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緑内障の再生医療とは?眼科分野における遺伝子治療についても紹介

緑内障 再生医療

目に関する病気には様々なものがありますが、中でも緑内障は失明原因第一位になるほど身近な病気です。視野が狭くなる、部分的に見えなくなるなど深刻な問題を引き起こします。

ですが、技術の進歩によって現在では眼科分野において再生医療や遺伝子治療の研究が盛んに行われています。

そのきっかけはiPS細胞の作製によるものであることも多く、網膜色素変性症などは手術成功の事例も報告されているところです。

本記事ではそれらも踏まえ、眼科分野における緑内障の再生医療、および遺伝子治療の研究についてご紹介します。

緑内障の再生医療とは?

鏡で目を見る女性

緑内障は視覚障害の原因となる病気の第一位(世界でも失明理由の第二位)であり、患者数は国内で500万人、40歳以上の20人に1人の割合で罹患する病気です。

70歳以上では10人に1人の割合で罹患しています。緑内障は目の奥にある、眼から入ってきた情報を脳に伝達する視神経に異常が起こり、視野が徐々に狭くなったり部分的に見えなくなったりする病気です。

失明に至ることもある怖い病気であり、長い時間をかけて視野が欠けていきます。

その原因として、眼圧が高いことで緑内障を引き起こすと考えられており、眼圧を下げる目薬の投与や手術を行うことで状態悪化を防ぐ手法がこれまで取られてきました。

再生医療の分野では今のところ成功事例はありませんが、緑内障モデル動物を用いて遺伝子治療で緑内障を抑制できないか研究が行われています

眼球内の内圧は、房水という水分の量でコントロールされています。房水は角膜と虹彩、虹彩と水晶体の間に流れており、角膜や水晶体に栄養を与えたりそこから出た老廃物を流したりする役割があります。

房水の出口が狭かったり目詰まりを起こしていたりすると、房水の排出がうまくいかず房水の量が増えて眼圧が上がる原因となり、その結果視神経が傷つくこととなるのです。

一度傷ついた視神経は二度と回復しないため、治療としては一刻も早く「眼圧を下げて」進行を防ぐことが優先となります。

主な治療法は薬物療法・手術・レーザー療法ですが、日本人の場合は体質的に視神経が弱い方が多く、日本人の緑内障患者の約7割が眼圧が上昇しない「正常眼圧緑内障」です。

眼圧以外の要因によって緑内障が引き起こされており、その解明と治療法が急がれているところです。

なお視覚にはモノを見分ける視力と、見える範囲の広さを示す視野があります。視覚障害とは、視力や視野の障害が起こり、日常生活を送るうえで困難がある状態のことをいいます。

緑内障に対する通常の治療と再生医療の違いは?

鏡で目を見る女性

通常の治療の場合、一般的には点眼薬やレーザー治療、手術で眼圧を下げる方法が挙げられます。

その後、長さ約1mm程度のステントを使用して眼圧を下げる治療が導入されました。これは、角膜と虹彩の間にある隅角にあるシュレム官にステントを差し込み、房水を排水しやすくする手術です。

ステント治療の場合、手術時間が15分程度と短時間で完了し、また合併症も少ないという点が特徴として挙げられます。現在では新型のステント治療法として、極小の直径0.3mmステントを2本使用する方法が主流であり、房水排水機能がより高まっています。

これらステント治療法により、手術を受けた方の約9割が、点眼薬が不要になるなど眼圧低下に成功している状況です。

ステント治療は福井県済生会病院にて実施されてきており、2021年3月31日時点では国内最多の239例、新タイプの治療は51例(同時点)実施されています。

ただし、ステント治療は誰でも施術が可能なわけではなく、緑内障患者さんのうち以下に該当する方が施術可能となります。

  • 眼の中の隅角が十分に広い
  • 緑内障の初期~中期
  • 白内障と同時に治療
  • レーザー治療以外の内眼手術を受けていない
  • 20歳以上

再生医療とは、病気やけがなどで機能を失った組織や臓器を修復、再生する治療のことです。患者さん自身や他者から幹細胞(全ての細胞のもとになる細胞)を取り出して増やし、特定の組織や細胞を人為的に作り出し、それを移植することで失われた組織や臓器を再生する治療方法です。

幹細胞とは人間の体の細胞は、皮膚や血液のように寿命が短く、絶えず入れ替わり続けています。そのために失われた細胞を再び生み出して補充する能力を持った細胞が存在し、それが幹細胞です。

幹細胞には二種類存在します。

  • 組織幹細胞:決まった組織や臓器で消えた細胞の代わりを作り続けている幹細胞
  • 多能性幹細胞:どんな細胞でも作り出すことができる

iPS細胞は普通の細胞を元にして人工的に作り出した多能性幹細胞の一つです。

網膜再生医療の対象疾患

鏡で目を見る女性

あらゆる目の病気に関して、技術の進歩によって現在では手術の成功事例が挙げられているものもあります。代表的な病例をもとに、紐解いていきましょう。

緑内障

目元を押さえる男性

再生医療の対象疾患として研究が急がれているものの一つが、前述した緑内障です。視覚障害となる原因の一位である緑内障について、現時点では進行を遅らせることしかできません。

現在、遺伝子治療における緑内障の抑制が研究されており、緑内障モデル動物を用いた研究が進んでいます。

その結果、生き残っている網膜神経節細胞に活性型TrkBを導入する遺伝子治療を行うと、緑内障の進行を抑制できたり、編成した視神経を再生できたりする可能性が出てきています。

糖尿病網膜症

視覚障害となる原因の第三位が糖尿病網膜症であり、糖尿病が原因で網膜が障害を受け、視力が低下する病気です。

高血糖の状態が続くと目の網膜に広がっている毛細血管が傷害され、やがては失明に至る恐ろしい病気です。

完治のできない病気であり、治療は症状の悪化を防ぐために行われます。内科医の指導による血糖のコントロールの他、眼科医における網膜症の検査を同時に行っていく必要があります。

こちらも再生医療での治療方法の獲得が急がれているところです。

網膜色素変性症

日本人の失明理由第二位が網膜色素変性症(遺伝子の病気)です。網膜の遺伝性の異常であり、ある時期から夜など暗いところで目が見えなくなったり視野狭窄が起こったりし、視力低下ののち最悪の場合は失明に至る怖い病気です。

ロドプシンという遺伝子の異常で発症する病気で、基本的に両眼性であり緩やかに進行します。日本では5,000人に一人の有病率である難病の一つではありますが、iPS細胞の登場により状況は変わりつつあります。

2020年に神戸市立神戸アイセンター病院で、健康な方のiPS細胞から視細胞の元となる細胞のシートを作り出し、60歳代女性に移植する手術が行われました。

手術は無事に成功し、移植前は光を感じられる程度で文字は読み取れなかったが、いくつかが見えるようになったのです。

また、2021年には40歳代男性にも移植手術が行われています。どちらも移植後一年間、経過観察をしましたが安全性が確認できています。

加齢黄斑変性症

網膜の視細胞と色紙上皮細胞の働きが低下し、重篤な視機能障害をきたす病気です。

2014年9月に神戸アイセンター病院にて加齢黄斑変性症の70歳代女性患者さんに、その患者さん自身の皮膚細胞から作製したiPS細胞を、網膜色素上皮細胞に変化させて網膜下に移植する手術を実施、成功しています。

移植後黄斑下に生着し、術後7年が経過しても腫瘍化など重篤な有害事象も起きていないとのことです。

眼科疾患における再生医療の例

目薬をさす女性

代表的な疾患名を例に、再生医療について紐解きます。

角膜上皮再生

目元を押さえる女性

角膜上皮幹細胞疲弊症とは、角膜上皮の幹細胞が消失して角膜が結膜に被覆される症状であり、角膜上皮幹細胞が完全に消失します。

2019年4月にiPS細胞から作製した角膜上皮を患者さんへ移植する臨床研究が実施、完了しており、いずれの症例も重篤な有害事象は発生しておらず、安全性を示す結果が得られています。

神経幹細胞移植

神経幹細胞とは、自己複製機能と多分化機能を併せ持った細胞です。上述した通り、網膜色素変性症に対して神経幹細胞移植に適しているといわれています。

胎児網膜色素上皮細胞移植

アメリカで行われている移植手術であり、一部で拒絶反応も見られることから治療法の獲得が急がれています。

眼科疾患での遺伝子治療研究にて使用されるAAVベクターについて

目元を押さえる女性

遺伝子治療とは、患者さんの骨髄から幹細胞を取り出し、ほかの方から取り出した正常な遺伝子を導入し増殖、患者さんの体内へ戻して病気を改善させる方法です。

正常な遺伝子が働き、今まで作られなかったたんぱく質が作り出されて病気が改善されることを目指す治療法となります。

ほかの方から正常な遺伝子を取り出す際、ウイルスのベクターなどを利用することが多いです。遺伝性疾患の場合は遺伝子に異常が見られるという点に着目しました。

遺伝子の塩基配列を改善することで今まで作られなかったたんぱく質が作り出されるようになり、病気の改善に寄与するのではないかと考えられた結果、開発された治療法となります。

まず初めに遺伝子診断を行い、患者さんの血液や口腔粘膜を採取、病気の原因遺伝子を持つかどうかのDNAを調べ、病気の発症の可能性を診断します。

AAV vector serotypes

AAVベクター(アデノ随伴ウイルスベクター)とは、安全性が高く、神経細胞などの非分裂細胞にも遺伝子導入が可能である点から、網膜疾患の領域においてよく使用されている遺伝子導入ベクターです。

ウイルスベクターは遺伝物質を細胞に送るためのツールであり、複数種類があるもののうちの一つがアデノ随伴ウイルスです。

レンチウイルスベクターもウイルスベクターの一つであり、治療対象の病気や目的遺伝子の大きさに応じて適したウイルスベクターが選ばれます。

Self-complementary(sc)AAV Vector

発現効率の高いベクターとして注目を集めています。

通常のベクターは、ゲノムが1本鎖のDNAであり、時間をかけて核内で2本鎖になることで遺伝子発現が起こります。
このことから、遺伝子発現には膨大な量のベクターが必要となり、また遺伝子発現がピークに達するのに2~3週間程度時間を要してきました。

これに対して、Self-complementary AAVベクターは分子内に相補的な配列を有するゲノム構造を持ち、標的細胞内でただちに2本鎖となるために遺伝子発現が効率よく行われるというものです。

ただしベクターに搭載されるゲノムサイズが従来量の半分になることから、小さな遺伝子でなければ応用ができない点があります。

チロシン変異(tm)-scAAV ベクター

従来より、ユビチキン化されることでAAVの核輸送が阻害され、遺伝子導入効率が低下すると考えられてきました。

これに対してチロシン変異(tm)-scAAV ベクターでは、ユビチキン化が阻害され核輸送が促進し、遺伝子導入効率を促進するというものです。

非常に高い遺伝子導入効率を持つことで知られ、現在はこちらを利用した遺伝子治療研究が数多く行われています。

眼科分野における遺伝子治療の研究

目薬をさす女性

現在行われている遺伝子治療の研究事例について、眼科分野に関して紐解きます。

Leber 先天盲(LCA)に対する遺伝子治療

目元を触る笑顔の女性

高度に視力が阻害される病気であるものの、15種類以上の原因遺伝子の中の「RPE65」遺伝子異常を対象にした研究が長年行われてきました。

2007年にヒトLCA2患者さんに対する遺伝子治療の臨床研究が行われ、網膜感度の上昇、暗所下での行動、視野の改善を認めました。

こちらは日本で承認された治療であり、その後の米国やヨーロッパでのAAV遺伝子治療薬としての認可を経て、3年以上の期間においても重篤な合併症の報告もなく安全性を確認しています。

しかしながら網膜感度は6ヶ月~12ヶ月をピークに殆どの症例で減少してしまうという報告も受けているそうです。

持続性の高い治療法の獲得が急務となっています。

コロイデレミアに対する遺伝子治療

REP-1遺伝子異常により生じる伴性劣性遺伝の疾患であり、基本的に男性が発症することが多いですが、女性も眼底異常や夜盲が出現します。

幼少期から夜盲を自覚することが多いですが、視力は後期まで保たれることが少なくありません。
全症例において完治するまでには至っていないものの、一部の患者さんでは視力の改善が見られており、今後の研究の発展が期待されています。

網膜色素変性に対する遺伝子治療

70種類以上の原因遺伝子が報告されています。現状は有効な治療法がなく、厚生労働省から難病と指定され、公費負担の対象となっています。

2019年6月4日に九州大学病院において、網膜色素変性に対する遺伝子治療の治験が行われており、同年6月12日に退院、その後の経過観察が行われているところです。

まとめ

笑顔の女性

眼科の分野における再生医療や遺伝子治療の現状についてお伝えしてきました。

iPS細胞が作製されて以降、眼科の分野における研究はそれまで以上に進んできています。網膜色素変性症や加齢黄斑変性などかつて難病とされてきたものが、最先端の眼科医療施設での手術実績によって視力回復など一定の成果を上げてきています。

今後もiPS細胞を活用した臨床治験が多く行われていくことによりエビデンスが増え、より広範囲にわたって信憑性の高い医療方法へと確立していくことでしょう。

医療の分野は奥が深く、簡単には問題解決へと進むものではありません。

ですが、研究者の方々や医療現場に立つ方々、また病気に罹患された方々のたゆまぬ努力と熱意によって、難病とされたものが少しずつ解決する糸口が見えてきています。

まだ時間のかかるものもあるかもしれませんが、今後のさらなる発展が期待されています。

参考文献

この記事の監修歯科医師
柳 靖雄医師(横浜市大 視覚再生外科学客員教授 お花茶屋眼科院長)

柳 靖雄医師(横浜市大 視覚再生外科学客員教授 お花茶屋眼科院長)

東京大学医学部卒業(1995年 MD)/ 東京大学大学院修了(医学博士 2001年 PhD) / 東京大学医学部眼科学教室講師(2012-2015年) / デューク・シンガポール国立大学医学部准教授(2016年-2020年)/ 旭川医科大学眼科学教室教授(2018年-2020年) / 横浜市立大学 視覚再生外科学 客員教授(2020年-現在) / 専門は黄斑疾患。シンガポールをはじめとした国際的な活動に加え、都内のお花茶 屋眼科での勤務やDeepEyeVision株式会社の取締役を務めるなど、マルチに活躍し ています。また、基礎医学の学術的バックグラウンドを持ち、医療経済研究、創薬、国際共同臨床研究などを行っています。

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