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白内障

白内障の治療内容は?手術の流れや眼内レンズの仕組みも解説

白内障は自分で治すことができる?一般的な治療法や自覚症状まで紹介

眼科の患者数の多くを占める白内障。もともとの視力に関わらず、40代を超えると確実に目の衰えはおとずれます。 その中でも白内障の原因である水晶体の濁りは、年とともに誰にでも起こってくる現象です。白内障の症状は徐々に進行するので、生活に支障をきたすのは60代以降といわれていますが、個人差もあります。いざというときにあわてず治療できるよう、今から白内障の病気を理解し、治療法についての正しい知識をつけ、治療の選択肢を広げましょう。

白内障とは

白内障とは 白内障とは、眼球内にある「水晶体」が白く濁って視力が低下する病気のことです。 水晶体とは、そとからの光を集めてピントを合わせる役割をもつ部分で、人の目をカメラに例えると、ちょうどレンズのような働きを担います。水晶体は、通常、透明な組織のため、集めた光が眼底にきれいに届きます。しかし、これが濁ってしまうことで、見えにくくなるという仕組みです。

一度濁ると元には戻らない

水晶体の中身は、タンパク質で構成されています。ここで、同じタンパク質である卵白を例に説明していきましょう。熱を加える前の卵白は透明です。タンパク質には自己修復機能があり、異常が起こっても自分で修復する能力があります。しかし、卵白に熱を加えるとタンパク質の修復機能が次第に失われ、白く変色して透明度は下がってしまいます。 水晶体も同じように、加齢などの原因で酸化ストレスがかかり、修復機能が失われ、濁ってしまうのです。加熱され、白くなった卵白は透明には戻りません。水晶体も同じように、一度濁ると透明な状態には戻ることはできないのです。 このように、いろいろな原因で水晶体の中身であるタンパク質が変性して濁ってしまうのです。 白内障の原因は、主に加齢だといわれています。加齢によって眼内に老廃物が蓄積し、水晶体の内部が酸化や糖化することが原因のようです。加齢を原因とする白内障は50代ころから始まり、ゆっくり進行します。また、割合としては50代で40~50%、60代で70~80%、70代では80~90%、80歳以上では、100%が発症するというデータがあります。年齢とともに発症率が上がるのは、加齢に起因する「加齢性白内障」が約9割の原因となっているためです。なお、加齢性白内障以外にも、発症原因ごとに先天性白内障、若年性白内障なども存在します。

白内障の症状

白内障の症状 では、透明な水晶体が白く濁ってしまうと、どんな目の症状があらわれるのでしょうか? 加齢性白内障は水晶体の周囲から徐々に濁り始めますが、発症初期は自覚症状がないことがほとんどです。見え方も正常時と違いがわからないほどで、水晶体の濁りはひとりひとり違うため症状もさまざまなため、白内障と気付かないうちに進行していく傾向にあります。いくつか、具体的な症例を解説していきましょう。

目がかすむ、ぼやける

水晶体の濁り方には個人差がありますが、水晶体の中心部分(核)の混濁が起こると、水晶体の核の部分が玉ねぎの芯のように硬く混濁する場合があります。そうなると水晶体のレンズとしての力(屈折力)が非常に強くなります。その結果、外から入ってきた光のピントが合う場所が網膜より前の方に移動するので、近視が強くなります。網膜へ到達する光が減少するので視力が落ちて、ぼやけたり、かすんだりするようになります。

光がまぶしく感じる

外から目の中に入ってきた光は必ず水晶体を通過しますが、水晶体が混濁している部分と透明な部分とで濁りの程度が混ざっていると、光は乱反射します。その乱反射をとてもまぶしく感じ、視力も低下します。この状態は光の入ってくる方向によって異なることが多く、朝夕の散歩時のまぶしさや、太陽を背にして向かってくる人の顔が見えないなどと表現することがありますが、これらは白内障の初期症状であるといえます。

二重・三重に見える

片目で物体を見たときに重なって見えるのは、白内障で多く見られる症状です。夜空の月を片目ずつ見ると症状が確認できます。水晶体が不均一に濁っていると、月を片目で見たときに二重、三重にかさなって見えます。白内障の疑いがある方は確認してみてください。

白内障の治療

白内障の治療 白内障は、手術をすれば視力の回復が見込める病気ですが、症状が軽度の場合は点眼薬や内服薬による治療も行います。手術による治療と薬による治療について説明します。

点眼・内服による治療

初期の段階では、視力の低下や目のかすみは日常生活に支障はないことが多いため、点眼治療や内服薬による治療を行います。しかし、これらはあくまでも、症状の進行を抑えることが目的であり、視力や目のかすみの進行を遅らせる治療にすぎません。 水晶体が透明に戻るわけではないので、回復するわけではなく一過性のものであり、症状が進行した場合には外科的手術を行います。 また、「視界のぼやけ」「まぶしさ」「ピントが合わない」など、それらの不快な症状を減らすため、サングラスやメガネの利用を推奨することもあります。

手術による治療

白内障が進行して生活に支障をきたすようになったら、外科的手術を行うことがあります。現在では「超音波水晶体乳化吸引」が一般的です。ではその手術方法を説明します。 超音波水晶体乳化吸引術とは、濁った水晶体を超音波で粉砕して取り除き、代わりに人工水晶体である眼内レンズを挿入するものです。多くの方が安心して受けている手術ではありますが、眼内レンズにピント調節機能がないため、手術後もメガネが必要なこともあります。 超音波乳化吸引術のメリットは、傷が小さく、比較的短時間で終わる点です。傷口が小さいことで、術後の回復も早く、乱視や感染のリスクも低くなりました。また、単焦点レンズを超音波乳化吸引術で挿入する手術には保険診療が適用されます。

白内障の手術で扱われる「眼内レンズ」とは

白内障の手術で扱われる「眼内レンズ」とは 眼内レンズとは、水晶体の代わりに目の中に埋め込むレンズのことです。眼内レンズは直径6mmほどで、目の中でレンズを固定するためのループやプレート形状のものがあります。 しかし、水晶体のようにすべてにピントを合わせられるわけではありません。眼内レンズには種類があるので、自身に適した眼内レンズを選ぶためには、生活する中で一番見ている距離、見たい距離を考えることが重要です。 なるべく裸眼で過ごせるよう、見たい範囲が明るく見える=ピントが合う眼内レンズが「適したレンズ」といえます。次にその眼内レンズの種類と仕組みを個別に説明します。

単焦点眼内レンズ

単焦点眼内レンズとは、遠方、中間、近方のどこか一つにピントを合わせた眼内レンズのことです。ピントを合わせた距離の範囲でクリアな視野が得られます。遠くに焦点を合わせた場合は手元を見るための老眼鏡が必要になり、近くに焦点を合わせた場合には遠方を見るメガネが必要になることもあります。また、単焦点眼内レンズは健康保険がすべて適用されるので、費用面でのメリットが大きいといえます。

多焦点眼内レンズ(低加入)

このタイプの眼内レンズは、遠方と中間にピントを合わせることができます。ピントを合わせた距離の範囲内ではクリアな視野が得られます。 白内障手術の合併症で、多焦点眼内レンズ特有の不快な症状であるハロー・グレア(光視症)などを抑えるレンズもありますが、手元を見る用のメガネが必要な場合もあることも考慮しておきましょう。一部のレンズでは保険適用になりました。

多焦点眼内レンズ(高加入)

この眼内レンズは、遠方から中間または近方まで、単焦点よりも広い範囲でピントが合わせられるタイプです。幅広い距離にピントが合うため、ほとんどの生活場面において基本的には裸眼で過ごすことができます。ただし、補助的に見えにくい距離をカバーするため、メガネが必要となることもあります。 また、2020年より、多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術が先進医療の対象から外れたため、一部の健康保険適用タイプを除き、ほとんどの多焦点眼内レンズは選定療養または自由診療での治療となります。先進医療保障は受けられないことをご注意ください。

トーリック眼内レンズ(乱視用)

白内障を治療するとともに乱視も軽減できるレンズのことをトーレック眼内レンズといい、さらに単焦点と多焦点眼内レンズがあります。角膜のゆがみによる乱視の矯正に適したレンズですが、乱視の種類や目の状態によっては、使用に適合しない場合もあります。

眼内レンズ挿入の流れ

眼内レンズ挿入の流れ 白内障手術には、日帰り手術と入院手術がありますが、 入院の場合は、1から3日間ほど入院することが一般的です。眼内レンズの種類や度数を医師と相談して決定し、手術の1週間前には眼内レンズの度数を確定させ、手術前には点眼の処方も受けます。そしていよいよ手術です。以下、手術の詳細を説明します。

手術前の準備

術前検査で目の状態を調べ、眼内レンズの種類や度数を決めると、手術の1週間前には眼内レンズの度数が確定され、点眼薬の処方がされます。手術前日には翌日に備えて入浴や洗髪、洗顔を行い、医師の指示に従って点眼を行います。そして十分なリラックスを心がけて睡眠します。手術当日は不安にならないよう精神安定を心がけます。なお、手術は局所麻酔で行われますので、安心しましょう。 手術当日は所定の時刻までに病院に到着して受付を済ませます。その後、血圧測定を行い、抗生物質と瞳孔を大きく開く散瞳液を点眼します。抗生物質を点眼するのは、手術後の炎症や感染症の発症を抑えるためです。また、散瞳する目的は水晶体を取り除いて眼内レンズを挿入するため、水晶体を観察する必要があるからです。これにより、虹彩よりも奥の水晶体まで観察が可能となります。さらに、手術をするための麻酔点眼薬を5分間隔で1時間前後使用し、手術開始となります。

眼に穴をあける

手術では、眼内レンズを入れる穴を作ります。水晶体を包む水晶体嚢(のう)という袋の前面に丸く切れ目を入れます。精密な作業のため、顕微鏡で手元を見ながら行いますが、病院によっては、この作業をレーザーで行うこともあります。 角膜切開、前嚢切開、水晶体の断片化という過程は白内障手術において非常に重要であり、レーザー手術機器を使うことで、より精密・精確な施術が可能となるからです。

水晶体の除去

濁った水晶体を取り除きます。水晶体嚢の切れ目から器具を入れて、超音波で水晶体を砕きながら吸引して取り除きます。

眼内レンズの挿入

空になった水晶体嚢の中に眼内レンズを入れて固定します。手術のために眼球にあける穴は極めて小さいものですが、そこから眼内レンズを挿入すると、眼内でゆっくりと開き、適した形状になります。

術後の注意点

手術直後は、目の充血や、目がゴロゴロする、涙がでる、目がかすむなどの症状がでることがあります。これらの症状は数日から1~2週間で治ります。 また、手術後の当日の注意点としては、目を押さえたりこすったりせず、洗顔やメイクはしないで眼帯を装着します。日帰り手術の場合でも車の運転をして帰宅はしないでください。食事は普段どおりでいいですが、アルコールやたばこはやめましょう。点眼薬や内服薬については、医師の指示どおりに行います。 手術後の感染予防のため、1週間は洗顔や洗髪を控えます。洗顔に代えて固く絞ったタオルで目を避けて顔を拭くことはできますが、洗髪は医師の許可がおりてからにしましょう。 手術中、あるいは術後に目の中に細菌が入り感染症を起こすことがあります。その中でも術後眼内炎は最も重い合併症です。まれに失明にいたることがありますが、最近の手術ではその頻度は0.1%未満、1000人に1人未満です。細菌にはMRSAと呼ばれる通常の抗生物質に抵抗するものがあらわれており、新しい抗生物質がでると耐性菌がでるというイタチごっこの状態で、この合併症を完全にはゼロにできない事情があります。

後発白内障になることも

手術後数カ月から数年して、「まぶしくなる」「目がかすむ」というような症状がでることがあります。これが後発白内障といわれるもので、手術の際に残しておいた水晶体の後嚢が濁って見えにくくなる状態をいいます。この後発白内障には手術の必要はなく、レーザーを使って簡単に濁りを取ることが可能です。視力はすぐに回復しますので、入院の必要もありません。

まとめ

まとめ 白内障を完治させるには、現在では外科手術しかありません。高齢化社会とともに白内障の手術も増え続け、60歳以上での眼科手術の約4割を占めているといわれています。技術もさることながら、手術を手軽に受けられるようなクリニックでの仕組みも進んできています。白内障の治療はこれからもどんどん進歩していくはずです。その準備としても、自身の目の状態を意識し、定期的な検査を受けるとともに、治療法なども正しく知っておきましょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
柳 靖雄医師(横浜市大 視覚再生外科学客員教授 お花茶屋眼科院長)

柳 靖雄医師(横浜市大 視覚再生外科学客員教授 お花茶屋眼科院長)

東京大学医学部卒業(1995年 MD)/ 東京大学大学院修了(医学博士 2001年 PhD) / 東京大学医学部眼科学教室講師(2012-2015年) / デューク・シンガポール国立大学医学部准教授(2016年-2020年)/ 旭川医科大学眼科学教室教授(2018年-2020年) / 横浜市立大学 視覚再生外科学 客員教授(2020年-現在) / 専門は黄斑疾患。シンガポールをはじめとした国際的な活動に加え、都内のお花茶 屋眼科での勤務やDeepEyeVision株式会社の取締役を務めるなど、マルチに活躍し ています。また、基礎医学の学術的バックグラウンドを持ち、医療経済研究、創薬、国際共同臨床研究などを行っています。

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