視野とは眼を動かさないで見ることのできる範囲です。人は情報の約8割を眼に頼って生活しているといわれています。その中には視野の広がりも情報取得の重要な役割を担っています。視野に異常が出る病気には、緑内障をはじめとする眼の病気や、脳梗塞などの脳の病気があります。緑内障の診断や治療を継続するためには視野検査は欠かせません。具体的な方法やその目的、検査結果の見方などの説明をいたします。
検査前に知っておきたい緑内障の基礎知識
緑内障は、眼と脳をつなぐ視神経に障害が起こり、徐々に視野機能が衰えていく病気です。40歳以上のおよそ5%の人は緑内障といわれていますので、けっして珍しい病気ではありません。一般には眼圧を下げることにより、進行しにくくなりますので、できるだけ早期に緑内障を発見し、眼圧を下げ続けることが大切です。 しかし、緑内障の7割は、眼圧は正常値である正常眼圧緑内障という疾患で、眼圧も正常値であり、視野障害の自覚もないことから発見しづらい病気でもあります。手遅れになると失明するリスクもありますので重要なのは早期発見です。40歳を過ぎた頃から定期的な眼の検診をお勧めします。早期に発見できれば、点眼薬などで眼圧を下げ続ける治療が可能です。病気の理解を深め、疑問や不安を解消できるよう情報を得ることが大切です。
緑内障の症状
代表的な開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障の症状をご説明します。 開放隅角緑内障では、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。眼圧も正常値内でも発症する正常眼圧緑内障もあることや、軽度の眼圧上昇では、特に異常を自覚することがないのです。また、視野についても初期から中期の視覚障害は視野検査では検出されますが、患者さんが視野の欠けを自覚することはごく稀です。 閉塞隅角緑内障では、発作を起こす前には眼圧はほぼ正常なことが多いため、自覚症状はこちらもありません。しかし、急性発作を起こすと眼圧が急激に上昇するため、見え方の異常のほかに強い頭痛や吐き気、眼の痛みを伴います。
緑内障の原因
緑内障の発症メカニズムは解明できていません。眼の硬さである眼圧が上昇すると、眼の奥にある視神経に障害が起こり緑内障となります。眼圧の正常値は10~20mmHgとされていますので20mmHgを大きく超える眼圧が続くと、視神経に障害が起こる可能性が高くなります。 しかし、眼圧が高くない人にも緑内障は見られる(正常眼圧緑内障)ことから、眼圧以外にも緑内障の原因があると考えられています。「視神経が弱い」、「血流が少ない」、「視神経に毒として働く物質が存在する」、「免疫の異常」などが考えられていますが決定づけるエビデンスは得られていません。
緑内障の種類
緑内障はいくつかの種類に分けられます。他の原因のために眼圧が上がる「続発緑内障」と他の原因がない「原発緑内障」、先天的な「発達緑内障」があります。それぞれ大きなくくりで下記の5種類に分類されるといわれています。
- 原発開放隅角緑内障
- 原発閉塞隅角緑内障
- 正常眼圧緑内障
- 発達緑内障
- 続発緑内障
緑内障の視野検査について
緑内障では、視野の中に見えづらい部分が少しずつ広がりますが、見えづらい範囲がかなり大きくなるまで自覚はありません。そのため、眼底検査などで緑内障が疑われた場合、専用の視野検査装置で検査を受ける必要があるのです。 視野検査をすると、物を見る中心の少しわきに小円形の見えない部分が検出されます。これは「マリオット盲点」といってだれにでも存在する状態ですが、緑内障ではマリオット盲点以外に見えづらい部分ができています。それを見つけるために視野検査は行われます。
視野検査とは
視野検査とは、まっすぐ前方を見ている時に、上下左右前方がどのくらいの範囲で見えているかを調べる検査です。ちなみに正常な人では、片眼につき上方60度、下方75度、鼻側に60度、耳側に100度という広い視野を持っています。通常、人は両眼で物を見ているので、片方の眼を隠さないと自分の眼の視野に異常を感じません。視神経の障害や緑内障の眼疾患では、障害が片眼だけだったり左右の眼の障害度合いが違ったりすることが多いので、左右別々に視野検査を行い診断します。
視野検査の目的
視野検査によって、発見される病気は緑内障をはじめとする眼や視神経、脳など多くあります。その中で緑内障を疑い視野検査をするのは、病気の初期変化である小さい暗点を調べるためです。何度も繰り返して検査を行う理由は、暗点が広がっていないかを調べることにあります。他の検査ではわからない情報を得ることが視野検査を行う目的です。
視野検査の種類
視野検査には以下の4つの種類があります。
- 対座法
- ハンフリー視野計
- ゴールドマン視野計
- FDTスクリーナー
対座法
対座法とは、機械を必要としない簡易的な視野の検査です。機械を必要としないので緊急な場合でもすぐに検査を行えるメリットがあります。 検査は検者(測る人)と被検者(測られる人)が向かいあって、互いに相対した眼を注視しながら、検者が視標(手など)を周辺から移動して、検者自身の視野の広さと比較します。なお、検査では片方の眼を隠さないと自分の眼の視野に異常があるかどうかはわかりません。また、この検査で異常が認められた場合は機器を使った正式な検査へと進みます。
ハンフリー視野計
ハンフリー視野検査はコンピューター制御で機器が測定する検査です。視野計の内側に顔を固定し、中心マークを見つめた状態で、周りに出てくる小さな光が見えたら、手に持っているボタンを押します。これを繰り返し、見えない部分を調べます。この検査は「静的視野検査」といわれ、光の出る場所は動きません。主に中心部の視野(30度以内)を詳しく知ることができ、緑内障の早期発見や進行状況などを確認できます。 検査は片眼ずつ行い、検査時間は片眼10分~20分くらいです。ただし、視線や顔を動かすと誤差を生じやすくなります。また、長時間同じ姿勢で行うため、楽な姿勢でリラックスして臨みましょう。
ゴールドマン視野計
一点を見ている時に、どのくらいの範囲まで見えるのかを調べる検査です。ドーム状の検査機の中のさまざまな場所から小さな光が出ます。光の出る場所が移動するため「動的視野検査」といい、見える範囲と感度の分布を調べる検査です。中央の黒い点を見ていて、光が出たことがわかればボタンを押します。視線や顔を動かすと誤差が生じて正しく検査できないので注意しましょう。
FDTスクリーナー
FDTスクリーナーは緑内障の疑いを簡単に判別する検査です。しかも暗室ではなく通常の照明の下で検査ができます。FDTは網膜の神経線維であるM細胞に直接作用するため、緑内障の早期発見ができる検査機器です。従来のハンフリー視野計とは違い、暗室を必要としないので人間ドックにも使われます。また、検査にかかる時間が短く(片眼45秒ほど)身体的、心理的負担が少ないというのもメリットです。
緑内障の視野検査の結果について
視野検査を上手に受けるためには、集中とリラックスが重要です。緑内障の患者さんの中には視野検査が正しくできているか不安に思っている方も多いようです。そのため、視野検査の結果にはどれだけ正確に検査を受けられたかを表す指標が設定されています。それは、固視不良・偽陽性・偽陰性という3つの指標です。これらの指標を良くすることが視野検査を受けるコツといっても過言ではありません。それぞれの指標について次項で詳しくご説明します。
固視不良
固視不良とは、検査中に中心の固視点以外に目線が動いてしまうことです。視野検査は真正面の光を見ている状態で検査を行いますが、検査中に眼を動かしてしまうと、検査の結果が不正確になってしまいます。検査中は真ん中の光だけを注目し、けっして光を探さないようにしましょう
偽陽性
偽陽性とは光が見えていないのに誤ってボタンを押していないかを表す指標です。具体的には、視野計が光を出さずに音だけ出した時に、ボタンを押した回数をカウントしています。 良い結果を出したいという意識が、光ではなく、音で反応してしまうことがあります。気持ちが落ち着いていない可能性があるため、リラックスして光が見えてからボタンを押すように心掛けるといいでしょう。
偽陰性
逆に光が見えているはずなのにボタンを押していないことを示す指標が偽陰性です。見えるはずの強さの光を出したのに、ボタンを押せなかった回数をカウントしています。検査に十分集中できるような姿勢や体調で臨むことが重要です。
緑内障の視野検査以外の検査について
視野検査のほかに緑内障の診断に必要な代表的な検査には下記の項目があります。
眼圧測定(トノメトリー)
眼圧計とは、眼圧を測定するために使われる測定器です。接触型タイプは細隙灯顕微鏡に装着し、機器の先端を角膜に接触させ、眼圧を測定します。 また、角膜に機器が接触せず眼圧を測定できる非接触眼圧計もありますが、こちらは感染予防や安全性の面からも有用であるといえます。測定のしくみは、角膜に空気を吹き付けて、センサーが反射した風圧を感知し測定するというものです。デメリットとしては、空気の風圧や吐出音があり、その衝撃や音に不安を抱く人もいるという点です。
角膜厚測定(パキメトリー)
パキメーターは角膜の厚さ(角膜厚)を測定する機器のことです。機器は2種類あり、接触タイプと非接触タイプです。接触タイプで実施する際には、点眼麻酔したのち検査を行いますので、痛みはなく安心して受けられます。
隅角検査(ゴニオスコピー)
ゴニオスコープは、隅角を撮影する器械です。角膜の内側には房水といわれる液体があり、隅角に向かって流れています。隅角は房水の排水溝になっていて、狭かったり目詰まりを起こしたりすると眼圧が高くなる原因となります。ゴニゴニオスコープ(ゴニオスコピー)は隅角全周をカラー撮影する機械も時に用います。これにより詳細な隅角状態を調べることが可能になりました。
OCT(光干渉断層造影)
OCT(光干渉断層計)検査は、眼科で使用される非侵襲的な検査方法です。この検査では、眼の断層画像を生成し網膜や視神経の状態を評価することが可能です。緑内障などを早期発見し、適切な治療を行う重要なツールとなっています。検査は短時間で痛みもほとんどありません。検査中、患者さんは光の点滅や一時的な視覚の変化を感じることがありますが、一時的なものであり、検査後には元の状態に戻ります。 OCTのミクロンレベルの解像度データは緑内障の治療効果判定や経過観察において信頼性のある判断材料になります。
眼底検査
検眼鏡検査では、部屋を暗くした状態で、先に瞳孔を広げた上で眼底を覗き込み、視神経乳頭などを詳細に観察します。周辺部まで眼底観察することにより、眼底全体の状態を把握することができるのです。また、眼底カメラを用いて眼底を撮影して記録に残すことができます。
まとめ
緑内障は視野検査を定期的に受ける必要があり、正確な検査結果が出なければ適切な治療を受けられないのでは? と心配になるかもしれません。しかし視野検査には上手く検査を受けられたかどうかを表す指標が用意されています。その指標を良くすることが視野検査を受けるコツともいえます。また、視野検査以外にも検査方法や測定機器を認知した上で治療を受けることが不安を払拭するための手助けとなり、正しい知識と理解をもって検査を受けることは治療を継続する力となるでしょう。
参考文献