白内障は加齢とともに誰にでも起こりうる目の病気です。白内障は、目の中のレンズにあたる水晶体が濁ることで起こる病気です。白内障では、目がかすむ、視力が低下する、などの症状のほかに、まぶしさを強く感じることがあります。今回の記事では、白内障の原因や、なぜ白内障になるとまぶしく感じるのか、治療法や対処法を詳しく解説します。
白内障とは

白内障は、目のレンズの役割を果たす水晶体が濁ることで、視力低下などを引き起こす病気です。加齢とともに発症するリスクが高まり、50歳以上の方で増えてきます。ここでは眼球の構造から、白内障のメカニズムや症状などを詳しく解説します。
眼球の構造と水晶体の役割
眼球は、光を取り入れて電気信号に変え、脳へ伝える臓器です。
目に入った光は角膜、水晶体、硝子体(しょうしたい)と呼ばれる部分を順に通過して、目の奥にある網膜に到達します。このうち、角膜と水晶体はレンズ、網膜はフィルムに相当します。
水晶体の役割
水晶体は主に蛋白質と水分でできており、次の構造から成り立っています。
- 水晶体嚢
- 水晶体線維(核、皮質)
一番外側の水晶体嚢(すいしょうたいのう)は薄い弾力のある膜で、水晶体全体を包んでいる部分です。中には水晶体線維が含まれており、皮質部と呼ばれる部分の中心には核が配置されています。水晶体は透明で柔軟性に富んでおり、私たちが遠くや近くを見るときに、水晶体の厚みを変えて、カメラのレンズのようにピントを調節しています。
白内障になるメカニズム
白内障は、水晶体を構成する蛋白質が変性し、濁りが生じる病気です。水晶体が透明であるのは、水晶体を構成するいくつかのタンパク質が正常な構造を保っているからです。しかしさまざまな原因で、これらのタンパク質が分解されて変性することがあります。このため、もともと透明だった水晶体に濁りが生じ、汚れたレンズを通して周りを見ているのと同じような状況になります。
白内障の主な症状
白内障は、初期にはあまり症状がみられないため、早期発見が難しいとされています。白内障の症状は、病気の進行とともに徐々に現れます。霧視(むし)は白内障の代表的な症状ですが、そのほかにもさまざまな症状がみられます。
- 目がかすむ(霧視)
- まぶしさを感じる
- 視力が低下する
- 色の見え方が変わる
- 物が二重に見える
このような症状がみられる場合は、病気が進行してきているサインかもしれません。病状がたいへん進んでしまった場合は、目の中心の黒い部分が白く見えることもあります。
白内障のときの見え方
白内障のときの見え方の特徴について具体的には以下のようなことが挙げられます。
- 視界が曇る、ぼやけて見える
- すりガラス越しに見ているように感じる
- 全体が黄ばんだフィルターをかけたような色調に見える
- 色の鮮やかさがなくなり、薄く見える
- 外出したときに太陽の光をまぶしく感じたり、蛍光灯の光が鋭く感じられる
- 明るい光を見ると、光の周囲に輪がかかるように、にじんで見える
徐々に症状は進行し、日常的な作業も困難になることがあります。
白内障の種類と原因
白内障は、水晶体のどの部分に起こるかによって、以下の3つに分類されます。
- 核白内障
- 皮質白内障
- 後嚢(こうのう)下白内障
核は水晶体の中央にある部分で、この部分が濁るものを核白内障といいます。皮質は核を取り囲む層で、ここに濁りが生じるものを皮質白内障と呼びます。水晶体嚢は水晶体を包む薄い膜で、この部分が濁るものを後嚢下白内障といいます。
また、白内障はさまざまな原因で引き起こされます。ここではその原因を詳しく解説します。
加齢性白内障
加齢性白内障は、名前のとおり加齢によって起こる白内障です。白内障の原因のなかで特に多いとされます。老人性白内障と呼ばれることがあります。
先天性白内障
先天性白内障は生まれつき、または乳幼児のうちに存在する白内障です。遺伝的要因や胎内感染(妊娠中の感染)、全身の病気などさまざまな原因によって起こります。胎内感染としては先天性風疹症候群などが挙げられます。
続発性白内障
ほかの病気や薬の使用などに伴って引き起こされる白内障で、主な原因として以下のようなものがあります。
- 糖尿病
- ステロイドの内服
- 目の外傷(目が何かによって傷つけられること)
そのほかにも、紫外線や喫煙なども白内障のリスクを高める要因とされています。
白内障になるとまぶしいと感じる理由

白内障になると、まぶしいと感じることがあります。このまぶしさの原因は、混濁した水晶体によって目に入った光が散乱するためです。正常な水晶体では、光は直線的に通過しますが、白内障では混濁している部分で光が散乱され、網膜に異常な刺激として到達します。
これにより、白内障の方はまぶしさを感じるのです。
白内障で視界がまぶしい場合の対処法

白内障によるまぶしさは、日常生活に影響を与えることがあります。白内障で視界がまぶしい場合の対処法としては、サングラスの使用が挙げられます。
また、日常生活において次のような環境の調整や工夫を行うと、まぶしさを軽減できる可能性があります。
- 照明の調整(やわらかい光の照明を使用するなど)
- 物理的な遮光(広いつばの帽子を着用するなど)
特に紫外線は白内障の原因の一つとされているため、サングラスの着用などはまぶしさの対策だけでなく、日頃から取り入れておくとよいでしょう。また、夜間の対向車のライトなどで強いまぶしさを感じることもあります。症状が強い場合は運転を控えるようにしましょう。
白内障の診断と治療

白内障を正確に診断することは、適切な治療方針の決定に不可欠です。ここでは白内障の診断と治療について、詳しくみていきましょう。
白内障の診断方法
白内障の診断は、視力検査のほかにいくつかの検査を組み合わせて行います。具体的には以下のような検査があります。
細隙灯顕微鏡検査
細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査は、眼科で行われる拡大鏡を使った検査です。スリット状の細い光を当てながら顕微鏡で拡大して、水晶体を直接観察します。これにより、水晶体の状態を内部の方までしっかりと評価することができます。
眼底検査
眼底検査は、網膜の状態などを詳しく観察する検査です。白内障以外の病気がないかを確認することで、適切な治療方針を決定します。
白内障の主な治療方法
現在、白内障による視力低下を根本的に改善する治療法は手術以外にありません。ただし、ごく初期で、日常生活に支障がない段階では、点眼薬が使用されることもあります。しかし、一度濁った水晶体はもとには戻りません。
白内障手術は現在、白内障に対する大変効果的な治療法です。白内障手術は、以前は目の膜を大きく切開し、水晶体を摘出し眼内レンズを挿入していましたが、現在は小さな切開で手術ができるようになっています。
白内障の進行度と治療のタイミング
白内障の初期には自覚症状はほぼないとされています。病状が進行すると、目のかすみやまぶしさなどの自覚症状が出現し、さらに進行すると、視力低下やまぶしさが強くなってきます。治療のタイミングについては個人差がありますが、以下のような症状が見られた場合は治療が必要だと考えられています。
- 視力が低下して仕事や日常生活に支障がある
- 外ではまぶしくて極端に見えづらい
- 視力が低下し、運転免許の更新ができない
日本白内障学会では上記のような症状が一つでも当てはまれば、手術を検討するように記載されています。
白内障の手術について

白内障が進行してきた場合、一般的には手術を検討します。手術を行うかどうかは、それぞれの患者さんの状態に合わせて、医師と相談したうえで決定されます。現在、白内障の手術は超音波で水晶体を砕いて吸い出し、眼内レンズを挿入する方法が主流となっています。
白内障の手術の流れ
具体的に手術がどのように行われるか、白内障の手術の流れを説明します。
手術の当日は、手術の前に瞳孔(黒目の部分)を開く(散瞳)処置を行います。具体的には散瞳させる目薬を点眼します。白内障手術は基本的に麻酔も目薬で行います。局所麻酔といって、麻酔の薬を投与した部分にだけ効果が出るため、患者さんは意識がある状態で手術を受けることになります。
次に、実際の手術の流れについてみていきましょう。
角膜の縁を2-3mmほど小さく切り、そこから細い管を挿入します。この管は超音波で振動する細い管で、濁った水晶体の中身を砕いて吸い出します。次に、人工の水晶体である眼内レンズを細く折りたたんだ状態で挿入します。目の中でゆっくりとレンズを開き、適切な位置に固定されます。
レンズを入れ終わったら手術は完了となり、基本的には切開した場所を縫う必要はありません。
白内障の手術による見え方の変化
白内障の手術の後、多くの方が視界がこんなにも鮮明になるのか、と驚くでしょう。濁った水晶体が取り除かれ、透明なレンズが入ることで、光が十分に目の奥まで届くようになり、今まで霧がかっていたような視界がクリアに見えるようになります。そのほかにも白内障の手術による見え方の変化があるため、具体的に解説していきます。
まぶしさの変化
手術後は、手術前に比べてまぶしさに変化がみられることがあります。手術の前は濁った水晶体を通して見ていたのが、白内障の手術を行ったことによって濁りが取れ、透明なレンズを通して見ることができるようになります。このため多くの光が目の中に入るため、まぶしく感じるのです。このまぶしさについては、段階的に良くなることが多いとされています。
青視症
青視症(せいししょう)とは、青みがかって見えることをいいます。手術の前は、水晶体が黄色味を帯びているため、青色などの光が目に入りづらくなっています。白内障の手術の後は青色の光が目に入りやすくなります。この青視症も、時間が経つと改善してくる方が多いと言われています。
飛蚊症
飛蚊症(ひぶんしょう)は、目の前に小さな点や糸くずといったごみのような黒い影が飛んでいるように見える症状です。これは、硝子体の変化や混濁が原因であり、その影が網膜に落ちて黒い影のように見えるのです。手術の後に自覚する方がいますが、手術を行う前は霞んで見えていなかったので気にならなかった飛蚊症が、手術の後はよく見えるようになるためです。
飛蚊症は多くの場合、生理的な硝子体の混濁が原因ですが、網膜剥離などの前兆のこともあるため、症状が気になる場合は眼科を受診するようにしましょう。
視野周辺の違和感
一部の眼内レンズでは、光が入る方向によって、構造上光が分散したり、レンズのふちで反射したりします。そうすると、視野の端に幕がかかったように見える、三日月の雲のような像が見える、といった症状が出る方がいます。また、光がにじんで見えることもあります。
白内障手術後に注意したいこと
白内障手術後には、目をこすらない、押さえないといった基本的なことのほかに、注意すべきことがいくつかあります。術後の回復を順調に進め、合併症を予防するために、以下の点に気を付けましょう。
手術の後の点眼
手術の後、処方された目薬をきちんと点眼しましょう。指示された回数や期間を守って正しく行います。
洗顔、洗髪、入浴の制限
手術の後1週間程度は洗顔や洗髪を控えます。経過が問題なく医師より許可が出たら、目を強く圧迫しないように注意しながら行いましょう。
シャワーについては、顔に水がかからなければ翌日から可能ですが、水や石けんが目に入らないよう十分注意してください。お風呂(湯船につかること)は感染予防のため、約1週間は避けた方が安全です。
飲酒、喫煙
お酒は手術の後1週間ほどは控えます。喫煙も、タバコの煙が目への刺激となるため、1週間ほどは控えた方がよいとされています。
仕事、運動
デスクワークなどの仕事や散歩程度の運動は、適度な休憩をとりながら、手術の翌日から可能なことがあります。重労働や汗をかくような運動は、手術の後1週間ほどは控えましょう。
白内障手術後にまぶしいと感じる場合の対処法

白内障の手術後に、一時的にまぶしさを感じることは珍しくありません。手術の直後はとてもまぶしく感じたとしても、時間の経過とともに改善してきます。まぶしさが続くようなときは、サングラスの着用がすすめられています。また、手術の前に行うことのできるまぶしさの対策を解説しましたが、これは手術の後にも有効です。
- 照明の調整(やわらかい光の照明を使用するなど)
- 物理的な遮光(広いつばの帽子を着用するなど)
手術の後のまぶしさは正常な反応で徐々に改善することが多いとされているため、こういった対策を取りながら経過をみていきましょう。ただし、症状が長く続く、日常生活に支障をきたす、症状が悪化するなどの場合は必ず医師に相談するようにしましょう。
まとめ

白内障は加齢に伴っておこる、代表的な目の病気です。白内障によるまぶしさは、水晶体が混濁していることによる、光の散乱が主な原因といわれています。まぶしさに対する工夫として、サングラスの着用などがありますが、手術が特に効果的な治療法とされています。目のかすみやまぶしさで困っている場合は、適切な診断と治療のため、早めに眼科に相談するようにしましょう。
参考文献
- 安藤 伸朗, (2016.2.17), 症状別病気解説, 白内障, 恩賜財団済生会
- 日本眼科学会, 眼の病気 眼の構造
- 日本眼科学会, 眼の病気 白内障
- Kierstan Boyd, (2024.10.9), What Are Cataracts?, American Academy of Ophthalmology
- Cleveland Clinic, (2023.7.3), DISEASES&CONDITIONS, Cataracts (Age-Related)
- 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト 先天性風疹症候群
- 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 先天白内障
- 髙橋 直巳, (2023.02.27), 白内障治療の最新事情と眼内レンズの選び方, 恩賜財団済生会
- 大鹿 哲郎(2020.12.7), 白内障手術と眼内レンズ 眼内レンズを上手に選ぶために, 日本眼科医会
- 日本白内障学会, 白内障になったらどうすればよいのか
- 清水 公也, 白内障手術を受ける方へ 知っておきたい白内障術後のケア, 日本眼科医会