白内障は徐々に進行していく病気です。自分では気付かなくとも、視力障害は始まっていることがあります。そのような状態で車の運転をしていると、交通事故のリスクは高まることでしょう。また、車の免許更新時に規定の視力が出ずに更新ができないこともあります。この記事を読んで、白内障と車の運転に関する影響を確認してみてください。
白内障が運転へ与える影響とそのリスク
白内障は、75歳以上のほぼ半数が罹っているといわれ、高齢者の視力障害の主な原因となっており、そのような状況では運転のリスクが懸念されます。その理由としては、運転が視覚に大きく依存しているからです。また、白内障を患っていると、運転時の機動性が制限され、道路上での安全性に問題が生じる可能性があります。具体的な支障や、交通事故のリスク、免許更新の観点から白内障について、ここでは解説します。
- 白内障を発症した場合、運転にどのような支障が生じますか?
- 加齢により認知機能の低下をもたらす場合、白内障の影響を受けやすくなるといわれています。白内障により、視覚情報の処理速度が遅くなるため、運転時の判断や反応に遅れが生じるのが理由です。また、白内障の症状は徐々に進行するため、自分では気付かず、運転上の大きな障害となる可能性は少なくありません。視力の変化は緩やかであり、日常生活の不便さを自覚できないため、眼科での定期検査を受けることが重要です。
- 白内障があると交通事故リスクがあがりますか?
- 白内障により、道路標識、表示、信号などを見落とすリスクが考えられます。一時停 止の標識を見逃すことや、信号の判別がむずかしくなるなどの現象がドライビングシミュレーターを用いた検証で実証されています。また、速度超過区間の増加が見られる結果から、速度感覚の変化へ影響が出ることも考えられます。信号判別への影響については、白内障では識別しやすい色相としづらい色相があることが示唆されており、色の見え方に大きな影響を与えていることがわかっています。これらの検証結果より白内障は交通事故のリスクを高めることになるといえるでしょう。
- 白内障と診断されたらすぐに運転を中止するべきか教えてください。
- 白内障の症状としては、まず視力低下やまぶしさ、かすみなどが起こります。道路標 識が見づらい、対向車のヘッドライトが以前よりまぶしく感じる、などの場合は視力低下や光への過剰反応が始まっていると考えられます。このような自覚症状がある場合は運転を控えましょう。運転中は一瞬の見間違いや判断ミスで大事故を引き起こす可能性があります。安全運転をするためには、白内障の手術を受けて視力回復をしなければなりません。ただし、手術というと不安や心配で躊躇する方もいるのではないでしょうか。近年行われる白内障手術は、医療の進歩により安全で身近な手術であり、日帰りで可能なものとなっています。
- 白内障と診断されても免許の更新はできますか?
- 普通車の運転免許を更新する場合は、両眼で0.7以上、片眼で0.3以上の視力が必要で す。これらの視力は眼鏡などによる矯正視力でも可能ですが、白内障では眼鏡、コンタクトレンズで矯正をしても視力が出づらい場合があります。そのため、運転免許の更新ができなくなることも少なくありません。しかし、白内障手術を受けて視力が回復すれば、たいていの場合は免許更新が可能です。白内障の手術が免許更新期日に間に合わず、運転免許を失効してしまうこともありますが、失効後6ヵ月以内であれば、視力検査を受け直すことができ、再交付されます。そのため、免許更新に合わせて白内障手術の検討をおすすめします。しかし、手術のタイミングは必ずしも希望どおりにはならないこともありますので、余裕を持ったスケジュールで眼科医と相談するとよいでしょう。
白内障の治療法と手術タイミング
白内障は高齢期に高い頻度で見られる病気です。初期のうちは、点眼薬などによって進行を遅らせることはできますが、点眼で完全に治療することはできません。そのため、濁った水晶体を取り除く手術が必要です。
その手術を受けるタイミングや手術方法について次に解説します。
- 手術を受けるべきタイミングはいつですか?
- 検討時期としては、対向車のライトが以前よりまぶしく感じるようになったり、ライトを見た後に残像で見えづらくなったり、メガネやコンタクトレンズなどで視力矯正を行っても視力があがらない、などの症状が出はじめたら考えましょう。そのまま免許更新に臨んでも更新できない可能性があります。さらに、白内障が進み水晶体の核の色に変化が現れ、信号の色の判別が困難になってしまうと重大事故のリスクが高まりますので、早めの検討が必要でしょう。
- 白内障手術にはどれぐらいの期間を要するか教えてください。
- 主治医が白内障の手術を決める場合には、目の機能や合併症の有無を調べるために必 要な検査を行います。これは、眼底や視神経に病気があると手術をしても視力が出ないことがあるからです。そして、重要な眼内レンズの屈折力を決める眼内レンズパワーの測定も行われます。これらの事前検査を行い、手術当日となりますが、手術自体は通常では30分程で終わることがほとんどです。手術後は、そのまま病室に歩いていくことができますし、条件が整えば日帰り手術も可能です。術後2、3ヵ月は医師の処方による点眼が必要ですが、通常の日常生活はすぐに再開できます。ただし運転については、術後状態にもよりますが一般的には1週間程経過を見て医師の判断を仰ぎます。免許更新を間近に控えている場合には、車の運転ができるまでの期間も含めて手術予定を決めることが必要です。
- 単焦点レンズと多焦点レンズのどちらを選べばよいですか?
- 白内障の手術は混濁した水晶体を取り除き、その代わりに眼内レンズを挿入する方法 が一般的です。水晶体には目のピント調節の役割があります。しかし、その代わりとなる眼内レンズは、水晶体とは違いすべての距離にピントを合わせることができません。そこで、選択できるレンズとして、単焦点レンズと多焦点レンズがあるのです。多焦点レンズのメリットは、単焦点レンズと比較して眼鏡の必要性が少なくなる点です。遠方の視力を保ちながら中間から手元を眼鏡なしで見ることができます。ただし、一般的には単焦点レンズよりも見え方の質は低下することもあるといわれています。また、多焦点レンズの費用は選定医療といって、一部費用にしか保険が適用されず、ほかは、自由診療となるため、医療機関によって費用は異なります。選択のポイントは、眼の状態やライフスタイルに合ったレンズを決めることです。担当医とよく相談して決めるようにしましょう。
白内障手術後から運転再開までの流れ
手術後すぐに運転が再開できるかどうかは気がかりな点だと思います。手術自体は数分で終わっても、視力の回復までにはどのくらいの時間がかかるのかは知りたいところではないでしょうか。
運転再開までの流れを次にご紹介します。
- 手術後、運転はいつから再開できますか?
- 術後状態にもよりますが、術後の視力検査で異常がなければ、運転可能と判断される ことが一般的です。不安を感じた場合は無理をせず、見え方が安定し、目の状態に慣れてから運転するようにしましょう。メガネが必要な場合は、遠方に度が合ったメガネが必要です。通常、度が落ち着くのには、2~3ヵ月かかるといわれていますので、その頃に再度メガネの調整をする必要があります。
- 手術後の合併症など注意点があれば教えてください
- 白内障の手術は安全ではありますが、手術である限り合併症もゼロではありません。なかでも、深刻なのは感染性術後眼内炎です。頻度としては低いのですが、治療の時期が遅れると失明の可能性もあります。完全には予防できないため、入院により治療遅れを回避する医療機関もあるようです。また、水晶体が破れる破嚢(のう)や水晶体嚢を支えている部分が弱く切れてしまう、チン小帯断裂、出血、網膜剥離、角膜混濁、眼内レンズの位置ずれなどが主な合併症です。不安があれば早めに医師の受診をするようにしてください。
編集部まとめ
高齢ドライバーにとっては、白内障の手術は視力回復だけではなく、交通事故リスクの低減や生活の質向上にも役立ちます。ただし、術後の運転再開は慎重に行い、段階的なステップアップを目指すなど注意が必要であることも忘れないでください。ご自身はもとより、ほかの道路利用者の交通安全のためにも、定期的な眼科検診を受け、自身の状態をよく理解することが重要です。また、高齢ドライバーが安全に運転するために家族や周囲の人たちが積極的にサポートするようにしましょう。
参考文献