白内障と聞くと高齢者に多い疾患というイメージを持つ人もいるでしょう。
しかし白内障には複数種類があり、小児が発症する小児白内障もあります。
出生した段階で発症している先天性白内障もその1つです。
先天性白内障は、約1万人あたりおよそ3人という割合で起こる稀な病気です。
その症状は生まれつき目の水晶体の透明性が低いというもので、良好な視力を得るために治療は急を要します。
では先天性白内障はどのように発見されるのでしょうか。また先天性白内障の原因をあらかじめ予防することはできないのでしょうか。
この記事では、先天性白内障の原因と症状・治療法・治療後の訓練と予防について解説します。
先天性白内障の原因・症状
- 白内障には先天性のものもあるのですか?
- 白内障には先天性と後天性の2つの種類があります。この2つは、発症するタイミングでそれぞれに分けられており、そのうち先天性は生まれたときにすでに発症している白内障を指します。それに対して後天性は、加齢や外傷などの影響によって発症した白内障です。
- 先天性白内障の原因を教えてください。
- 先天性白内障の原因には、以下のようなものがあります。
- 遺伝的問題(染色体異常)
- 眼球のほかの形成異常
- 母体内での感染(風疹・トキソプラズマ・サイトメガロウイルス)
- 代謝異常疾患
白内障は目の内側の水晶体という組織の透明性が低下して、白濁する病気です。水晶体には、水とクリスタリンというほかの臓器にはみられない特有のタンパク質が存在します。
白内障は、このクリスタリンが変質してしまうことで透明性が失われた状態です。そしてクリスタリンの変質や水晶体の形成異常の原因といわれているのが、これらの遺伝子の変異だと考えられています。
遺伝子変異などの原因の大部分は、そのほとんどが不明です。また、母体内で風疹ウイルスに感染した場合、先天性風疹症候群になる可能性があります。この症状として、先天性白内障が見られることもあります。
- どのような症状がありますか?
- 先天性白内障の症状には、以下のようなものがあります。
- 瞳孔領の白濁
- 眼振(眼球が左右に揺れている)
- 斜視(片方の目だけ正面を向いていない)
- 視力の発達障害・弱視
- 小角膜
- 小眼球
視力は生後1ヵ月頃から6〜8歳頃にかけて発達します。先天性白内障によって視覚刺激が遮断された状態が続いてしまうと、視覚遮断弱視になるリスクが高くなるでしょう。
手術前に弱視になってしまっていると、手術によって濁った水晶体が取り除かれても術後に正常な視力に戻る可能性は低くなります。
- 先天性白内障は両目に起こるのですか?
- 先天性白内障は、片目で起こることもありますが、両目に発見されることが少なくない病気です。白内障の症状が両目にみられる場合と片目にみられる場合では、手術が推奨される期間が異なります。
その期間は両目の場合は生後10〜12週、片目の場合は生後6週までです。推奨期間より手術が遅くなるとその後の視力へと影響するといわれています。
- 好発する年齢を教えてください。
- 小児白内障は発症する時期で2つに分類され、白内障の症状が生まれつきに見られる場合と成長とともに症状が出現する場合があります。このうち先天性白内障とは生まれつきに症状があるものを指し、もう一方の成長とともに症状が出現するものを発達白内障と呼びます。
症状の発生時期は異なれどこれらの原因は、母体内での感染や遺伝的な問題などの先天的なものであることは共通です。
先天性白内障の治療法
- 先天性白内障はどのように発見されますか?
- 先天性白内障は検診で発見されることがあります。新生児・乳児検診の視覚診察では、ペンライトを使用して瞳孔反応の確認とその他の異常初見の有無を確認します。
新生児の視力はとても弱くおよそ0.01〜0.02程度です。この視力は生後2ヵ月頃から発達します。先天性白内障になると視覚刺激が遮断されて視力発達の妨げになるため、早期に手術が必要です。
同様に先天性緑内障や先天性眼底疾患もまた重篤な視力障害や失明につながる怖い病気です。そのためこれらの病気の発見の機会である検診時には、以下の項目の確認が行われます。- 白色瞳孔の有無
- 羞明・流涙・充血の有無
- 角膜混濁の有無
- 眼球・角膜の左右差
- まぶたの異常
- 瞳孔の形の異常
- 瞳孔の白濁の有無
先天性白内障は早期の発見と治療開始が以降の視力に大きく影響します。もし瞳孔が白く見える場合には、検診を待たずにすぐに医療機関を受診しましょう。
- 先天性白内障の治療法を教えてください。
- 先天性白内障は治療適応であった場合、全身麻酔で検査・手術をします。手術は角膜輪部から、混濁した水晶体と前部硝子体の切除が行われます。
手術時に1歳半未満の場合は水晶体切除のみが行われ、1歳半以上になっている場合には眼内レンズ挿入手術も行うでしょう。
- 治療後は定期検診を受ける必要がありますか?
- 先天性白内障の手術後は、必ず定期検診を受ける必要があります。白内障手術後は視力の発達を促すために、手術をした方の目を積極的に使う健眼遮閉という方法の弱視治療が行われます。良好な視力を獲得するために、弱視治療の評価として定期的な検診は欠かせません。
このほかにも好発白内障・緑内障・網膜剥離・斜視など先天性白内障の合併症が起こっていないか長期的に経過を見ることが大切といわれています。
先天性白内障の治療後の訓練や予防
- 治療後の訓練ではどのようなことを行いますか?
- 先天性白内障の治療では、透明性の低下した水晶体の切除が行われます。水晶体は本来、ピントを合わせる機能を担っている組織です。そのため水晶体を除去すると、通常は遠視という遠近両方にピントの合っていない状態になります。
この場合、眼鏡や眼内レンズを使用しなければ、目のピントを合わせることができません。そのため先天性白内障の手術後には、弱視に対して視能訓練が行われます。
この視能訓練は、アイパッチという目を隠す道具を使い健康な方の目を隠して、手術をした方の目を鍛えるものです。物を立体的に見るための立体視という目の機能は、生後2ヵ月頃から発達します。そのためこの頃までに白内障手術を行い、弱視訓練と眼鏡による屈折矯正を進めることが良好な視力の獲得につながります。
- 先天性白内障を予防する方法はありますか?
- 先天性白内障の原因の1つに、母体内での風疹ウイルスへの感染があります。妊娠中に母親が風疹ウイルスに感染した場合、先天性風疹症候群(CRS)の症状が現れることがあります。
この先天性風疹症候群の3大症状は、心疾患・白内障・難聴です。このうち、先天性白内障は妊娠3ヵ月以内の母親の感染で発生します。先天性風疹症候群は、妊娠する可能性のある女性や家族や職場など周囲の人のワクチン接種が予防として有効です。
遺伝的要因への対策は困難ですが、妊娠前・妊娠中のウイルス感染対策は、先天性風疹症候群の予防として重要とされています。
編集部まとめ
一般的に白内障というと加齢に伴う後天性白内障のイメージが強いでしょう。
しかし生まれつきみられる白内障も存在しており、先天性白内障といいます。
主な原因は遺伝的な要因です。その他には母体内でのウイルス感染・眼球形成異常・代謝異常などによるものもあります。
先天性白内障は完全に予防することはできませんが、妊娠時からワクチンを接種するなど、可能な限りの予防をしておくことをおすすめします。
瞳孔が白く濁るほか、斜視や眼振も先天性白内障の症状です。生まれてすぐでなくても、成長過程で症状が出る場合もあります。
先天性白内障では、出生後早期の発見・手術・術後の弱視訓練を行うことで良好な視力が獲得されます。
思いあたる症状に気付いたらすぐに眼科を受診するようにしましょう。
赤ちゃんは自分で体の不調を訴えることはできません。そのため先天白内障もまた両親や家族の気づきが非常に大切です。
常日頃から体調は勿論、目の様子も確認するようにしましょう。
また先天性白内障は、治療を終えてからも訓練や合併症の発生がないことを確認する必要があります。
治療後も定期的に医療機関の検診も受けるようにしましょう。
参考文献