視力を回復する手段として、レーシックを検討している人も少なくないでしょう。メガネやコンタクトレンズを必要とせず、裸眼で生活できるようになると考えたら、こんなに素敵なことはありませんよね。
しかし一方で、手術によるリスクもゼロではありません。その一つが、ドライアイです。レーシック手術を受けた方のうち、4人1人程度の割合でドライアイの症状があらわれるといわれています。多くの場合一時的な症状ですが、放置すると悪化してしまう可能性もあります。
そこで本記事では、レーシック後にドライアイが起きる原因や、軽度・重度の症状ごとの対応法、注意すべきサイン、そして予防やケアの方法までをわかりやすく解説します。
レーシック後にドライアイになる原因
レーシック手術を受けた後、一時的にドライアイのような症状があらわれることがあります。これは、手術の過程で角膜や涙の働きに影響が出るためです。
一般的には、こうした症状は手術から数週間〜数ヶ月の間に徐々に改善していきます。ただし、目の使い方や体質によっては回復に時間がかかることもあるため、日常生活の工夫も大切です。
ここでは、なぜレーシック手術後にドライアイになるのか、その原因を解説します。
角膜表面の知覚神経が一時的に切断されるため
レーシック手術では、角膜の表面にフラップと呼ばれる薄い膜を作ってから視力を矯正するためのレーザー照射を行います。このとき、角膜の知覚神経が切断されてしまいます。
角膜の神経は、目の乾きを感知して「涙を出すように」と脳に指令を送る役割があります。ところが手術後はこの信号がうまく伝わらず、涙の量が減ってしまうことがあります。こうして目が乾きやすくなり、ドライアイの症状が出るのです。
涙液層が不安定になり蒸発量が増えるため
目の表面は、涙の膜(涙液層)によって覆われています。この膜は油分・水分・粘液の3層から成り立っており、角膜を保護したり、乾燥を防ぐ働きを担っています。
レーシック後はこの涙液層が乱れやすく、特に油分のバランスが崩れると、涙がすぐに蒸発してしまいます。その結果、目の乾きや異物感、かすみといった不快な症状が出ることがあります。
また、目を酷使する環境やエアコンの風なども涙の蒸発を早める要因になります。特にオフィスワーク中心の方は注意が必要です。
フラップ作成による角膜形状の変化で瞬きが浅くなるため
レーシックでフラップを作成すると、角膜の形が変わるため、それまでとは瞬きの動きが少し変わることがあります。瞬きが浅くなると、目の表面全体に涙が行きわたらず、一部が乾燥してしまいます。
また、デスクワークなどで瞬きの回数自体が減っている人は、術後によりドライアイを感じやすくなることがあります。作業の合間に、意識的に瞬きをする習慣をつけるようにしましょう。
・もともとドライアイ傾向があるため
レーシック手術を受ける前から、目の乾きを感じやすかった方や、長時間のパソコン作業・スマートフォン利用が多い方は、手術後にドライアイの症状が強く出る傾向があります。 もともと涙の量が少ない、または涙の質(油分・水分・粘液のバランス)が不安定な状態の場合、術後にさらに涙の安定性が崩れやすくなります。特に、コンタクトレンズを長年使用してきた人は、角膜に負担がかかっていた分、回復に時間がかかることもあります。
このため、もともと目が乾きやすい人は、事前に眼科で涙の状態をチェックしてもらい、自分がドライアイになりやすい体質かどうかを把握しておくことをおすすめします。
レーシック後ドライアイは放置しても大丈夫?
レーシック後に起きるドライアイは、一時的なものが多いとはいえ、症状の程度によっては注意が必要です。軽度で自然に改善するケースもあれば、点眼薬だけではおさまらず追加の治療が必要になる場合もあります。
ここでは、症状の程度別に対応法を解説し、放置することによるリスクについても紹介します。
ドライアイの症状が軽度の場合
レーシック手術後、多くの方が目の乾きを感じます。特に術後1〜2週間ほどは、目が乾きやすくなる傾向があり、朝起きたときに強く症状を感じる傾向があります。
目の表面は敏感な部分であり、レーシック時に作成されるフラップによって角膜の神経が一時的に断たれることで、涙の分泌に影響が出ます。ただし、切断された神経は3〜6ヶ月ほどかけて再生するため、それに伴ってドライアイの症状も自然とおさまっていくのが一般的です。
このような症状に対しては、術後に処方される人工涙液(点眼薬)を使用することで、多くの場合は十分に対応可能です。
ドライアイの症状が重度の場合
点眼薬では症状が改善しない場合、追加の処置が必要になることもあります。そのひとつが涙点プラグの挿入です。これは涙が鼻へ流れる通り道(涙点)を一時的にふさぐことで、目の表面に涙をとどめる処置です。
涙点プラグは取り外しが可能なため術後の回復期間中のみ使用することが可能です。また、夜間に使用する防腐剤を含まない眼軟膏を処方したり、重症の場合は自分の血液から作る自己血清点眼薬を使ったりすることもあります。
いずれも医師の判断のもと行われるため、症状が続くときは早めに相談しましょう。
放置するリスク
ドライアイは、単なる目の乾きと考えられがちですが、涙の分泌に異常が起きる目の病気です。そのため、放置するとさまざまな問題につながる可能性があります。ここでは、代表的なリスクを3つ紹介します。
・実用視力の低下
ドライアイが続くと、目の表面の粘膜が荒れてデコボコになり、見たいものがにじんだりぼやけて見えるようになります。こうした見え方の変化は、実用視力の低下と呼ばれ、視力検査で測る数字上の視力とは異なります。 日常生活での見えづらさが増すことで、運転やパソコン作業などにも支障が出ることがあります。
・角膜感染症の発症
涙には、目の表面を洗い流し、細菌から守る働きがあります。しかしドライアイが続くとこの自浄作用が弱まり、細菌に感染しやすくなります。 特に角膜(黒目部分)に炎症が起きる角膜感染症は重症化すると視力障害や、まれに失明に至るケースも報告されています。 症状としては、充血、異物感、目のかすみ、まぶしさの増加、過剰な涙などがあります。違和感を覚えたらすぐに眼科を受診することが大切です。
・精神的・肉体的なストレスの増加
目の不快感が続くと、集中力の低下や疲れやすさ、イライラといったストレスを感じやすくなります。さらに物が見えづらい状況が続くと、自律神経のバランスが乱れ、身体の不調につながることもあります。
レーシック後に注意すべきの症状
レーシック後のドライアイの多くは一時的なものですが、なかには注意が必要な症状もあります。単なる乾きではなく、痛みや視力の変化を伴う場合には、放置せず早めに医師へ相談することが大切です。
乾燥感だけでなく痛み・充血・視力変動が続く
目の乾きや違和感に加え、ズキズキするような痛みや、目の充血が引かない、見え方が安定しないといった症状が続く場合は注意が必要です。こうした状態が長引く場合、角膜に傷ができていたり、炎症が起きていたりする可能性があります。
異物感や強くしみる痛みを伴う
目にゴロゴロとした異物感が続く、目薬をさしたときに強くしみるような痛みを感じる場合は、角膜の表面に傷や炎症が起きている可能性があります。
また、フラップの位置がずれている場合もあり、「単なる目の乾燥、ドライアイ」と決めつけず、早めに受診することをおすすめします。
ハロー・グレアが悪化している
ハローとは、夜間にライトの周りに輪がかかって見える現象、グレアとはまぶしさが強く感じられる状態を指します。これらはレーシック手術後、一時的に出やすい症状ですが、時間がたっても改善しない、あるいは以前より悪化していると感じる場合には要注意です。
特に夜間の運転がつらくなる、光のにじみで生活に支障が出るといったケースでは、ドライアイの悪化が影響しているのかもしれません。目の表面が乾燥して涙の膜が乱れると、光が乱反射しやすくなり、こうした症状が目立つようになります。
ドライアイへの対処方法
レーシック手術後のドライアイがつらい場合に、自分でできるケアから医療機関で受けられる処置まで、主な対処方法を紹介します。
これらは症状の程度やライフスタイルに合わせて使い分けることが重要です。医師と相談しながら、自分に合った方法を見つけていきましょう。
人工涙液やヒアルロン酸点眼をこまめに使用する
基本的な対処法は、市販または処方された人工涙液やヒアルロン酸点眼薬をこまめに使用することです。
人工涙液は涙の成分に近いため、目を優しくうるおしてくれます。またヒアルロン酸配合の点眼薬は保水力が高く、乾燥が強いときに向いています。乾燥を感じてからではなく定期的に使用し、予防効果を高めましょう。
涙点プラグや自己血清点眼などを受ける
点眼薬だけでは改善が難しい場合は、眼科での処置も検討されます。代表的な方法のひとつが涙点プラグです。涙の出口を一時的にふさぎ、目の表面に涙をとどめる処置です。
また、重症のドライアイには、自分の血液から作った自己血清点眼薬が使われることもあります。これは目の回復を促す成分を含んでおり、特に角膜のダメージがある場合に有効です。
湿度に気をつける
室内の湿度が低いと、目の乾きも悪化しやすくなります。特に冬場やエアコンを使う季節は空気が乾燥しやすいため、加湿器を使って室内の湿度を保つことが大切です。湿度の目安は50~60%程度が理想とされています。
加えて、目が乾きやすい環境(風が直接当たる席など)に長時間いる場合は、メガネやゴーグルなどで物理的に風を防ぐのも効果的です。
パソコンやスマートフォンの画面の見過ぎに気をつける
長時間の画面作業は、瞬きの回数を減らす原因となり、目の表面が乾きやすくなります。特にレーシック後は、意識して目を休めることが重要です。
作業中は1時間に1回は休憩をとり、意識的に瞬きを増やすようにしましょう。
ドライアイを予防・軽減するための術後ケア
レーシック後のドライアイを悪化させないためには、日常のなかでのケアが欠かせません。ここでは、予防や症状の軽減につながる基本的なポイントを紹介します。
処方された点眼薬のスケジュールを守る
術後に処方される点眼薬には、人工涙液や炎症を抑える薬などが含まれていることがあります。これらは目の乾燥やダメージを抑える重要な役割を果たすため、医師の指示にしたがって決められた時間・回数で使用することが大切です。
自己判断で回数を減らしたり、症状が軽くなったからといって使用を中止するのは避けましょう。
目の乾燥と光刺激を減らす
日常生活のなかでも、目の乾きや刺激をできるだけ減らす工夫が必要です。例えば、乾燥を防ぐために加湿器を使ったり、エアコンの風が直接当たらないようにするといった環境の調整が効果的です。
また、術後の目は光に対して敏感になっているため、外出時はUVカットのサングラスを使うなど、目の負担を減らす工夫をしましょう。
屋内でも、照明の明るさやパソコン画面の輝度を控えめにするなど、光刺激をできるだけ避けるようにすることをおすすめします。
・目を休める時間を意識的につくる
術後の目はとてもデリケートな状態にあるため、日常的に休ませる時間をとることが予防につながります。例えば、30分ごとに目を閉じて1分程度休憩するだけでも、涙の安定や疲労軽減に効果があります。 また、遠くの景色をぼんやり眺めるのも、目の緊張をゆるめるのに役立ちます。集中して作業していると、つい目を酷使してしまいがちですが、意識して休むことが、ドライアイの悪化を防ぐうえで有効な方法です。
まとめ
レーシック手術後のドライアイは、多くの場合は一時的なもので、適切なケアによって改善していきます。しかし、症状が続いたり、痛みや見え方の変化を伴う場合は、より悪化してしまう可能性もあります。痛みや違和感が続くようなら、放置せず眼科を受診することが大切です。
日頃から点眼薬を正しく使い、湿度や瞬きなどにも気を配ることで、ドライアイの悪化を防ぐことができます。「少し乾いてるだけ」と我慢せず、早めの対処と予防的なケアで、手術後も快適な視界を守りましょう。
参考文献