緑内障は視神経が障害を受けて徐々に視野が失われる病気です。 障害を受けた視神経は元に戻らないため放置すると失明する危険性がありますが、適切な治療を行えば病気の進行を抑制できることがわかっています。
早期発見し早期に治療を開始することが非常に重要ですが、緑内障の初期では自覚症状がほとんどないため発見が遅れることが問題です。
この記事では、緑内障のチェック方法・治療法・症状について詳しく解説します。緑内障について漠然とした不安をお持ちの方や、ご家族に緑内障の方がいて心配な方はぜひ参考にしてください。
緑内障チェックは自分でもできる?
- 緑内障チェックは簡単ですか?
- 緑内障は視神経が障害され徐々に視野障害が広がる病気です。視野とは視線を固定した状態で見える範囲のことですが、日常生活では両眼で見るため片方に視野障害があっても反対眼が視野を補うため気づきにくいといわれています。緑内障チェックをする際は片方ずつ目隠しをして行いましょう。緑内障の場合は、障害のある部分が黒く見えるわけではありません。緑内障初期の場合は、なんとなく見えにくい・かすむ・ボーっとするといった程度なので、単に景色を見ながらのチェックでは視野の変化に気づくのは難しいかもしれません。碁盤の目や方眼紙など均一な画面でチェックしてみましょう。緑内障のセルフチェックのツールを使用すると簡単にチェックできます。
- 緑内障のセルフチェック方法を教えてください。
- 緑内障初期の視野障害は自覚しにくいほど軽微なため、専門的なツールを使用した方が正確にチェックできます。日本眼科医会は緑内障のセルフチェックとして、アイフレイルの公式サイトのチェックツールを紹介しています。主なものは以下の3つです。
- アムスラーチャート
- クロックチャート
- クアトロチェッカー
アムスラーチャートは碁盤の目の中心点を片眼で見て線のゆがみや欠けがないかチェックします。クロックチャートは生き物の絵が描かれた丸いチャートの中心を片眼で見つめ、チャートが回転しても生き物が消えたりしないか調べる検査です。クアトロチェッカーは画面の中央を片眼で見つめたまま、さまざまな箇所で丸い点を点滅させて視野を確認します。いずれもアイフレイル啓発公式サイトで簡単にチェックできます。(クロックチャート・クアトロチェッカーはスマートフォンには対応していないのでパソコンから操作を行ってください。)チェックをして見え方に異常があれば緑内障の視野障害の可能性が高いです。緑内障は早期治療により病気の進行を抑制できることがわかっていますので、すぐに眼科専門の医院を受診しましょう。
緑内障チェックの前に知りたい原因や治療法
- 緑内障の原因について教えてください。
- 緑内障の原因は確実にはわかっていません。網膜内には網膜神経節細胞から長く伸びた軸索(視神経線維)があり、約100万本の視神経線維が視神経乳頭で束となって視神経を形成しています。高眼圧が持続したり何らかの原因によって視神経線維が障害されて網膜神経節細胞死となり、その細胞が担当していた部分の視野が欠けてくることで緑内障が発症すると考えられています。以前は眼圧が高いことが原因と思われていましたが、眼圧が高くなく正常範囲でも緑内障を発症する場合があり、日本人の場合は約7割が正常眼圧緑内障です。眼圧以外にも「視神経の脆弱性」・「血流不足」・「免疫の異常」などさまざまな要因が考えられていますが、現時点では確かなエビデンスがなく今後の研究が期待されます。
- 緑内障の初期症状を教えてください
- 閉塞隅角緑内障(隅角部分が閉じている)の急性発作では頭痛や眼の痛みを伴いますが、ほとんどの緑内障の場合自覚症状はありません。視神経線維の障害は長い時間をかけ徐々に進むので初期の段階では視野の欠けに気づきにくく、視野に異常を感じるときはすでに多くの網膜神経節細胞が消失し病気が進行しています。初期の視野障害はなんとなく見えにくい・かすんで見える程度の軽微なため、よほど注意してチェックしないと見逃す可能性があります。視野に少しでも違和感を覚えたらすぐに眼科専門の医院を受診しましょう。
- 緑内障の主な検査法にはどのようなものがありますか?
- 緑内障の診断に欠かすことのできない3つの検査があります。
- 眼底検査:緑内障の構造的異常を検査
- 視野検査:緑内障の機能的異常を検査
- 眼圧検査:緑内障の病態的異常を検査
緑内障は視神経と視野に特徴的な変化があるので、眼底検査と視野検査は非常に重要です。眼底検査では視神経乳頭付近の網膜の状態を観察します。近年はOCT(光干渉断層法)を用いて網膜や視神経乳頭の断面を見ることができ、ごく初期の緑内障でも診断可能です。視野検査では視野の欠けている部分を調べます。眼圧は緑内障にとって最も大きなリスクファクターであり、どの程度の眼圧で視神経障害が生じるかを確認することは重要です。眼圧検査で正常眼圧緑内障かどうかの病型診断をします。その他主な検査に隅角検査があり、隅角の状態を確認し開放隅角緑内障・閉塞隅角緑内障の病型診断を行います。
- 緑内障の治療法について教えてください。
- 唯一エビデンスがある治療は眼圧下降療法です。眼圧を下げる目的で以下の治療が行われます。
- 薬物治療
- レーザー治療
- 手術
治療はまず点眼薬による薬物治療から開始します。房水流出を促進または房水産生を抑制することで眼圧を下げます。主な点眼薬は以下の通りです。
- プロスタグランジン関連薬(PG関連薬)
- 交感神経β受容体遮断薬(β遮断薬)
- 炭酸脱水酵素阻害薬
- 交感神経α2受容体作動薬(α2作動薬)
- EP2作動薬
- ROCK阻害薬
通常第一選択薬として使用されるのは、房水流出促進作用のあるPG関連薬です。効果がなければ房水産生抑制作用のあるβ遮断薬を追加したり、PG関連薬の副作用(刺激感・色素沈着)で使用できない場合はβ遮断薬などに変更されることもあります。治療の基本は点眼薬であり、眼圧を下降するためには継続することが重要です。2剤・3剤と薬を追加しても効果がない場合はレーザー治療が行われます。房水の流出口である隅角内部のフィルター部分(線維柱帯)にレーザーで孔を開け、房水を流れやすくして眼圧を下げる治療法です。痛みが少なく外来で行うことができます。 レーザー治療でも効果がなければ手術となります。手術をしても視神経や視野が回復するわけではなく、あくまでも眼圧を下げることが目的です。手術は大きく2つに分けられます。
- 線維柱帯切開術
- 線維柱帯切除術
線維柱帯切開術は隅角のフィルターにあたる線維柱帯を切開し、房水の流出量が増加することで眼圧が下降することを目的に行われます。近年、小さな傷で目に負担をかけないMIGS(低侵襲緑内障手術)が普及し、各医療機関でさまざまな術式が行われ、白内障と同時手術が可能なケースもあります。手術をしても期待通りに眼圧が下がらなかったり、何年かして再手術しなければならないことがデメリットです。線維柱帯切除術は繊維柱帯の一部を切除して房水の排出量を増加して眼圧を下げる手術です。眼圧を下げる効果はおおきいものの、合併症など術後の管理など十分なケアが必要となります。手術は患者さんの病型・病期によって選択しますが、眼圧が下がる可能性や術後の経過について十分な説明がなされる必要があります。
- 緑内障の好発年齢は何歳くらいですか?
- 緑内障は10年程度の長い時間をかけて進行する病気です。統計上、40歳を過ぎるあたりから患者数が増加することがわかっています。年齢が上がるごとに患者数が増加し、40歳で20人に1人、70歳で10人に1人、80歳では6人に1人が緑内障といわれています。
緑内障チェックでわかる症状やなりやすい人
- 緑内障は早期発見できる疾患ですか?
- 通常、人は両眼で物を見ており、片眼に視野障害があっても反対眼が視野を補うため視野障害に気づきにくいといわれています。片眼で視野を確認した場合でも、緑内障の初期では何となく見えにくい程度のわずかな違和感のため、視野障害をはっきりと自覚することは非常に困難です。しかも視野検査で視野欠損を確認できる段階では、すでに網膜神経節細胞の多くが消失しているため早期発見は非常に難しいとされています。確実に早期発見するためには、OCT(光干渉断層法)による眼底検査で網膜神経線維層の断面を確認する以外に方法はありません。日本眼科医会は40歳を過ぎたら眼底検査を受けるよう推奨しています。早期発見のためには眼底検査を受けることが望ましいですが、難しいようならせめて日頃から視野のセルフチェックをして見え方に違和感を覚えた場合はすぐに眼科専門の医院を受診してください。
- 緑内障になりやすいのはどのような人ですか?
- 緑内障の危険因子として以下が知られています。
- 高眼圧
- 高齢
- 家族歴
- 低血圧
- 2型糖尿病
- 近視
もともと眼圧が高い方・家族に緑内障患者がいる方は緑内障にかかりやすいといわれています。低血圧の場合は網膜の血液循環が悪くなることが原因です。糖尿病や近視の方も緑内障を併発しやすいといわれているので積極的に視野のチェックを行いましょう。眼底検査を受けることが望ましいですが、まずはセルフチェックをして見え方に少しでも違和感を覚えたら、すぐに眼科専門の医院を受診してください。
- 緑内障は生活習慣病などの合併症として発症する可能性はありますか?
- 緑内障は糖尿病の合併症として発症しやすいことが知られています。糖尿病になると血管が傷み網膜上に新生血管ができやすくなります。隅角付近にできた新生血管が房水の流出を妨げて眼圧が上昇することが原因です。生活習慣病ではありませんが、強度近視があると緑内障を併発しやすいこともわかっています。強度近視では眼球が前後に過度に伸長し、視神経が障害を受けることが原因です。生活習慣病は動脈硬化など血管の状態が悪化して緑内障に間接的に悪い影響を及ぼすことも考えられます。また喫煙はニコチンの血管収縮により網膜の環境を悪化させるとみられています。直接的な影響はないものの少しでも緑内障のリスクを減らすために、生活習慣病や喫煙について見直しましょう。
編集部まとめ
緑内障は放置すると失明する可能性のある病気ですが、適切な治療を行えば病気の進行を抑制できることがわかっています。
早期発見し早期に治療を開始すれば、視野を失うことなく日常生活が送れます。 早期発見するには眼底検査が確実ですが、日頃からセルフチェックしておけば異変に気づきやすくなります。
この記事を読んで緑内障について正しく理解し、早期発見・早期治療に役立てていただければ幸いです。
参考文献