硝子体とは、眼球の内部にある組織です。透明かつゼリー状で、光を通しやすい特徴があり、眼球に入ってきた光を屈折させる役割を持っています。
それと同時に、眼球の形状を円形に保つ役割も担っている重要な部分です。
年齢を重ねたり目の病気にかかったりすることで、透明なはずの硝子体が変質してしまい目に支障をきたす場合があります。
こういった場合は、硝子体の状態を確認して病気を突き止めて手術を受けることが完治までの近道です。
そこで本記事では、硝子体手術とはどのようなものがあるのか、硝子体手術が必要な主な疾患と併せて解説します。
硝子体手術とは?
硝子体の手術とは、なんらかの理由で異常な状態になってしまった硝子体組織の除去・網膜の治療を行うことです。
硝子体手術は眼科治療の中でも難易度が高いため、病院選びのポイントにもなるでしょう。ここでは、硝子体手術について詳しく解説します。
硝子体の組織の除去や網膜の治療を行う
硝子体の手術は、以下のような方法で実施します。
- 硝子体組織の除去:出血などにより濁っている硝子体を除去する
- 網膜の治療:眼球内に器具を挿入して、網膜にレーザーを当てて凝固させる
このほかにも、網膜の治療は疾患にあわせて治療法が選択されます。網膜上に張られた膜をピンセットのような器具を使ってめくったり、網膜剥離・黄斑円孔では灌流液をガスに入れ換えたりする手術などがあります。
硝子体手術は高難易度なものが多くありますが、医療技術の進歩により、小さな器具を使用した「患者さんの負担を軽減する施術」が実施されているそうです。
器具の大きさは非常に小さくて細いもので、眼球に3〜4か所の穴を開けるために使用します。硝子体の除去と網膜治療の双方ともに必須の治療器具です。
眼球そのものが非常に小さな臓器なので、慎重かつ丁寧に、そして迅速に手術が進められます。
眼科治療の中では難しい手術に分類される
眼科治療の中でも、硝子体の手術は難易度が高いため、病院選びは慎重に行いましょう。
目から得る情報は、かけがえのないものです。替えの効かないものなので、腕が立つ医師と信頼できる病院選びが重要になります。
硝子体手術を受けるときにチェックしたい眼科の選び方は、後述しているのでぜひ確認しておきましょう。硝子体手術が難しいといわれる理由は、以下のとおりです。
- 角膜の近くに小さな穴を開けて、施術を行うため
- 眼球内の手術は、非常に細かで繊細な作業の連続であるため
現在は医療技術の発展により、手術の安全性・成功率ともに向上しているので、安心して手術を受けられるでしょう。
硝子体手術の適応となる主な疾患は?
硝子体手術の対象となる目の病気は、次の7つです。
- 網膜剥離
- 硝子体混濁
- 糖尿病網膜症
- 黄斑円孔
- 黄斑上膜
- 硝子体出血
- 網膜静脈閉塞症
誰もが聞いたことがあるものだけではなく、なかには聞きなれない病気も含まれているので、事前に情報を確認しておきましょう。
網膜剥離
網膜剥離は、神経網膜と網膜色素上皮細胞がはがれてしまうことで発症します。原因は、以下のものがあります。
- 加齢によるもの
- 外部からの強い衝撃(ボールが直撃した・交通事故など)
若年で網膜剥離になる場合は、外的要因が多く、放置することは危険です。
網膜剥離が起きているときにみられる症状が一つでも当てはまるときは、速やかに専門の医師を受診してください。
- 飛蚊症のように目の中に黒い点が見えている
- 視野の一部が欠けている
- 特に光るものはないはずなのに、視界の中に光るものが見える
- 視力が急に低下した
今までにない変化が現れている場合、一過性のものだと思い込んでしまうと処置が遅れてしまうため注意しましょう。
硝子体混濁
硝子体混濁とは、本来透明なはずの硝子体が混濁して視界や視力に影響を及ぼしている状態です。硝子体が混濁してしまう原因は、複数あります。
- 加齢によるもの
- 近視(非常に強度のもの)
- 炎症疾患を発症している(ぶどう膜炎)
年齢を重ねると、どうしても目の病気の発症率が高くなります。失明のような最悪の事態を招かないためにも、少しでも異変を感じる場合は放置しない方がよいでしょう。
- 急激な視力の低下
- 目の前に黒い点が現れている(飛蚊症のような症状)
上記のような症状が出た場合、加齢だと思い込まず眼科で検査を受けてください。
糖尿病網膜症
糖尿病網膜症とは自覚なく進行していく恐ろしい病で、糖尿病の合併症として発症します。
自覚症状が現れた場合、すでに治療開始時期が遅れてしまっていることが多いため、糖尿病の持病がある方は定期的に眼科を受診して異常がないかを確かめておきましょう。
糖尿病網膜症は、以下の順に進行していきます。
- 単純糖尿病網膜症:自覚症状がほとんどない状態で、治療開始に適している時期
- 前増殖糖尿病網膜症:単純糖尿病網膜症でできた眼球内にある毛細血管の瘤が毛細血管の血流を妨げ、酸素不足になり新生血管を作り始める時期。目のかすみなどの自覚症状がある方もいれば、無自覚の方もいる
- 増殖糖尿病網膜症:新生血管ができてはいけない部分にも増殖し、硝子体内で出血するなどして失明する可能性がある。手術を受けても、後遺症が残るおそれがある
糖尿病は若年層にも見られる病で、年齢が若い程糖尿病網膜症の進行は早くなります。
黄斑円孔
黄斑円孔とは、網膜内にある黄斑部が硝子体に引っ張られて穴が開いてしまっている状態を指します。原因は、以下のとおりです。
- 加齢で発症
- 強度の近視
- 外傷による眼球の打撲(スポーツや交通事故など)
- 変視症(ものが歪んで見える)
症状があまり強く出ず、無自覚のまま放置してしまう方もいます。症状は複数あるので「最近少し目の調子がおかしいな」と感じる方は注意しましょう。
- 色の細かな違いや見分けがしづらくなる
- 見ようとしている対象物の中心がすぼみ気味に見える
- 注目して見ているはずの対象物が見えづらい
ぼんやりと眺める外の景色などが今まで通り見えているため、症状が出ていても見落としてしまうことがあります。
長期間放置してしまうと、手術を受けても思うように視力の回復ができないケースもあるので注意しましょう。
黄斑上膜
黄斑上膜とは、黄斑部にある網膜の表面部分に線維膜と呼ばれる膜が発生する病気です。発症の原因は、以下のものがあります。
- 加齢によるもの(自然に発症)
- 外部からの衝撃
- 眼病に伴って発症(網膜剥離・網膜裂孔など)
- 炎症によって発症(ぶどう膜炎)
加齢による自然な発症が多いため、年齢を重ねている方は定期的に眼科を受診して調べてもらうことがおすすめです。
発症初期では自覚症状がない方が大半で、進行すると徐々に症状が現れ始めます。
- 変視症(ものが歪んで見える)
- 視力低下
症状が悪化する場合は、手術が必要になるでしょう。
硝子体出血
硝子体出血とは、なんらかの原因で硝子体の中に血液が混入している状態です。硝子体内に血液が混入しても、数ヵ月で自然と吸収されてなくなることが多くあります。
しかし吸収されず残ってしまうと、硝子体出血となり、以下のような症状が出やすくなります。
- 視力の低下
- 全体的に霧がかっているように見える
- 目に見える景色全体が暗い
- 黒いものが浮遊しているように目に映る(飛蚊症のような症状)
明るいはずの日中・電気で明るくなっているはずの部屋など、環境が整っているにも関わらず光が足りないと感じるときは要注意です。
また、硝子体出血が起こる原因は複数あります。
- 病気による併発(糖尿病網膜症・加齢黄斑変性症・くも膜下出血など)
- 炎症によって発症:(ぶどう膜炎)
- 外部からの損傷
上記のようにさまざまな発症の原因が考えられますが、原因がわからないことも少なくありません。
網膜静脈閉塞症
網膜静脈閉塞症とは、網膜に張り巡らされている静脈がなんらかの原因で詰まってしまい、血流が滞ってしまう病気です。
網膜静脈閉塞症を発症する原因は、以下のものがあります。
- 年齢を重ねている(50歳以上の人は発症しやすい)
- 高血圧(眼球内の血管が硬くなるため)
- 血管の炎症
- 糖尿病
年齢を重ねると、誰でも発症する可能性はあります。なかでも注意したいのが、高血圧の症状がある方です。
血圧の上昇は加齢とともに誰でも気になってくる部分なので、高血圧と診断されたら眼科に定期的に通って眼病にも注意しなければなりません。
また、網膜静脈閉塞症の症状は、複数あります。
- 視力の劇的な低下
- 視野が欠ける
最悪の場合、大幅に視力が低下する可能性がある恐ろしい病気です。
硝子体手術の流れ
硝子体手術を受けるとなると、目の手術に対し不安を感じる方も少なくないでしょう。
しかし硝子体手術の大まかな流れを知ってイメージトレーニングを行うと、不安を払拭しやすくなります。
- 麻酔をかける(局所麻酔と全身麻酔のどちらかで、病院の方針や体質によって全身麻酔は使用できないことがある)
- 硝子体の手術(角膜に小さな穴を開けて細い器具を眼球内に挿入し、症状に合わせた処置を行う)
- 術後1〜2週間安静
瞼の下に局所麻酔を使用するため、意識がはっきりしています。手術中執刀医と会話することも可能です。
手術そのものは、20〜60分程で終了します。
網膜剥離のように網膜がはがれていることが原因で硝子体の手術を受けた場合、眼球内に特殊なガスを注入して網膜を正常な形状に戻さなければなりません。
眼球内にガスを入れる施術を受けたら、10日程うつ伏せの状態で過ごす必要があるそうなので、その点には注意しましょう。
ガスは、日が経つにつれて自然と体内に吸収されていきます。
硝子体手術を受ける眼科の選び方
硝子体手術は手術の中でも難易度が高いため、しっかりとした病院を選びましょう。
病院選びのポイントを紹介するので、手術を視野に入れた眼科受診を検討している方はぜひ参考にしてください。
硝子体手術に対応できる医師が所属しているかどうか
硝子体手術に対応できる医師が所属しているかを確認しましょう。
硝子体手術は、眼科医であれば誰でもできるわけではありません。前述している通り難易度の高い手術なので、硝子体手術を対象外にしている病院もあります。
硝子体手術の可能性を視野に入れるのであれば、病院のホームページを確認して硝子体手術を行っているかという部分に注目してみてください。
より鮮明な手術内容や、術後の経過などを記載している病院を選ぶと、安心して利用できるでしょう。
硝子体手術には合併症もあるので、合併症についての記載がある病院を選びましょう。
また、硝子体手術の経験豊富な医師がいる病院を選ぶだけではなく、通いやすさや費用にも注目です。
手術装置や設備が整っているかどうか
硝子体手術に必要な装置や設備が整っているかを確認しましょう。硝子体手術を受けるのであれば、手術装置や設備が整っているかを確認してみてください。
硝子体手術を行うときは、細い器具を使用します。医学が日々進歩しているといっても、機材がそろっていない病院で手術を受けることは、適切な施術を受けられるか不安になるものです。
医師からの説明があると安心できそうですが、手術装置や設備に関しては病院のホームページに記載していることもあります。
「専門器具の説明を聞いてもわからない」と思うかもしれませんが、病院の装置を使用することで患者さんへの負担がどう軽減されるのかという部分も記載されているかを確認できるといいでしょう。
合併症やリスクもしっかり説明してくれるかどうか
合併症やリスクなどの説明をしっかりと行ってくれるかを確認しましょう。
硝子体手術は、難易度が高いものの安全を考慮して行われている手術です。安全といっても、合併症のリスクがないわけではありません。
- 術後眼内炎:手術によってできた小さな傷から、細菌感染を起こして発症
- 駆逐性出血:手術を行っているときに眼圧が上がる行為(せき込む・血圧上昇など)があり、眼中の奥にある静脈から出血すること
- 網膜剥離:術後起こる可能性があり、網膜剥離が起きたら硝子体の再手術を行う
上記のようなリスクは、非常に確率が低いものの起こる可能性があるものです。これらのリスクや合併症について、万が一のことが起きるかもしれないという事実を説明してくれる医師を選びましょう。
アフターケアが充実しているかどうか
硝子体手術を受けた後のものの見え方などには個人差があるので、アフターケアをしっかりと行っている病院を選びましょう。
硝子体手術は、受ければ終わりというわけではありません。
術後の定期健診の有無や過ごし方の解説などを十分に行ってくれる病院を選ぶことで「なにかあっても安心」という心の支えになるかもしれません。
硝子体手術は日帰り(※術前・術後に通院が必要になる場合があります)で行っている病院が多いので、家での過ごし方をしっかりと聞いて帰ると不安なく過ごせるでしょう。
まとめ
硝子体手術は、難易度が高いものの安全を考慮して実施されている手術です。
硝子体手術の対象になる眼病である可能性を視野に入れた病院選びをすることで、よりスムーズに手術までの段取りが整いやすくなります。
硝子体手術の流れ・眼科の選び方をしっかりと把握し、後悔しないためにも経験豊富な専門の医師が在籍している病院を選ぶよう心がけてください。
参考文献