康状態、剥離の程度によって異なります。手術後は医師と相談しながら、適切な治療方針を決定することが重要です。
手術後の経過と注意点
手術後は眼内の状態が安定するまで1〜3ヵ月かかります。この期間中は、激しい運動や目を酷使することは避けるべきです。特に手術後1ヵ月間は目を疲れさせないよう注意し、重いものを持ったり、走ったりすることも控えましょう。事務職や管理職の場合は、手術後1ヵ月目から仕事復帰が可能ですが、運転手や重労働の場合には2ヵ月程度休む必要があります。日常生活でも無理をせず、徐々に元の生活に戻すことが大切です。視力回復については、剥離した範囲や放置していた期間によって異なります。早期発見・早期治療が視力回復につながるため、自覚症状があればすぐに眼科受診しましょう。
白内障と網膜剥離の予防策
白内障と網膜剥離の予防には、生活習慣の見直しと定期的な眼科検診が重要です。健康的な生活習慣を維持しつつ、自分自身の目の健康状態を把握するためにも定期的な検診を受けることが大切です。ここでは、白内障と網膜剥離の予防策を解説します。
生活習慣を見直す
生活習慣の見直しは、白内障の予防につながります。白内障は加齢による水晶体の濁りが原因ですが、生活習慣も大きな影響を与えます。例えば、喫煙は白内障のリスクを高めることが知られており、喫煙者は非喫煙者に比べて白内障を発症する確率が高くなります。肥満や不規則な食生活も、白内障の進行を早める要因につながります。 紫外線や赤外線から、目を守ることも重要です。紫外線は水晶体のタンパク質にダメージを与え、白内障の発症しやすくなるといわれています。サングラスやUVカットメガネを使用することで、紫外線から目を保護することが可能です。適度な運動や栄養バランスの取れた食事も、白内障や網膜剥離の予防に欠かせません。生活習慣を見直すことは、健康状態を改善し、眼病のリスクを予防します。
定期的に眼科検診を受ける
眼科検診は、白内障や網膜剥離などの眼病を早期に発見し、適切な治療を受けるために必要です。特に40歳以上になると、視力低下や眼病のリスクが高くなるため、定期的な検査が推奨されます。眼科では視力検査や眼圧検査、眼底検査などが行われ、検査によって緑内障や糖尿病網膜症など、ほかの病気の診察を受けることが可能です。 特に糖尿病にかかっている患者さんは、糖尿病網膜症という合併症にかかりやすいため定期的な眼科検診を受けることがおすすめです。糖尿病網膜症は視力低下につながるため、血糖値の管理とともに定期的な眼底検査を受けましょう。
網膜剥離は初期段階では自覚症状が少なく、進行すると視力が失われる可能性があります。定期的な眼科検診によって早期発見し、必要な治療を受けることが重要です。例えば、網膜剥離はレーザー治療によって早期に対処できる場合があります。
まとめ
白内障は、加齢による水晶体の濁りで徐々に進行する一方、網膜剥離は網膜が剥がれる緊急性の高い疾患です。白内障は手術で視力回復が見込めますが、網膜剥離は早期発見・治療が重要で、放置すると失明の危険があります。両疾患には関連性があり、特に白内障手術後は網膜剥離のリスクが高まることがあります。予防には、定期的な眼科検診の受診や、紫外線対策、禁煙などの生活習慣の改善が効果的です。自覚症状がある場合は、速やかに眼科を受診しましょう。また、40代を迎えたら定期的に眼科検診を受診して眼の状態を確認し、白内障などの眼病を早期発見できるよう努めてみてください。
参考文献