白内障の手術で用いる眼内レンズには、多焦点レンズと単焦点レンズという、大きく二つの種類があることをご存じでしょうか。「見え方」は生活の質に影響するため、どちらのレンズを選ぶかは、その後の生活を考えるうえでとても重要です。白内障の基礎知識から多焦点レンズと単焦点レンズの違いまでを分かりやすく説明しますので、ぜひ参考にしてください。
白内障について
まずは、白内障という病気について解説します。
- 白内障とはどのような病気ですか?
- 白内障は、水晶体が白く濁っていく病気です。水晶体は目の中でレンズのような役割を果たしているため、白内障になり白く濁っていくと見え方に支障が生じます。具体的には、視力の低下や視界のかすみ、まぶしさなどが白内障の症状として知られています。高齢になるにつれて発症者は増え、80代では100%の人が白内障になっているといわれています。
- 白内障の原因は何ですか?
- 白内障の原因として一番多いのは、加齢です。水晶体を構成しているたんぱく質は、長年紫外線の影響を受けることで徐々に変性し、濁りを蓄積していきます。そのため、早い人では40代から白内障の症状が出始め、60代では約8割の人が白内障を発症するといわれています。そのほかの原因としては、先天的なものや外傷、アトピーによるもの、薬剤や放射線によるもの、目の病気によって発症するものなどがあります。また、糖尿病を患っている場合にも、白内障を発症しやすくなります。
- 白内障の予防方法について教えてください
- 白内障は、蓄積されてきた紫外線ダメージにより水晶体が濁ることで発症する場合がほとんどのため、紫外線を避けることが何よりもの予防策となります。紫外線をカットするサングラスや眼鏡、帽子や日傘を使用することで、紫外線ダメージの蓄積を抑えましょう。また、生活習慣病は白内障の発症に影響します。生活習慣病の発症を助長するような、不規則な食生活や喫煙、飲酒を避け、規則正しい生活習慣を心がけましょう。
- 白内障の治療方法にはどのようなものがありますか?
- 白内障の主な治療方法は、点眼と手術です。点眼は、白内障ではあるものの日常生活にはまだ支障が出ていない状態の場合に、進行を遅らせることを目的に行います。日本で認可を得ている点眼薬は二種類あり、一つはたんぱく質の変性を防いで濁りの抑制をするもの、もう一つは酸化を抑制するものとなっています。 手術は、白内障の症状で日常生活に支障が出ている場合に行われます。
白内障手術について
次に、白内障手術について説明します。
- 白内障手術はどのような手術ですか?
- 白内障手術は、濁ってしまった水晶体の中身を取り出し、代わりに眼内レンズを挿入するものです。これは、超音波水晶体乳化吸引術と呼ばれます。
- 白内障手術を受ける前の検査はどのような検査ですか?
- 白内障手術を行う場合、手術を滞りなく行うための検査と、手術後の見え方を決めるための検査を行う必要があります。手術を滞りなく行うための検査は、視力検査や白内障の進行度を確認するための検査、ほかにどのような疾患を患っているかを確認するための検査、まぶたの状態を確認するための検査、血液検査、心電図検査などです。手術後の見え方を決めるための検査では、手術後の視力への影響や、使用する眼内レンズの種類や度数を確かめます。白内障の検査・治療は年々進歩しているため、これらの検査を行うことで、手術後の合併症のリスク軽減や見え方の質の追究が可能になっています。
- 白内障手術の流れについて教えてください
- 手術当日は、まず目や目の周りを消毒し、薬を使って瞳孔を開きます。その後局所麻酔を施し、麻酔が効いたら、細いメスを使って角膜と結膜・強角膜の境目付近に数mmほどの創口を作ります。次に、眼粘弾剤と呼ばれるジェル状の物質で眼内を満たし、作業の安全性を高めます。その後、水晶体を覆っている水晶体嚢と呼ばれる袋の前面を剝がし、そこから超音波を発する棒を入れて水晶体を砕きながら吸い込みます。そうすることで水晶体の中身が取り出されるため、小さく折りたたんだ眼内レンズを挿入し、眼粘弾剤を除去した後に水で満たし、切開創を閉じたら手術は完了です。手術は日帰りで行う場合と入院して行う場合がありますが、手術時間は10分から20分程度であり、手術後は数十分から1時間ほど安静にする必要があるという点は、どの医療機関で行う場合もほぼ同様です。
多焦点レンズを用いた白内障手術について
白内障手術に使用する多焦点眼内レンズについて説明します。
- 多焦点眼内レンズについて教えてください
- 眼内レンズとは、障害を受けた水晶体の代わりに使用する、医療用のレンズのことです。そのレンズの焦点距離が二カ所以上あるものが、多焦点眼内レンズと呼ばれています。
- 多焦点眼内レンズの種類について教えてください
- 多焦点眼内レンズには、いくつもの種類があります。例えば焦点数に関しては、焦点数が二つのものや、三つのもの、五つのものなどがあります。焦点数が増えるだけ、焦点が合う距離が多くなるということですので、その分、複数の箇所をはっきりと見ることができるようになります。また、白内障手術によるデメリットとして、暗い場所で光をまぶしく感じたり、光に輪がかかって見えたりするハロー・グレア現象が起こることがあります。このハロー・グレア現象の抑制ができるものや、乱視矯正機能が施されたものも出てきています。「手元を見る作業をすることが多い」「スポーツをしている」などの生活習慣や、手術を受ける時点での年齢など、さまざまな点を考慮してレンズを選ぶことが重要です。
- 多焦点眼内レンズを使った手術の費用について教えてください
- 多焦点眼内レンズは保険適用にはなっておらず、自由診療もしくは選定療養となります。そのため、単焦点レンズに比べて高額な治療費がかかります。目安としては、超音波白内障手術で片目40万円から60万円、レーザー白内障手術で50万円から70万円です。日帰りで行うか入院で行うかなどによっても金額は変動しますので、事前にしっかり確認しましょう。
単焦点レンズと多焦点レンズの違い
最後に、単焦点レンズと多焦点レンズの違いを説明します。
- 単焦点レンズは多焦点レンズとどのような違いがありますか?
- 大きな違いは、焦点数が異なるという点です。前述したように、多焦点レンズでは複数の焦点距離にピントが合うようになっていますが、単焦点レンズでは一つの焦点距離にしかピントが合いません。そのため、手元にピントを合わせた場合には遠方を見るためにコンタクトレンズや眼鏡を使用する必要があります。また、単焦点は保険適用なのに対し、多焦点は自由診療だという違いもあります。保険適用にて単焦点レンズを挿入する手術を行った場合、自己負担1割の方であれば2万円弱、自己負担3割の方であれば5万円弱となります。
- 単焦点レンズより多焦点レンズがおすすめな人はどんな人ですか?
- 多焦点レンズは、焦点数が複数あるため、手術後は裸眼で生活できるようになります。そのため、眼鏡やコンタクトレンズをつけるわずらわしさから解消されたい方や、日常生活をより快適にしたいと考えている方には向いているといえます。
編集部まとめ
白内障の手術で用いられる多焦点眼内レンズについて説明しましたが参考になったでしょうか。多焦点レンズにはさまざまな種類があり、患者さん一人ひとりの生活スタイルに合わせた選択が可能です。白内障になってしまった後も快適な生活を送れるように、ぜひ多焦点眼内レンズを検討していただければと思います。
参考文献