視力矯正手術のひとつとして、ICL(眼内コンタクトレンズ)手術を検討されている方もいるのではないでしょうか。メガネやコンタクトレンズを毎日装着する煩わしさから解放されるだけでなく、レーシックのように角膜を削らずに視力矯正ができることから、近年、注目が集まっています。
一方で、「目のなかにレンズを入れる」という手法から、「強い違和感があるのでは」「目をこすると角膜が傷つく」など、心配な声もあります。
この記事では、ICL手術後に目をこするとどうなるのかをはじめ、起こりやすいトラブルや、日常生活で気をつけたいことをわかりやすく解説します。
ICL手術後に目をこするとどうなる?
手術後に限らず、目にゴミが入った、違和感があるなど、つい無意識に目をこするような状況は日常的にあります。術後の目はとてもデリケートな状態にあるため、目をこすることで、思わぬトラブルを引き起こす可能性もあるため注意が必要です。
ここでは、ICL手術後に目をこすることで起こりうる影響を解説します。
レンズがずれる可能性
ICLのレンズは、眼のなかの虹彩と水晶体の間に挿入され、基本的にはしっかりと安定しています。日常的に軽く目をこすった程度でレンズが大きくずれることはありません。
乱視矯正用のICLの場合は、乱視を矯正するために適切な角度での装着が必要です。ごくまれにですが、目を強くこすることでレンズが回転し、視界がにじんだり、ブレて見えたりすることがあります。回転したレンズは、再手術で位置を調整してもらう必要があります。
角膜表面を傷つける可能性
一般的に、目をこする程度の刺激で角膜が傷つく可能性は低いです。しかし、ICL手術の影響とは別に、目を強くこする行為自体が目によい行為とはいえず、角膜に傷をつける原因にもなりえます。
角膜はとても薄く繊細な組織で、乾燥していたり、異物が入っていたりする状態でこすると、細かな傷ができることがあるのです。
細かな傷は、目の痛みや異物感、視力の一時的な低下を引き起こすこともあります。術後は目が敏感になっているため、なるべく触れないように気をつけましょう。
感染症につながる可能性
手術直後の目は、通常よりも感染症にかかりやすい、デリケートな状態になっています。目をこすることで、手やまつ毛などに付着した細菌が目に入り炎症を起こすことがあります。 手術後数日〜1週間程は、細菌感染のリスクを抑えるためにも、清潔な状態を保ち、できるだけ目に触れないようにしましょう。外出後は手洗いを徹底する、スマートフォンを扱った後の手で目を触らないといった意識を持っておくことが大切です。
ICL手術後に目をこすりたくなったときの対処法
目がかゆくなったり、違和感を覚えたりすると、つい手でこすりたくなることがあります。しかし、手術後の目はとても繊細で刺激に弱いため、触れたりこすったりするのは避けるようにしたいところです。
ここでは、こすらずに不快感をやわらげるための対処法をご紹介します。
人工涙液や処方点眼薬でかゆみを緩和する
乾燥や刺激によるかゆみを感じたときは、人工涙液や処方点眼薬を使用しましょう。
人工涙液とは、塩類などを含み、涙に近い成分で構成される点眼液で、主に目のうるおいを保つために使われます。防腐剤の入っていないタイプであれば、デリケートな術後の目にもやさしく使えます。
眼科で処方された点眼薬がある場合は、指示どおりに使用しましょう。抗炎症作用や保湿効果のある薬が、かゆみや違和感の軽減に役立ちます。
清潔な冷たいガーゼで軽く冷やす
目の周りが熱っぽく感じたり、かゆみが気になったりするときは、清潔なガーゼやタオルを水でぬらして軽くしぼり、冷蔵庫で少し冷やしてから、まぶたの上にそっとのせて冷やしましょう。
冷たさによってかゆみや炎症がおさまり、こすりたくなる気持ちが和らぎます。ただし、強く押し当てたり、長時間のせたりしないように注意しましょう。
我慢できない違和感が続く場合は眼科を受診する
点眼薬を使っても違和感が改善しない、ゴロゴロする、視界がゆがむ、痛みがあるといった症状が続く場合は早めに眼科を受診しましょう。
手術後の経過には個人差があり、違和感の原因がレンズの位置ずれや感染症などである可能性もあります。眼科医の検査を受けることで違和感の原因をはっきりさせましょう。
ICL手術後の目に起こりやすいトラブル
ICL手術は視力回復の効果が高い一方で、術後しばらくのあいだは目の状態が不安定になりやすく、一時的にトラブルが起こることもあります。
ここでは、実際に起こりやすい症状について紹介します。ICL手術を検討中の方はもちろん、実際に手術を受けた方も、参考にしてみてください。
ドライアイや異物感、視界のかすみなど
手術後は涙の分泌量や目の表面の状態が一時的に変化し、目が乾きやすくなることがあります。ドライアイと呼ばれる状態で、目が乾燥することで、ゴロゴロとした異物感や疲れ目を感じやすくなります。
目の乾きや光の乱反射などの影響で、視界がかすんで見えることもあります。これらの症状は多くの場合、時間の経過とともに改善していきますが、つらいときは人工涙液や目薬を使うなどして、うるおいを保つようにしましょう。さらに目の乾燥対策として、室内の湿度管理も意識するとよいです。
ハロー・グレア現象
ハローやグレアと呼ばれる現象も、ICL手術後によくみられる症状のひとつです。ハローとは、夜間など暗い場所で光がにじんで見える現象で、グレアは光がまぶしくギラついて感じられる状態を指します。
手術後の眼の光の通り道や、瞳孔の開き具合が関係して起こるもので、特に夜間の車のヘッドライトや街灯などで気になりやすくなります。徐々に慣れていくことがほとんどですが、気になる場合は眼科で相談してみましょう。
炎症による充血
術後は目のなかで軽い炎症が起こることがあります。その影響で、白目が赤くなったり、まぶたに違和感を覚えたりすることもあります。一時的な反応で、処方された抗炎症点眼薬を使用することで自然におさまるケースがほとんどです。
ただし、痛みや強い充血が続く場合は、細菌感染などほかのトラブルの可能性もあります。早めに眼科で診てもらうようにしましょう。
ICL手術後の過ごし方
ICL手術は日帰りで受けられるケースが多く、施術そのものの負担も少ないとされていますが、視力を安定させ、トラブルを予防するためにも、術後の過ごし方は大切です。
ここでは、手術後に気をつけたい生活上のポイントを3つに分けてご紹介します。
術後数日は目を休ませる
手術当日は、目に水がかからないよう注意しながら、首から下のシャワーのみで過ごします。入浴や洗顔、洗髪は翌日から可能になりますが、いずれも目をこすらないように気をつけて、できるだけ優しく行いましょう。
サウナや温泉、アイメイクなどは1週間程度控える必要があります。
車の運転は手術翌日以降に見え方の確認を行ったうえで、少なくとも3日間は控えるようにしましょう。無理に運転すると事故やトラブルの原因になりかねません。夜間は見えづらくなるため、1週間程度は避けた方がよいでしょう。
また、手術前にメガネをかけていた場合、免許証の条件が変更になります。書き換えを忘れないようにしましょう。
目が疲れやすい時期でもあるため、スマートフォンやパソコンの画面を見る時間はできるだけ短くし、適度に目を閉じて休む時間をとることが大切です。
医師の指示に従い運動を避ける
運動は目に圧力をかけたり、汗が入ったりすることで炎症や感染のリスクを高める可能性があります。術後すぐに身体を動かすのは避け、医師の指示にしたがって再開のタイミングを見極めましょう。 目安としては、ジョギングやゴルフなどの軽めの運動は1週間後から可能とされています。ただし、汗が目に入らないようタオルや帽子などでの対策は必要です。水泳やプール、激しいスポーツは目への刺激が大きく、少なくとも1ヶ月は避けるのが一般的です。
処方薬を決められた回数と期間を守って使用する
術後に処方される点眼薬は、目の状態を安定させ、炎症や感染を防ぐために欠かせません。見た目に異常がなくても、自己判断で使用を中止せず、医師の指示にしたがって、決められた回数と期間をきちんと守って使い切ることが大切です。
正しく目薬を使用するには、手をしっかりと洗って清潔な状態にしてから点眼しましょう。薬によっては、使用前に容器をよく振って中身を均一にするよう指示されていることもあるため、忘れずに確認してください。
点眼時は天井を見上げ、片手で下まぶたを軽く引き、1滴をそっと落とします。点眼後は目を閉じ、目頭(目の内側)を軽く押さえて1分程待つと、薬の成分が目から鼻に流れにくくなり、効果を高めることができます。
点眼薬のなかには冷蔵保存が必要なものもあるため、保管方法にも注意しましょう。
ICL手術後の注意点
術後の生活で気をつけるべきことは、目のトラブルを防ぐうえでとても大切です。ここでは、日常生活で特に注意してほしいポイントを紹介します。
入浴や洗顔で目に水が入らないようにする
術後の目は通常よりも細菌に対して敏感な状態です。入浴や洗顔の際に水が目に入ると、感染症のリスクが高まるおそれがあります。
手術翌日から首から下のシャワーや入浴可能になりますが、目に直接水がかからないよう注意しましょう。
また、災害時などで使うドライシャンプー、あるいは美容院でのシャンプーのように後ろに倒すスタイルをとるのもひとつの方法です。
メイクやコンタクトの再開時期を守る
目の周りを触ってしまうメイクや、目に直接触れるコンタクトレンズの使用は、再開のタイミングに注意が必要です。
ファンデーションなどのベースメイクは手術後翌日から可能ですが、アイメイクについては、術後1週間は控えるようにしましょう。アイラインやマスカラ、アイシャドウなどはまぶたを引っ張る動きが多く、回復中の目に負担をかけてしまうためです。メイク道具には雑菌が付着しやすく、感染症のリスクもあるため注意が必要です。
カラーコンタクトレンズなどのコンタクトレンズは、術後2週間を目安に装用が可能とされていますが、目の状態によってはそれよりも遅れる場合もあるでしょう。
異物感やかすみが残っている間は無理に使わず、1ヶ月後の定期検診などで医師に相談してから再開しましょう。
紫外線や乾燥から目を保護する
紫外線や乾燥も、術後の目には刺激となるため注意が必要です。外出時には、UVカットができるサングラスをかけたり、つばの広い帽子をかぶったりして、目に直接日光が当たらないようにしましょう。紫外線の強い春から夏にかけてや、照り返しがきつい場所では、サングラスの使用がおすすめです。
乾燥した環境では目が乾きやすくなり、かゆみや異物感の原因となります。エアコンの風が直接当たらないようにしたり、加湿器を使って室内の湿度を保つよう工夫しましょう。人工涙液を使って目をうるおすのも効果的です。
まとめ
ICLは、目を軽くこする程度でレンズがずれたり角膜が傷ついたりすることは、基本的にはほとんどありません。だからといって「こすっても問題ない」と油断するのは禁物です。 目をこする行為そのものが目に負担をかけ、術後のデリケートな状態に悪影響を及ぼす可能性があります。また、洗顔やメイク、車の運転、スポーツ、デスクワークなども、目に刺激を与える要因となるため、十分な注意が必要です。
医師の指示を守り、目に優しい生活を意識することが、トラブルを防ぎ、快適な視界を保つための第一歩となります。
参考文献