緑内障と聞くと、高齢者がかかる病気というイメージを持つ方も少なくないのではないでしょうか。しかし、緑内障のなかでも先天性緑内障と呼ばれるのは、生まれつきの眼の病気です。なかでも、生後1歳までに発症するものや20歳代で発症するものなどがあります。本記事では先天性緑内障の原因や発症した場合どのような症状が起こるか、また治療方法などについて詳しく解説します。
先天性緑内障とは
まずここでは、先天性緑内障について概要と原因、症状を解説します。
先天性緑内障の基本事項
先天性緑内障は、隅角という眼の一部の発育が正常でないために眼圧が上昇し、視神経がダメージを受ける病気です。この病気は日本では約3万人に1人の割合で発症しています。 先天性緑内障は、主に以下の3つに分類されます。
・早発型発達緑内障……生後1歳までに約80%が発症し、生まれたときから症状が見られることが少なくないため、先天緑内障とも呼ばれます。
・遅発型発達緑内障……隅角の異常が軽度で、主に10歳から20歳代で発症します。
・ほかの先天異常を伴う発達緑内障……無虹彩症、スタージ・ウェーバー症候群、ペータース異常などを伴うものです。
この病気の発症頻度については、生後3ヵ月以内に診断される場合は両目に発症する確率が90%であり、生後3ヵ月から3歳までに診断される場合は60%が両目に発症します。 先天性緑内障は、子どもの眼の組織がやわらかいため、眼圧が高くなると眼球(特に角膜)が大きくなり、牛眼とも呼ばれる状態になることがあります。これは、房水(眼の中の液体)が正常に排出されずにたまることによるものです。
先天性緑内障の原因
先天性緑内障の多くは、遺伝によるものではなく、その原因ははっきりとはわかっていません。しかし、最近の研究では、CYP1B1という遺伝子に変異がある場合があることがわかっています。この遺伝子は、眼の発達や房水の排出に重要な役割を果たしています。 具体的には、CYP1B1遺伝子の変異は、眼のなかにある線維柱帯(房水が排出される通り道)の形成や働きに影響を与えます。この影響により、房水の正常な排出が妨げられ、眼圧が高くなり、視神経が圧迫されることで緑内障が発症します。この遺伝子変異は、家族内で遺伝することもありますが、多くの場合は突然変異として発生します。 また、ほかの遺伝子や環境要因も先天性緑内障の発症に関与している可能性があり、現在も研究が進められています。
先天性緑内障の症状
先天性緑内障の症状は、発症のタイミングや重症度によって異なります。特に早発型発達緑内障の場合、眼圧が高いために眼球が拡大し、以下のような症状が現れます。
・流涙…目から涙が頻繁に出ること
・羞明…光をとてもまぶしく感じること
・眼瞼けいれん…まぶたが勝手にピクピク動くこと
・角膜混濁…角膜が白く濁って見えること
・角膜径拡大…黒目の部分が異常に大きく見えること
これらの症状が見られた場合、治療を開始するために速やかに眼科を受診することが重要です。 一方、遅発型発達緑内障の場合、上述のような症状が現れることは少なく、発見が遅れることが少なくないです。遅発型は、隅角の異常が軽度であるため、症状が徐々に進行することが少なくないためです。 ほかの先天異常を伴う発達緑内障は、全身的な先天異常を伴うことがあります。この場合、眼の症状だけでなく、全身の異常も確認する必要があります。
先天性緑内障の種類
次に、先天性緑内障にどのような種類の病気があるかを解説します。
原発先天性緑内障
ほかの眼の異常や全身の先天異常を伴わない場合は、原発先天性緑内障と呼ばれます。 このタイプは、眼そのものの発育異常が原因であり、ほかの身体的な異常が見られないことが特徴です。原発先天性緑内障は、早期に発見し適切な治療を行うことで、視力を保つことができます。
続発先天性緑内障
続発先天性緑内障は、眼球の先天的な発達異常や、母斑症、代謝異常など全身の先天異常を伴う場合に発生します。 原発先天性緑内障とは異なり、全身的な疾患が関与しているため、治療にはより複雑なアプローチが必要です。全身の状態を考慮しながら、眼の治療を進めることが求められます。
ほかの先天異常を伴う小児緑内障
ほかの先天的な異常を伴う場合、小児緑内障の原因となる疾患には、以下のようなものがあります。
・無虹彩症…虹彩が欠如している状態
・スタージ・ウェーバー症候群…顔面や脳に血管腫ができる病気
・アクセンフェルド・リーガー症候群…眼の前部の発育異常
・ペータース異常…角膜と虹彩や水晶体の癒着
・マルファン症候群…全身の結合組織に異常をきたす遺伝性疾患
・ワイル・マルチェザーニ症候群…体の成長と発育に異常をもたらす疾患
・ホモシスチン尿症…代謝異常を引き起こす遺伝性疾患
・神経線維腫症…神経系に腫瘍ができる病気
・風疹症候群…母体の風疹感染による胎児の障害
・ピエール・ロバン症候群…顔面の発育異常
・第一次硝子体過形成遺残…胎児期に形成される硝子体が残存する異常
・先天小角膜…角膜が異常に小さい状態
・ロウ症候群…腎臓や眼、脳に異常をもたらす遺伝性疾患
・ルービンスタイン・テイビ症候群…発達障害と特徴的な顔貌を伴う疾患
・ハラーマン・ストレイフ症候群…頭蓋骨や顔面の異常
・先天ぶどう膜外反…ぶどう膜が外側に反転している状態など
これらの全身的な先天的異常を伴う場合、発症時期や疾患の種類に応じて治療方法を検討します。各疾患ごとに適切な治療法を選択し、眼圧を下げるための手術や薬物療法が行われることが一般的です。全身の健康状態を総合的に考慮しながら治療を進めることが重要です。
発達緑内障の種類
ここでは、発達緑内障の種類を紹介します。
早発型発達緑内障
早発型発達緑内障は、生後1歳までに発症する緑内障であり、早期の発見と治療がとても重要です。 このタイプの緑内障は、眼圧が高いために眼球が拡大し、流涙や羞明、眼瞼けいれん、角膜混濁、角膜径拡大などの症状を引き起こします。具体的には、涙が多く出る、光を極端にまぶしく感じる、まぶたがピクピク動く、黒目が白く濁って見える、黒目が大きく見えるなどの症状が見られます。これらの症状が現れた場合、できるだけ早く眼科を受診することが必要です。 早発型発達緑内障の原因としては、CYP1B1という遺伝子に変異があるケースが報告されています。この遺伝子の変異が、眼圧の上昇やその他の症状を引き起こすと考えられています。 小さな子どもが検査を受ける場合には、全身麻酔を行う必要があり、そのため専門施設での入院が必要です。薬物治療の効果はあまり期待できないため、早期に手術を行う必要があります。手術により眼圧を下げ、視神経へのダメージを防ぐことを目指します。
遅発型発達緑内障
遅発型発達緑内障は、10歳から20歳代で発症する緑内障で、先天的な隅角の異常によって生じます。 このタイプの緑内障は、早発型発達緑内障のような明確な症状が現れないため、発見が遅れることが少なくないです。特に若い世代は緑内障に関する知識が乏しく、視力の低下を自覚しても受診が遅れる傾向があります。その結果、病気が悪化してから発見されることがしばしばあります。 遅発型発達緑内障の治療は、まず薬物療法から始めます。点眼薬などを使用して眼圧を下げ、病状の進行を抑えます。 それでも十分な効果が得られない場合には、レーザー治療や手術療法を行います。レーザー治療は、眼内の液体(房水)の排出を改善することで眼圧を下げる方法です。手術療法は、隅角の異常を直接修正するために行われます。 このように、遅発型発達緑内障は、早期発見が難しいため、定期的な眼科検診が重要です。特に家族に緑内障の方がいる場合や、視力の変化を感じた場合は、早めに眼科を受診することが推奨されます。
先天性緑内障の検査方法
先天性緑内障が疑われる場合に行われる、主な検査方法を紹介します。
眼圧検査
眼圧測定検査は、緑内障の診断において重要な検査のひとつです。眼のなかには房水と呼ばれる液体が流れており、この液体が眼内の栄養供給や老廃物の排出を担っています。房水が眼球内に与える圧力を眼圧と呼びます。 眼圧が高くなると、視神経が圧迫されて損傷を受け、視野が狭くなります。視神経が一度損傷するともとに戻ることはありません。そのため、眼圧を正確に測定することは、緑内障の早期発見と進行を防ぐためにとても重要です。 眼圧の正常値は10~21mmHgとされています。眼圧検査にはいくつかの方法があります。例えば、TONOREF III(トノレフ3)という機械を使った検査方法があります。この方法では、目に直接触れずに眼圧を測定することができます。 また、医師が点眼薬(ベノキシールなど)を使用して眼球を麻痺させ、その後、アプラネージョントノメーターという機械を使って直接目に当てて測定する方法もあります。この方法は、より正確に眼圧を測定することができますが、小さな子どもには全身麻酔が必要な場合もあります。 これらの検査を通じて、眼圧の異常が確認された場合には、さらに詳細な検査を行い、緑内障の進行度やほかの合併症の有無を確認します。
隅角検査
隅角検査は、急性閉塞隅角緑内障を引き起こしやすいかどうか、また隅角の狭さを確認するために行われる重要な検査です。隅角とは角膜と虹彩の間にある部分で、房水の排出経路の一部を形成しています。この検査により、隅角がどの程度狭いかを把握することができます。 隅角の状態を詳細に確認することで、緑内障治療においてレーザー治療が必要かどうかを判断することができます。レーザー治療は、隅角が狭くなり房水の流れが妨げられている場合に、隅角を広げるために行われます。 また、隅角検査は虹彩、毛様体、脈絡膜に炎症が起こるぶどう膜炎の診断にも有用です。ぶどう膜炎は、眼の内部に炎症が生じる病気であり、適切な診断と治療が必要です。隅角検査により、炎症の程度や場所を正確に把握することができます。 さらに、この検査は眼底検査(散瞳検査)を安全に行うためにも用いられます。眼底検査は、目の奥の状態を詳しく調べるための検査であり、散瞳剤を使って瞳孔を広げる際に隅角の状態を確認することで、検査が安全に行えるかどうかを判断します。
眼底検査
眼底検査は、目の奥に光をあてて視神経乳頭部の変化を観察するための検査です。視神経乳頭とは、網膜から集まった神経線維が眼球を出て脳へとつながる部分を指します。この部分は、視神経の健康状態を知るためにとても重要です。 眼底検査では、視神経乳頭にあるくぼみ(視神経乳頭陥凹)を詳しく観察します。視神経乳頭陥凹は、正常な状態でも見られるものですが、視神経が障害されると、このくぼみが大きくなったり、形が変形したりします。これは、視神経の一部が損傷し、神経が死んでなくなるためです。 視神経乳頭の変化は、緑内障の進行を判断するための重要な指標となります。緑内障が進行すると、視神経が圧迫されて損傷し、視野が狭くなるなどの症状が現れます。そのため、眼底検査は緑内障の早期発見と適切な治療計画を立てるために欠かせない検査です。 また、眼底検査はほかの眼疾患の診断にも役立ちます。例えば、糖尿病性網膜症や加齢黄斑変性など、網膜に関連する病気の兆候を見つけることができます。これにより、早期に治療を開始することができ、視力の保護や病気の進行を遅らせることが可能になります。 この検査は、眼科医が特殊なレンズや機器を使用して行います。検査自体は痛みを伴わず、短時間で完了しますが、検査後には散瞳剤を使用することがあるため、しばらくの間視界がぼやけることがあります。
先天性緑内障の治療方法
先天性緑内障と診断された場合、どのような治療が行われるかを解説します。
線維柱帯切除術
線維柱帯切除術は、国内外で多く行われている緑内障手術です。 この手術では、角膜の上端部分で線維柱帯とシュレム管を含む強膜の内層半分を切除します。これにより眼球壁に開口部を作り、眼内の房水(前房を満たしている透明な液体)を眼外の結膜下へ導きます。 この人工的な流出路を作ることで、余剰な房水を排出し、眼圧を下げる効果があります。
線維柱帯切開術
線維柱帯切開術は、房水の排出口である線維柱帯の目詰まりが原因で眼圧が上昇している場合に行う手術です。 この手術では、線維柱帯を切り広げることで房水の流出量を増加させ、眼圧の低下を図ります。手術後は、房水の流れが改善され、眼圧が正常範囲に戻ることが期待されます。
周辺部虹彩切除術
周辺部虹彩切除術は、瞳孔ブロックを解消し、前房と後房の圧力差をなくして隅角を開大することを目的とした手術です。 レーザー虹彩切開術の場合、点眼麻酔を行い、専用のコンタクトレンズを使用して虹彩を切開します。レーザー照射する箇所は、普段まぶたに覆われている上側や鼻側の虹彩周辺部に行われます。 片方の眼に瞳孔ブロックがある場合、他方の眼も同様の症状になる可能性が高いため、予防的に両方の眼にレーザー虹彩切開術を行うことが推奨されます。
まとめ
先天性緑内障は、日本では約3万人に1人の割合で発症する病気です。遺伝によるものではなく、原因が明確でないことが少なくないため、残念ながら早期発見が難しい場合もあります。 そのため、定期的に眼科で検査を受けることがとても重要です。定期的に検査を受けること、そして症状が認められた場合は速やかに適切な治療を受けること。これにより先天性緑内障の進行を防ぎ、子どもの将来の視力を守ることができるでしょう。
参考文献