飛蚊症は老若男女問わず、多くの人に起きる目の症状です。自覚症状があったとしても、そのまま放置している人も少なくないでしょう。生理的な原因で起きる飛蚊症は心配ありませんが、ほかの病気によって飛蚊症が起きている場合は早期の治療が必要です。飛蚊症とはどのような症状で、何が原因で起きるのでしょうか。また、飛蚊症はレーザー治療で改善することがあるのでしょうか。飛蚊症や飛蚊症レーザー治療について解説します。
飛蚊症の概要
飛蚊症は日本でも多くの人が自覚している目の症状です。痛みを感じるわけでも日常生活に支障があるわけでもないけれど、何となく気になるという人もいるのではないでしょうか。誰にでも起きる可能性がある飛蚊症とはどのようなものなのかを解説します。
飛蚊症とは
飛蚊症は、虫に見えるような物体が視界のなかで動いて見える状態のことです。見え方は人によって異なり、黒い点や糸くず、小さな影のように見える場合もあります。目をこすったりまばたきをしたりしても消えることはありません。特に明るい場所や白い壁などの場所では見えやすくなります。 飛蚊症は特に高齢者や強い近視の人は自覚しやすい傾向にあるといわれています。ただし、飛蚊症が現れる年齢は幅広く、20代で自覚する人もいます。多くの場合は加齢によるもので特に心配はいりませんが、重大な病気が潜んでいるケースもありますので、飛蚊症の症状が見られたときはできるだけ早く眼科を受診しましょう。
飛蚊症の主な症状
飛蚊症の症状は、視界のなかに浮遊物が見えるというものです。浮遊物の種類は、糸くずのようなひも状、ゴマ粒のような点状、輪っか状、タバコの煙状、虫状、カエルの卵状に連なった形など、人によってさまざまな形状で見えるのが特徴です。色の見え方も、黒や白のほか、半透明の場合もあります。 種類ごとの傾向としては、若年者の場合はひも状や点状、自然な老化で起きるのは拡散した雲のような形の浮遊物が見られることがあるようです。
飛蚊症の見え方
飛蚊症の場合は、視線を動かすと一緒に浮遊物も付いてくることがあります。特定の位置に頭があるときに見えるケースもあります。車の運転中、テレビを見ているとき、作業中など、目を動かす動作をするときに浮遊物が見え、煩わしく感じる人も少なくありません。 生理的な理由で起きる飛蚊症の場合は、浮遊物の数や形にあまり変化がないことがほとんどでしょう。しかし病的な理由の飛蚊症の場合は、浮遊物の数が急に増加するなど、急激な変化が見られることがあります。飛蚊症の見え方が変わったと感じた場合は、早めに眼科を受診して検査を行いましょう。
飛蚊症が視力に与える影響
飛蚊症自体が視力に影響を与えるわけではありません。ただし、飛蚊症の原因である硝子体の濁りが視界の中央にある場合は、見えにくさから視力の低下につながる可能性もあります。 ただし、網膜剥離によって起きている飛蚊症の場合は、急激な視力低下が起きることもあります。症状に気付いたら早めに一度眼科を受診しましょう。
飛蚊症の原因
飛蚊症は、生理的な飛蚊症と病的な飛蚊症の大きく2つに分けられます。ほとんどの場合は加齢による生理的原因による飛蚊症です。しかし、場合によっては重大な病気が潜んでいるケースもあります。飛蚊症の主な原因について知っておきましょう。
生理的な飛蚊症
眼球内の大部分には、透明なゼリー状の物質である硝子体が入っています。光が目に入ると、硝子体を通過して網膜まで達します。この硝子体に何らかの原因で濁りや曇りがあると、その影が網膜に映ることで、浮遊物が動いているように見えます。 生理的な飛蚊症の場合は、加齢によるものと先天的なものの2つが主な原因です。加齢によって、硝子体はゼリー状から液状へと変性します。これによりコラーゲンが塊を作り、影ができることがあります。この塊による影が浮遊物の正体です。また、後部硝子体剥離も加齢が原因で起こることがあるものです。 先天的な理由としては、胎児のときに眼球が作られる過程において、通常であれば眼球形成時に消える血管が、形成後も名残として残ってしまうケースがあります。これにより先天的な飛蚊症が現れます。
後部硝子体剥離
後部硝子体剥離とは、硝子体が萎縮してしまい硝子体の後ろ側が網膜から剥がれてしまう状態のことです。剥がれた部分が浮遊物に見えることが飛蚊症の原因となります。後部硝子体剥離は、飛蚊症の原因としてよく見られます。硝子体剥離は加齢によって硝子体が萎縮することが主な原因ですが、強度近視の人にも起きやすいと考えられています。
強度近視
強い近視の場合、眼球の奥行きが長くなるため、網膜や脈絡膜が後方に引き伸ばされる形になることが多くあります。この場合、網膜に負荷がかかることで眼底異常が起きやすくなり、変性する箇所が生じて後部硝子体剝離につながることがあります。また、強度近視の場合は網膜剥離にもなりやすいため注意が必要です。
硝子体出血
硝子体自体には血管がありませんが、眼底出血が起きると硝子体のなかに血液が溜まることがあります。多くの場合は出血しても自然と吸収されていきますが、うまく吸収されなかった場合に、血液が光を遮り、もやのように見える飛蚊症を自覚するケースがあります。 なお、硝子体出血が起きる原因は、硝子体が網膜の血管を引っ張ることで傷つく、網膜裂孔が生じた際に網膜血管が傷つく、糖尿病網膜症により新生血管が破れるなどさまざまです。
ぶどう膜炎
ぶどう膜炎とは、ぶどう膜や周辺組織が炎症を起こした状態のことです。ぶどう膜は虹彩、毛様体、脈絡膜で構成されており、たくさんの血管が通る重要な組織です。自己免疫疾患や感染症から原因不明のものまで、ぶどう膜炎の原因はさまざまです。ぶどう膜炎を発症すると硝子体内にも混濁が起きる場合があり、飛蚊症を自覚することがあります。炎症が悪化すると浮遊物が増加して、視力低下につながることもあるでしょう。ぶどう膜炎は失明に至るケースもある病気ですので注意が必要です。
飛蚊症レーザー治療について
飛蚊症は治療を行わないことが多く、ほとんどの場合が経過観察となります。生活に支障が出る場合など、治療を行う場合は、多くはレーザー治療が選択されます。飛蚊症のレーザー治療とはどのようなものなのでしょうか。治療を受けられる条件や費用相場などを解説します。
飛蚊症レーザー治療とは
飛蚊症レーザー治療とは、濁ってしまった硝子体に対して、特殊なレーザー光線を照射することで、浮遊物の正体である硝子体内の混濁をなくす手術のことです。飛蚊症は硝子体内部でコラーゲンが塊になっていることが原因であるため、このコラーゲンの塊にレーザーを当てることで分解や気化をさせて、飛蚊症の原因を取り除きます。 レーザー治療の所要時間は15分~20分程度と短時間です。レーザー治療ではメスは使用せず、点眼麻酔を使用するため、手術中の痛みもありません。治療箇所の大きさや場所によっては、複数回に渡ってレーザー照射を行う場合もあります。
飛蚊症レーザー治療の適用条件
飛蚊症レーザー治療が適用できるのは、生理的な飛蚊症の人で、生活に支障がある場合です。特に後部硝子体剥離によってワイスリングが生じている場合には飛蚊症レーザー治療による効果が見込めます。ワイスリングとは、後部硝子体剥離によって、視神経乳頭縁に接する硝子体がリング状に剥がれることで、輪っかのような形状の浮遊物が見えるタイプの飛蚊症のことです。 なお、浮遊物の種類が細かい糸や点状の場合や雲状の場合は、レーザー治療は効果がありません。また、照射したい位置が網膜や水晶体に近い場合、角膜、水晶体、硝子体に強い混濁がある場合、混濁が小さすぎる場合、緑内障などのほかの病気がある場合は、レーザー治療はできませんので注意が必要です。レーザー治療を希望する場合は、事前に適用可能かを検査しましょう。
治療当日の流れ
飛蚊症レーザー治療では、基本的に入院の必要はありません。多くの場合が日帰り手術となります。 当日は診察ののち、点眼麻酔をします。その後はレーザー用コンタクトを装着してレーザーの照射が行われます。照射時間は15分~20分で済むことがほとんどでしょう。治療後は検査をしたうえで帰宅が可能です。治療完了後は、定期健診で経過観察をしていきます。 なお、治療直後は軽い不快感、充血、一時的なかすみ目が生じることがあります。また、しばらく物が見えづらくなりますので、当日は車やバイクの運転はできません。治療後の運動も控えましょう。
飛蚊症レーザー治療の費用相場
飛蚊症レーザー治療は、ほとんどの場合は保険が適用されないため自費診療となります。治療にかかる費用は、片眼10万~15万円程度、両目20万~30万円程度が相場です。回数や状況、クリニックによって費用は異なりますので、実際に治療を受ける場合には事前に費用を確認しておくとよいでしょう。
飛蚊症レーザー治療の注意点
治療に関する注意点としては、治療中に目を動かさないことが挙げられます。目を動かすと正確な治療の妨げになりますので気を付けましょう。また、レーザー治療を受けるとまれに黒い点が見えることがあります。これはレーザーによる気泡であり、ほとんどの場合は数日で消えるため心配ありません。 また、レーザー治療によって新たに飛蚊症が増えることはありません。ただし、目立っていた浮遊物がなくなることで、今まで気付いていなかったほかの浮遊物が気になるケースもあります。条件が合えば再照射することもできますので、治療後に違和感がある場合は病院で相談することをおすすめします。 短時間の治療ではありますが、飛蚊症レーザー治療においては誤照射などのリスクもゼロではありません。レーザー治療によって、網膜損傷、外傷性白内障、眼圧上昇が起きたケースも報告されています。まれではありますが、こうしたリスクがあることも知ったうえで、レーザー治療を検討しましょう。
レーザー治療以外の飛蚊症の治療法
飛蚊症ではレーザー以外に治療方法はあるのでしょうか。飛蚊症と診断されたとき、レーザー治療以外に採られる治療法をご紹介します。
生理的な飛蚊症は経過観察
主に加齢を原因とした生理的な飛蚊症については、基本的には治療の必要はありません。特に何もしなくても心配ありませんので、多くの場合は経過観察になります。生理的飛蚊症であっても、見えにくさや煩わしさから日常生活に支障がある場合にはレーザー治療をすることもできます。気になる場合には病院で相談するとよいでしょう。 また、飛蚊症の見え方が急に変わったときには別の病気が疑われます。いつもと見え方が違うと感じた場合には、経過観察といわれている場合でも、早めに病院を受診してください。
ほかの病気が原因の場合は早期治療
飛蚊症の原因がほかの病気によるときは、まずはその原因の早期治療が必要です。 網膜裂孔が進んで網膜剥離が起きている場合には、網膜硝子体手術が行われます。網膜硝子体手術とは、硝子体のなかにある原因を直接取り除き、網膜における病気を治す手術のことです。眼球に3つの切開創を作り、眼球の形状を保つための灌流液(かんりゅうえき)、眼内を照らす照明、カッターなどの手術器具を挿入して治療を行います。また、まれではありますが、手術後に硝子体出血、感染症眼内炎、新たな網膜裂孔や網膜剥離、眼圧上昇、増殖硝子体網膜症などの合併症が生じることがあります。
まとめ
飛蚊症の原因には、加齢による生理的なものとほかの病気が影響している病的なものがあります。生理的な飛蚊症であれば特に心配はいりませんが、病的な飛蚊症の場合には早期の治療が必要ですので、飛蚊症を自覚したらできるだけ早く眼科を受診することをおすすめします。 生理的な飛蚊症の場合でも、浮遊物が気になる場合はレーザー治療で改善が見込めます。レーザー治療は短時間でできる手術です。浮遊物の形状や症状によっては手術に適用しないこともありますので、レーザー治療を希望している場合は、眼科で相談するとよいでしょう。
参考文献