緑内障とは、目と脳をつないでいる視神経が減少することにより視野障害が広がる病気です。眼圧を下げることで緑内障の進行を抑制できます。
40歳以上の約5%は緑内障に罹患していると考えられているほど身近な病気の一つであり、重症になるまで自覚症状が現れないため眼底検査や視野検査で判明するケースが多くみられます。
緑内障の治療には手術による眼内レンズの挿入があり、緑内障の種類によっては症状を緩和させる効果的な治療です。
本記事では、緑内障手術における眼内レンズについて、白内障手術が適用となる緑内障も解説します。
眼科で緑内障と診断された方、緑内障における眼内レンズについて詳しく知りたい方はぜひ参考にしてください。
緑内障手術における眼内レンズとは?
緑内障手術は点眼による眼圧低下の効果がみられない場合や、急激に眼圧が上がることで起こる頭痛や吐き気などの症状を改善させるために行う治療法です。
原発閉塞隅角緑内障の場合、隅角が閉塞してしまうことで眼圧が急激に上昇してしまうこともあり、最悪の場合失明に至る可能性もあります。
緑内障手術で、もともとの水晶体から薄い眼内レンズを挿入することで隅角の閉塞が解消され、症状の改善が期待できます。
ただし、術後一過性の眼圧上昇がみられる可能性もあるため、緑内障の状態によっては眼内レンズによる治療が難しいです。
緑内障手術で眼内レンズを挿入する場合は目の状態を詳しく検査し、眼科医と相談のうえ、手術するか否かを決めましょう。
緑内障の種類
緑内障は原因の有無や症状などによって大きく4つに分けられます。それぞれ種類によって治療方法が異なるため、どの緑内障に罹患しているかを見分けるのは重要です。
では緑内障の種類について、それぞれ詳しくみていきましょう。
原発開放隅角緑内障
原発開放隅角緑内障とは、眼圧が上がるほかの要因が見当たらないもので、隅角といわれる目の中の水の出口が広くなっているタイプを指します。
一般的によくみられる緑内障は原発開放隅角緑内障であることが多く、眼圧上昇が軽度なため、次第に視野障害が現れます。
原発開放隅角緑内障は隅角が広くなっているため、目の中の水である房水が調整されているのも特徴の1つです。
治療方法は点眼薬を用いるケースがほとんどで、症状の進行を緩やかにすることが目的です。
原発閉塞隅角緑内障
原発閉塞隅角緑内障とは、原発開放隅角緑内障と同様に眼圧が上がるほかの要因が見当たらないもので、隅角が狭くなっているタイプを指します。
急性閉塞隅角緑内障であれば急速に隅角が狭くなっているため、房水が流出できなくなることで眼圧が急激に上昇し、激しい頭痛や吐き気などの症状をもたらします。
そのため、短時間で失明に至るケースもあり、至急治療対応が必要です。
原発閉塞隅角緑内障の場合、治療方法として手術治療が第一選択とされ、急激に上昇する眼圧の症状を予防することが重要になります。
具体的には虹彩にレーザーで穴を開けて隅角を閉塞しにくくするレーザー虹彩切開術や水晶体を切開し薄い眼内レンズを挿入して隅角を開く白内障手術などが行われます。
続発緑内障
続発緑内障とは、眼圧が上がるほかの要因があり、要因を取り除くことで眼圧上昇を緩やかできるものを指します。
続発緑内障の要因としては、ぶどう膜炎・手術後・怪我などの目に直接関係するものから、糖尿病・脳疾患・ステロイド点眼薬などの副作用といった目以外の要因によって引き起こされるケースもあります。
疾患が原因となっている場合はまず原疾患の治療が優先され、その中で眼圧を下げる点眼薬による治療が並行して行われるでしょう。
点眼薬では眼圧が下がらない場合、緑内障手術により隅角を開くことで眼圧を低下させる治療法が用いられます。
小児緑内障
小児緑内障とは、生まれつき眼圧が高い場合や子どもの頃から眼圧が上がることで緑内障の症状が発生するものを指します。
生まれつき眼圧が高い場合は隅角が閉塞されていることが要因で角膜が広がり、黒目が濁ってみえることで発症を確認するケースが多いです。
小児緑内障も隅角が閉塞されている状況を手術治療によって解消し、眼圧を低下させることで症状の進行を緩やかにしていきます。
原発閉塞隅角緑内障と同様で治療を行わなければ症状が進行し、最悪の場合失明する可能性もあるため、早い段階で手術を行うことが重要です。
緑内障の症状
緑内障は自覚症状がない状態で進行し、症状がみられる段階では既に重症化している可能性が高い病気です。
緑内障の症状としては、視野の欠損や視力低下がよくみられます。自覚症状がない段階では眼底検査や視野検査によって緑内障と発覚するケースがほとんどです。
では、緑内障の症状について詳しくみていきましょう。
視野の欠損
緑内障の症状の1つとして、視野の欠損が挙げられます。視野の欠損とは、全方位でみえていた視野が視神経の減少により狭まる症状です。
緑内障は眼圧が高い状態が続くことで目の奥にある視神経が障害されます。
障害された視神経は回復することはないため、次第に視神経は減少し、みえる範囲にも影響を及ぼします。
ただし、中心視野は緑内障末期まで保たれるケースが多いため、視野の欠損により不自由さを感じる頃には緑内障がかなり進んでいる可能性が高いといえるでしょう。
視野の欠損については視野検査によって調べられるため、視力検査や眼底検査とともに定期的に受診しましょう。
視力低下
緑内障に罹患すると視力低下も症状として現れます。眼圧の上昇で障害された視神経により、視野だけでなく視力も低下するためです。
視神経は回復できないため、早期に緑内障を発見し、治療を行うことで視力低下を防げます。
視力検査だけでは緑内障は発見できないため、眼底検査・眼圧検査・視野検査を組み合わせて総合的に診断されます。
近年では健康診断の際に40歳以上から視力検査のほか、眼底検査も実施されているため、緑内障の早期発見が可能です。
目のかすみ
眼圧の上昇がより進むと、目の前がかすんで見えるようになります。
もやがかかったように見えるため、活字を読んでいると読み飛ばしてしまったり、ぼやけて見えたりする症状が現れます。
目のかすみがみられる段階では、眼圧がかなり上昇している状態のため、早期に眼科医院へ通院することがおすすめです。
緑内障に対する治療
緑内障と診断された場合には治療の足がかりとして、視神経減少の要因となる眼圧を低下させる治療が行われます。
点眼薬による治療がメインとなりますが、閉塞隅角緑内障や小児緑内障などの場合は早期に症状を予防する治療が必要とされるため、手術治療が優先されます。
このように緑内障の種類や目の状態によって治療方法が変わり、緑内障の進行を遅らせることで日常生活に支障をきたさないことが目的です。
では、緑内障に対する治療方法について詳しくみていきましょう。
眼圧下降剤による薬剤治療
緑内障と診断された場合にまず行われるのが、眼圧下降剤による薬剤治療です。眼圧を低下させることで視神経の減少を抑えます。
視神経の減少を抑えることで、視野の欠損や視力低下を防げるため、長い期間にわたり視野や視力を良好に保てます。
眼圧下降剤として用いられる点眼薬は、プロスタグランジン関連薬・ベータ受容体遮断薬・炭酸脱水酵素阻害薬・アルファ2受容体刺激薬などです。
まずはプロスタグランジン関連薬から始め、眼圧の変化や副作用などの状況をみて点眼薬を追加したり、ほかの点眼薬に切り替えたりして治療を進めていきます。
線維柱帯切開術
開放隅角緑内障などで房水の排水が困難になっている場合は手術方法が2つあり、1つ目として線維柱帯切開術(せんいちゅうたいせっかいじゅつ)による手術があります。
線維柱帯切開術とは、詰まりを起こしている線維柱帯を切り開いて、房水が流れるようにする手術です。
線維柱帯を切開する際に目の内側に向かって行うことで目の中に血液が逆流するため、術後1週間ほどは見えにくい状態が続きますが、次第に解消されます。
点眼薬に比べ眼圧低下の効果がある手術方法ですが、濾過胞炎や眼内炎といった合併症を引き起こす可能性があります。
これらの合併症は術後すぐには現れず、時間の経過とともに症状が出てくるため、普段から目を清潔に保つことが重要です。
線維柱帯切除術
房水の排水が困難になっている場合の手術法として、もう一つが線維柱帯切除術(せんいちゅうたいせつじょじゅつ)による手術です。
隅角にある線維柱帯はフィルターの役割を果たしている組織で、線維柱帯につまりが生じることで房水の流れが悪くなり、眼圧が上がる原因となっているケースがあります。
線維柱帯切除術は房水の出口を別に作ることで流れが良くなり、眼圧を正常値まで低下させる手術治療です。
点眼薬で効果がみられない場合などに行われる治療方法で眼圧を下げる効果は大きいですが、合併症も発症しやすいため注意が必要です。
隅角癒着解離術
虹彩が線維柱帯に癒着してしまうことで房水が流れていかない場合は、隅角癒着解離針(ぐうかくゆちゃくかいりしん)という針を使って癒着部分を解離する手術が行われます。
隅角癒着解離術によって癒着部分が解消されると、房水が流れやすくなります。また、白内障の症状に対しても効果がみられるため、一緒に行われることもあるでしょう。
術後に虹彩が再癒着しないようにレーザーを照射することもあります。
水晶体再建術
閉塞隅角緑内障では白内障手術も有効であり、水晶体再建術が用いられるケースがあります。
水晶体再建術とは、水晶体を切開し眼内レンズを挿入することでみえにくかった視野を回復させる効果があります。
緑内障で水晶体再建術を採用する場合は、水晶体から厚さの薄い眼内レンズに切り替えることで閉塞されていた隅角が開き、房水が流出できることで眼圧を低下させる効果が狙えるのです。
閉塞隅角緑内障は急激な眼圧の上昇により頭痛や吐き気などの症状が現れ、治療が遅れると失明の恐れもあることから水晶体再建術により早期に症状の改善が可能です。
ただし、術後の合併症のリスクや一過性の眼圧上昇もみられることから、担当医と相談して検討することをおすすめします。
レーザー治療
開放隅角緑内障の治療で点眼薬を服用しても症状が改善しない場合や視野障害が進行している場合はレーザー治療が行われます。
隅角光凝固術(ぐうかくひかりぎょうこじゅつ)は、綿維柱帯にレーザーを照射してメラニンを破壊することでつまりを解消する治療方法です。
また、閉塞隅角緑内障の場合は急性発作の予防のために行われる治療としてレーザー虹彩切開術があります。
レーザー虹彩切開術は黒目の中にある虹彩にレーザーで小さな穴を開けて隅角が閉塞しにくくする方法です。
レーザー治療は日帰りで治療が行うことが可能で、眼圧の低下に効果がありますが、合併症も稀に発生することがあるため、注意が必要です。
白内障手術が適用となる緑内障とは?
白内障手術が適用となる緑内障としては、隅角の狭い緑内障や狭隅角眼が適応となります。
白内障手術はもともとは混濁した水晶体を取り除き、視界をクリアにするために行われる手術です。
隅角の狭い緑内障や狭隅角眼は隅角が狭まり眼圧上昇が現れるため、早期の治療が必要です。そのため、すぐに効果が現れる白内障手術は適した治療法といえます。
ただし、白内障手術は術後に合併症が現れる可能性があります。また、状態によっては再度手術が必要になる可能性も否定できません。
これらのリスクを理解したうえで白内障手術による緑内障の治療は可能といえるでしょう。
白内障手術の方法は?
白内障手術は局所麻酔を行い、水晶体を切開してそこにできた溝に眼内レンズを挿入します。
緑内障治療のための白内障手術では厚さの薄い眼内レンズを挿入することで狭くなった隅角を開くことができるため、房水が流出でき眼圧を下げる効果が得られます。
また、隅角が開くことによって閉塞隅角緑内障にみられる急性発作が起こらなくなるため、急激な頭痛や吐き気の心配がなくなるでしょう。
そして、眼圧が低い状態が続くと、視神経の障害を防ぐことができ、緑内障の進行を止めるまたは遅らせることが可能です。
白内障手術は、白内障の症状にとどまらず、緑内障の種類によっては効果があるといえます。
まとめ
本記事では、緑内障手術における眼内レンズについて、白内障手術が適用となる緑内障も解説しました。
緑内障にはほかの要因が伴わないもので開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障があります。
緑内障の主な治療法としては、眼圧下降薬の点眼が第一に行われるが、点眼薬で眼圧の低下がみられない場合、レーザー治療や手術治療が行われます。
閉塞隅角緑内障では、白内障手術で眼内レンズを挿入することで閉鎖された隅角が開き、房水が流出することで眼圧を引き下げることが可能です。
ただし、レーザー治療や手術治療は合併症や感染症の恐れもあるため、リスクを十分に理解する必要があるでしょう。
緑内障の進行を遅らせるため、白内障手術による眼内レンズの挿入は緑内障の種類によっては効果的であるため、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
参考文献