高齢になると多くの方が白内障を経験し、視力低下やまぶしさによって運転に不安を感じる場合があります。運転免許更新時の検査で初めて白内障が発見されるケースも少なくありません。本記事では、白内障手術が運転時の見え方に与える影響や、手術後いつから安全に運転を再開できるか、そのポイントについて解説します。
白内障手術の運転への影響
- 白内障手術は運転時の見え方にどのような影響がありますか?
- 白内障手術によって濁った水晶体を取り除き、代わりに透明な人工の水晶体(眼内レンズ)を挿入すると、視界のかすみやぼやけが解消されます。明るさやコントラストも向上し、多くの場合、手術直前よりクリアな視界が得られます。実際、ある研究では白内障手術を受けた高齢ドライバーは、手術を受けなかった方に比べて追跡期間中の交通事故率がおよそ半分に減少したとの報告があります。このように、白内障手術は視力を回復させるだけでなく、安全運転の面でも大きなメリットがあるといえるでしょう。
- 単焦点レンズが運転に与える影響を教えてください。
- 白内障手術で挿入される眼内レンズにはいくつか種類があります。そのなかでも単焦点眼内レンズは一般的なタイプで、ピントの合う距離が1つに固定されたレンズです。通常は遠くにピントを合わせるよう度数を設定することが多く、そうすれば手術後は遠方の景色や標識などがはっきり見えるようになります。単焦点レンズは光学的にシンプルな構造のため、夜間のグレア(にじむような眩しさ)やハロー(光の輪)が生じにくく、クリアな視界が得られるのが利点です。ただし単焦点レンズの場合、焦点が合うのは基本的に1つの距離のみです。そのため例えば遠方にピントを合わせた場合、近くを見る際には眼鏡が必要になることがあります。運転時は遠方視力が重要ですが、カーナビの画面や手元のメーターパネルなど中近距離を見る場面もあります。遠方にピントをあわせた単焦点レンズを入れた場合、これら手元の表示がやや見えにくいことがありますので、必要に応じて運転用に度数を調整した眼鏡を使用するとよいでしょう。
逆に、もし手術で近くにピントを合わせるレンズを入れた場合には、遠くを見る際に遠用眼鏡が必要になります。いずれにせよ、単焦点レンズは構造上夜間視力の質が高く、にじみやまぶしさが少ないという特長があり、昼夜を問わず安定した見え方が得られるため、夜間運転をよくされる方にも向いているといえます。
- 多焦点レンズが運転に影響を与えることはありますか?
- 一方で、多焦点眼内レンズは、遠くと近く複数の距離にピントが合うレンズです。このレンズを用いると手術後は遠方だけでなく手元もある程度見えるようになるため、運転中もカーナビの画面や地図を見る際にメガネをかけ替える手間が減る、といった利点があります。しかし、多焦点レンズにはいくつか注意点もあります。多焦点レンズは構造上、光を複数の距離に分配するためコントラスト感度(物の輪郭や濃淡を識別する能力)が単焦点に比べてやや低下する傾向があります。特に明るさが十分でない夕方や夜間では、物が若干見えづらく感じる場合があります。また、ハロー・グレア現象といって、夜間に街灯や対向車のライトが虹のような輪になって見えたり眩しく感じたりすることが報告されています。そのため、夜間によく運転をする方(早朝や夕暮れ時を含む)には、多焦点レンズはあまりすすめられない場合があります。
白内障手術後に運転を再開できる時期
- 白内障手術後はすぐに運転ができますか?
- 白内障手術当日や直後は、原則として運転禁止です。手術直後は目に麻酔が効いていたり、術後の保護眼帯や保護メガネを着用していたりするため、自分で車を運転することは大変危険です。また手術直後は点眼薬で瞳孔が開いた状態(散瞳)になっており、視界がぼんやりします。このため手術当日は必ず公共交通機関やご家族の送迎を利用し、自分で運転して帰宅しないようにしましょう術前から車で通院されていた方も、手術の日は車以外の移動手段をあらかじめ確保しておく必要があります。
- 白内障手術後に運転を再開できる基準を教えてください
- 手術後いつから運転を再開できるかについてですが、明確に「○日後からOK」という全国一律の基準はありません。これは個人差が大きいことが大きな理由です。患者さんによっては翌日から驚くほどクリアに見える方もいれば、視力が安定するまで数日〜1週間ほど要する方もいます。そのため、一概に何日後とは決められませんが、一般的な目安としては術後約1週間で運転が可能になることが多い印象があります。
白内障術後に無理なく運転を再開するポイント
- 白内障手術後に運転を再開するにあたって気を付けることはありますか?
- 視力は手術翌日から良好になる方も多いですが、なかには数日〜1週間ほどかけてゆっくり回復する方もいます。術後は個人差がありますので、十分に見え方が安定し、自分で「よく見える」と実感できるまで運転は無理をしないことが大切です。特に手術直後〜数日間は目に炎症止めの点眼薬を使用しており、視界が安定しないことがあります。また、手術によって視界が急に明るく鮮明になった結果、最初は光が眩しすぎると感じる場合もあります。そのようなときは無理に運転せず、サングラスをかける・遮光眼鏡を使うなどして目を慣らしていきましょう。「昨日より見え方が良くなってきたかな」と感じても、念のためもう1日待ってみるなど、慎重すぎるくらいが丁度よいと思います。
- 白内障手術後に運転を控えたほうがよい症状を教えてください
- 術後しばらくの間に次のような症状がある場合、完全に落ち着くまで運転は控えましょう。例えば、眩しさやハロー現象が強いときです。夜間、街灯や対向車のライトが極端にまぶしかったり輪を描くように見えたりする場合、運転中に見落としや判断ミスにつながる恐れがあります。この症状は時間とともに軽減し、ほとんどの方は慣れて気にならなくなりますが、気になるうちは夜間の運転を避けるか、どうしても運転が必要な場合は信号の多い市街地ではなく明るい幹線道路を選ぶなど工夫してください。また視界に黒い浮遊物(飛蚊症)が増えたように感じる場合も要注意です。手術後に視力が良くなると、それ以前からあった硝子体由来の浮遊物がかえって目立って見えることがあります。ほとんどは生理的なものですが、まれに網膜剥離など重大なトラブルの前兆の場合もあります。黒い影が増えたり光が走るように見えたりしたら、運転せず速やかに術後の担当医に連絡・受診しましょう。いずれの場合も、少しでも違和感がある症状があるうちは運転を控えるのが基本です。
- 白内障手術後に運転ができるかどうか不安ですが誰に相談すればよいでしょうか。
- 「術後、自分はちゃんと運転できるだろうか」と不安に感じる場合は、一人で悩まず遠慮なく担当の眼科医に相談しましょう。眼科医は視力や視野の状態を客観的に評価できますので、現在の視力が運転に十分か、必要があれば眼鏡の処方や視機能検査などを行ってアドバイスしてくれます。もちろん、最終的な判断はご自身になりますが、専門家の意見を聞くことで適切なタイミングを見極める助けになります。いずれにせよ、少しでも不安を覚えたら一人で抱え込まず主治医に相談することが、安全につながります。
- 白内障手術後に見えにくさを感じたときの対処法を教えてください
- 手術後しばらく運転をしていると、「昼間は見えるけど夜の標識が見づらい」「雨の日の運転が少し不安」などと感じる場面が出てくるかもしれません。そのような見えにくさを感じたときは早めに対処することが重要です。例えば、夜間の標識や対向車ライトがまぶしい場合、無理に裸眼で運転せず、夜間運転用の眼鏡を作ると改善することがあります。また白内障手術後はドライアイになりやすい傾向があり、夕方以降に目が乾いてかすむことがあります。その際は市販の人工涙液点眼を利用したり、こまめにまばたきをするなどして潤いを保ちましょう。術後数ヶ月経って視力が安定したら、あらためて適切な度数の眼鏡を作り直すのもおすすめです。もし見え方に少しでも異常を感じたら放置せず、早めに眼科医に伝えましょう。必要に応じて検査を行い、原因に応じた対処をしてもらえます。
編集部まとめ
白内障手術は視力を取り戻すだけでなく、高齢ドライバーの安全運転にも大きな効果が期待できる手術です。とはいえ、手術直後は目が安定せず危険なため、運転再開のタイミングは主治医と相談しながら慎重に判断することが大切です。運転中に少しでも見えづらい、眩しいと感じたら、無理をせず休憩を取るか運転を中止してください。見える喜びを取り戻した後は、ぜひ慎重なステップで運転を再開し、快適なドライブを楽しんでください。
参考文献