健康診断で「眼圧が高い」と指摘されたことはあるでしょうか。眼圧が高いと視野が悪くなる、緑内障になると言われますが、なぜそのような病気を発症するのでしょうか。 眼圧上昇を放置するとどのような影響が出るのか、どうすれば眼圧をコントロールできるかを紹介します。
眼圧とは
眼圧とは、眼球内に貯まる房水(ぼうすい)という液体による圧力のことです。眼球は液体で満たされた水風船のようなもので、房水が抜けてしまうと眼球は形を保つことができなくなります。眼球の形を保つためにも、一定の眼圧は必要です。しかし眼圧が高すぎると、眼球の奥にある視神経(視神経乳頭)を圧迫してしまいます。視神経が圧迫され続けると細胞が障害され、視野の欠損や失明に至ります。自覚症状がないまま病状が悪化することもあり、知らず知らずのうちに視野を失うことがあります。
眼圧の役割
眼圧は眼球の形を保ち、視力を保つためには欠かせません。眼球の形が正常なら、網膜に外界の画像を写し、視神経を通して脳に視界の情報を送ることができます。眼圧が極端に低下すると、眼球が歪んでしまい、外から取り込んだ光を正しく認識することができなくなります。曲面が歪んだレンズがピンぼけをするのと同じ現象で、視力低下などの症状が表れます。そのため、適度な眼圧は視力を出すために必要です。
房水は水晶体の端にある毛様体という組織から染み出し、網膜の後ろにある眼球(水晶体や角膜)に酸素と栄養を届けます。役目を終えた房水は角膜の端にある隅角(ぐうかく)という穴を通り、静脈に戻ります。
眼圧の正常値
眼圧の正常値は、10 mmHgから20 mmHgの範囲です。この範囲内であればバランスが取れた状態と考えられます。ただし、正常値だから病気にならないとは限りません。眼圧が正常値でも緑内障を発症することがあります。
眼圧が高い状態とは
眼圧が21mmHg以上になると、眼圧が高いと診断されます。眼圧が高い状態が続くと緑内障など視力に悪影響を与える疾患が発生します。数日ほどで急速に悪化するか、数年かけて徐々に悪化するかの差はありますが、そのままにしておくと視神経を損傷することがあります。
眼圧が上昇するとどうなる?
眼圧が上昇すると眼球内にある視神経が圧迫され続け、やがて視神経乳頭の萎縮が始まります。視神経乳頭は網膜に写された光の情報を視神経に伝える役割があります。この神経が収縮すると視野が狭くなる、見えない部分が出る(視野欠損)などの悪影響が出るようになります。眼圧が高いことで生じる視野欠損が恐ろしいのは、自覚症状がないことが多いことです。何年もかけて徐々に視野欠損が進むと、なかなか視界の異変に気付きません。
ただし眼圧が急激に上がると、はっきりとした自覚症状が表れます。急激に眼圧が上昇すると激しい目の痛み、頭痛、吐き気、嘔吐、霧がかかったように視界がかすむなどの症状が表れます。(急性緑内障発作)急性緑内障発作は放置すると、短時間で視力が失われます。そのため一刻も早い応急措置が必要です。激しい目の痛みを感じたら、休日でもただちに眼科(難しい場合は救急外来)を受診してください。
眼圧が上がる原因
眼圧が上がる原因は、房水の流入と排出のバランスが何らかの理由で崩れるためです。眼圧は溜め池のようなもので、流れ込む水と排出する水がほぼ同等であれば、正常に保てます。しかし大雨で急激に大量の水が流れ込む、放出口が詰まって水が流れにくくなると、溜め池の水が溢れてしまいます。眼圧も同じで、何らかのきっかけで水の流出が詰まる(排出障害)ことなどが原因で上昇します。
房水の排出障害
これは房水の出口(隅角)が狭くなる、詰まることで排出しにくくなる、できなくなる状態です。隅角が狭くなる閉塞隅角緑内障、隅角を構成する網状の組織、線維柱帯が詰まる開放隅角緑内障があります。隅角の発育異常が原因で、小児の緑内障が起こることもあります。閉塞隅角緑内障は急性緑内障発作を起こしやすく、副作用で使えない薬もあります。
房水の過剰産生
房水の過剰生産でも眼圧が上昇することがあります。まれな原因と言われ、現在では眼圧上昇の主な原因とは考えられていません。
薬剤の影響
眼圧上昇の副作用のある薬剤はいくつかあり、服薬の調整が必要になることがあります。代表的なのは副腎皮質ステロイド薬の長期使用です。
ステロイド剤の長期使用は眼圧上昇リスクを高めます。個人差はありますが、投与後1~2週間で眼圧が上昇することがあります。その他にも睡眠剤、抗うつ薬の一部にも眼圧上昇の副作用があります。
腹痛、めまい、月経困難症などの症状緩和に用いる抗コリン薬も、まれな副作用で隅角閉塞を引き起こし、眼圧を上げることがあります。抗コリン剤は風邪薬など身近な薬にも含まれている身近な薬です。眼圧上昇リスクが高い方は医師と相談の上、服用を調整する必要があることもあります。
外傷やほかの疾患による影響
眼に外傷を負い、隅角を傷つけられると房水の出口が塞がれ、眼圧上昇につながります。ほかの病気がきっかけで眼圧が上昇することもあります。糖尿病の患者さん、特に血糖コントロールが不十分で、糖尿病網膜症が進行すると眼圧が上昇することがあります。糖尿病網膜症が悪化すると、新生血管という壊れやすい血管が網膜に伸びます。この血管が隅角をふさいでしまうと、房水が眼球にたまったままになり眼圧上昇を引き起こします。
眼圧上昇と緑内障の関係
眼圧が上昇したまま放置すると、視神経が圧迫されたままの状態が続きます。長期間圧迫が続くと視神経が少しずつ萎縮していき、やがて失明に至ります。これが緑内障です。現在の医学では眼圧を点眼薬などで下げ、視神経の負担を減らすことが唯一の進行予防法になります。しかしこれは保存的治療で、視神経の症状悪化を防ぐことはできても、再生はできません。
正常眼圧緑内障
眼圧が上昇していないのに緑内障を発症することがあります。正常眼圧緑内障は日本人に多いタイプと言われています。原因はいくつかありますが、眼圧が正常値でも視神経が損傷しやすい体質、眼球への血流低下などが挙げられます。眼圧は一日のうちでも変動があり、検査して正常値であっても必ずしも正常とは限りません。定期的に検診を受け、早期発見につなげましょう。
急性緑内障発作
何らかの理由で房水の出口が塞がり、急激に眼圧上昇を起こして発症します。目の痛み、充血、目のカスミに加えて、激しい頭痛や吐き気など、強い自覚症状があります。短期間で視神経が萎縮し失明に至るため、これらの症状があれば、ただちに眼科か救急外来を受診してください。
眼圧が高い状態を放置するリスク
眼圧上昇を放置すると、やがて視神経乳頭が萎縮して緑内障を発症することがあります。緑内障は40歳で20人に1人、70歳になると10人に1人は発症する、ありふれた疾患です。いつ重い症状が出るかは個人差がありますが、自覚症状が出た時点で重症化が進んでいます。定期健診で眼圧上昇を指摘されたら、何の自覚症状がなくてもただちに眼科を受診し、治療を開始してください。早期治療は視力を保護するために欠かせない、唯一の方法です。
眼圧が高い場合に行われる検査
眼圧が高いことが必ずしも緑内障とは限りませんが、眼圧が高い状態が続くとやがて視神経が萎縮し、視野欠損や失明など、重大な症状を発症します。それを防ぐためには適切な診断と治療が必要です。
眼科では主に、以下の3つの検査で眼圧と視神経を測定します。ほかにも視力検査、明るい光を出す顕微鏡で目を観察する細隙灯顕微鏡検査、網膜の断面像を撮影する網膜光干渉断層計検査などを行います。緑内障を発見したら、さらに精密検査を行います。
眼圧検査
定期健診や眼科で、目に空気を当てる機械(空気眼圧計)を覗いた経験はあるでしょうか。これが眼圧検査です。空気眼圧計は角膜に空気を吹き付け、角膜の凹みを測定して眼圧を計算します。治療薬の効果を確認するためにも頻繁に行う検査です。つい目を閉じてしまいがちですが、検査中は顔を動かさず、リラックスして目を空けましょう。
眼底検査
眼底検査は眼球の奥にある網膜と視神経の先端(視神経乳頭)を撮影し、眼底の異常を調べる検査です。緑内障を早期に発見できる重要な検査の一つです。暗い部屋で眼底カメラや倒像鏡などで眼球の奥に光を当て、撮影と観察を行います。網膜を広範囲で観察する際は、瞳孔を開く薬を点眼することがあります。
視野検査
眼底検査と同様に、緑内障を発見するための検査です。どれだけ広範囲に視野が認知できるかを測ります。患者さんは専用機器(ハンフリー視野計、ゴールドマン視野計)を覗き、光が見えたらボタンを押して見える範囲を計測します。緊急時には機器がなくても、医師と対面で視野を測る簡易検査もあります。(対座法)
眼圧上昇を治療する方法
眼圧の治療法は眼圧をコントロールすることが基本です。眼圧を適切に下げるために点眼薬の使用や、重度の場合は手術も検討します。手術は眼圧の過剰な低下による視力低下や乱視、傷口からの感染症リスクもあるため、メリットとデメリットを見極める必要があります。
点眼薬による眼圧コントロール
もっとも一般的な方法で、眼圧を下げる点眼薬を点眼します。眼圧上昇を抑え、緑内障の悪化リスクを下げる効果があります。房水の排出を促す薬(プロスタノイドFP受容体作動薬、プロスタノイドEP2受容体作動薬、ROCK阻害薬)、房水の生成量を減らす薬(交感神経β受容体遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬)、排出促進と房水の減少どちらの効果もある薬(交感神経α2受容体作動薬)など、さまざまな作用のある薬を組み合わせて使用します。点眼は毎日、生涯を通して続ける必要があります。点眼を忘れないようにリマインダーを設定するなど工夫して、習慣にしましょう。
レーザー治療や手術療法
点眼薬でも効果が見られない、あるいは合併症がある場合はレーザー治療や手術療法を検討します。
どちらもメリットとデメリットがあるため、主治医とよく相談のうえご検討ください。
レーザー治療として、開放隅角緑内障の治療では線維柱帯に照射して房水をスムーズに排水させるレーザー線維柱帯形成術、閉塞隅角緑内障の治療では虹彩を切開するレーザー虹彩切開術、房水が生み出される毛様体にレーザーを当て眼圧を下げる毛様体光凝固術などあります。手術は房水を眼外に出す濾過手術と、線維柱帯を切開して房水の排出を促す流出路再建術があります。閉塞隅角緑内障の患者さんには白内障手術を行うこともあります。
緑内障の手術にはさまざまなリスクがあります。せっかく造った房水の排水ルートが自然経過で塞がることもあれば、傷口から感染症を引き起こすこともあります。房水が過剰に排出されて眼圧低下を引き起こし、視力低下や乱視など視力トラブルを起こすこともあります。手術は手術前よりさらに視力が悪くなるリスクがあります。主治医からリスクとメリットの説明を受けたうえで判断しましょう。
眼圧を安定させる日常生活のポイント
緑内障が進行する理由がはっきりとしないことは少なくありません。しかし、目に悪いと言われる生活習慣を改善することは、現在の視力や視野の維持に有効です。これを機会にぜひ生活習慣を見直してみましょう。
定期的な眼科の受診
40歳以上になると緑内障リスクが上がりはじめます。定期的に眼科の受診と検査で眼圧と眼底検査を続けましょう。特に、家族に緑内障の患者さんがいる方や高齢者、糖尿病の方、近視が強い方は緑内障発症リスクが上がります。何の問題がない方も、最低限1年に一度は定期健診を行うと安心です。
眼に負担をかけない工夫
スマートフォンなど近くのものを長時間凝視しない、定期的に遠くを見て目を休ませるなど、眼に負担をかけにくい生活習慣を身に付けましょう。眼鏡やコンタクトレンズを使用している方は定期的に視力検査を行い、適正な調整を行いましょう。眼のかすみ、充血が治まらないなどトラブルがあれば、すぐに眼科を受診して眼圧検査など各種検査を受けましょう。
まとめ
眼圧が上昇すると緑内障など、視界欠損や失明などを引き起こす疾患が発症しやすくなります。急性症状が表れることもありますが、多くの場合は何年もかけて、自覚がない間に症状が悪化していきます。視神経は再生できないため、早期発見、早期治療を行い、眼圧をコントロールすることが唯一の治療法です。自覚症状がなくても40代以上の方は最低限、1年に一度は健康診断で眼圧検査を行いましょう。もし眼圧上昇を指摘されたら、すぐに眼科を受診してください。
参考文献