目の病気としてよく聞かれるのが、緑内障です。日本における失明原因一位の病気となっており、不安を覚える人も多いはず。しかし、緑内障は本当に「失明率の高い怖い病気」なのでしょうか。
確かに緑内障は失明のリスクを持つ病気ですが、実は適切な治療と管理でそのリスクは大幅に低減されます。この記事では、緑内障の失明率や進行の特徴、治療法について詳しく解説します。
緑内障とは?失明率は?
まずは緑内障の概要や原因、気になる失明率などについて解説します。
緑内障とは
緑内障は視神経が障害され、視野(見える範囲)が狭くなる病気です。視野の中にかすんで見えなくなる部分が現れ、徐々にそれが広がっていきます。
日本人の失明原因の1/4を占め、失明原因の第一位の病気となっています。40歳以上の5%、60歳以上では10%以上と、多くの人が罹患しているのも大きな特徴です。 しかしながら実際には、緑内障自体の失明率はかなり低いと言われています。具体的な数値で考えてみましょう。
2007年に失明された人が18万8千人いるうち、その1/4が緑内障によるものとすると、約4万人ほどとなります。日本には緑内障患者が400万人ほどいるといわれているため、4/400。
失明率は1%程度だと推測する意見があります。実際のところは、早期発見と適切な治療さえ叶えば、緑内障と診断されても、生涯視野と視力を保つことが可能です。
緑内障はなぜ起こる
緑内障が起こる原因は、目の中の神経(視神経)がダメージを受け、それによって見える範囲(視野)が狭くなることです。この病気は、目の圧力(眼圧)が高くなることでよく発生しますが、眼圧が正常な範囲でも起こることがあります。
眼圧とは、目の内部の液体(房水)が作り出す圧力のことです。通常、この房水は目で作られ、特定の道を通って体外に排出されます。しかし、この流れの道が塞がると、房水が目の中に溜まってしまい、目が硬くなってしまいます。この状態が「眼圧が高い」と言われるものです。眼圧が高くなると、目の神経に圧力がかかり、それが緑内障の原因となるのです。
また、目の神経が圧力に弱い場合、正常な眼圧でもダメージを受けて緑内障になることがあります。要するに、緑内障は目の内部の圧力の問題で起こる病気で、視神経が傷つくと視野が狭くなるのです。
緑内障は通常、自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに進行することが多い病気です。視神経の障害は徐々に進行し、視野も少しずつ狭まっていくため、初期段階では目の異常に気付きにくい傾向にあります。
しかし急性緑内障発作の場合は、急激に眼圧が上昇し、発作的な症状が現れることがあり、この場合は直ちに治療を受けて眼圧を下げる必要があります。
緑内障の種類によって治療方法も異なる
緑内障にはいくつかのタイプがあります。開放隅角緑内障は、目の水の流れる出口(隅角)が開いている状態のものです。閉塞隅角緑内障は、この隅角が狭まり、目の水の流れが妨げられるタイプです。そして正常眼圧緑内障は、眼圧が正常範囲であっても視神経が減少する病態です。
それぞれのタイプには特有の特徴があり、治療方法が異なります。次では、それぞれの特徴について解説します。
閉塞隅角緑内障は失明率が高い
閉塞隅角緑内障は、目の中の虹彩(黒目の奥の茶目の部分)と水晶体(透明なレンズ)の間が密着し、結果として虹彩が膨らんで隅角が狭くなることで発生する緑内障です。
この状態になると、房水の排出が困難になり、眼圧が高くなります。特に40歳以上の女性に多く見られる傾向があります。
閉塞隅角緑内障は、特に失明のリスクが高い緑内障の一種です。早期治療によって失明を防ぐことが可能ですが、このタイプの緑内障にはとくに注意が必要になります。
閉塞隅角緑内障特有の症状
閉塞隅角緑内障は、以下のような急性の発作が特徴的です。
- 激しい目の痛み
- 頭痛とそれに伴う嘔吐
- 目の充血
- 視界のぼやけ
- 視力の急速な低下
これらの症状が発生した場合、失明のリスクが高まるため、すぐに眼科を受診する必要があります。
開放隅角緑内障
開放隅角緑内障は、隅角自体は正常ですが、房水が排出されるフィルターの役割を果たす線維柱帯という部分が目詰まりを起こし、循環が悪くなることで眼圧が上昇します。
長期間にわたって高い眼圧が続くものの、初期段階では自覚症状がほとんどないため、病気の進行に気づきにくい特徴があります。
病気が進行すると、視野の部分的な欠損などの症状が現れます。そのため、定期的な眼科検診などで早期に発見し、視野の欠損に気づく前に治療を始めることが重要です。
正常眼圧緑内障
正常眼圧緑内障は、眼圧が正常範囲であっても視神経の減少が進行するタイプの緑内障です。これまで緑内障は、眼圧の上昇が主な原因とされていましたが、このタイプでは眼圧の高さは病気の進行と直接的な関連がないことが特徴です。近年の研究により、正常眼圧緑内障の患者が予想以上に多いことが明らかになっています。
この緑内障は、特に近視の人に多く見られる傾向があります。視神経の弱さや免疫系の問題など、様々な要因が関与していると考えられていますが、その正確な原因はまだ明確には解明されていません。
ほとんどの緑内障の失明率は非常に低い
このように複数のタイプがある緑内障ですが、一般的に緑内障の失明率は低いとされています。しかし緑内障は自覚症状が少なく、進行してしまうと気付いた時には視力が大きく低下していることもあります。
このため、定期的な眼科検診を受けることが非常に重要です。早期発見と治療により、視力の維持が可能になるのです。
緑内障の診断方法は?
緑内障を診断するために、眼科では以下の方法が用いられます。
眼圧検査を行う
眼圧検査では、目に空気をあてて眼球の固さを計測することで、眼圧を測定します。
かつては眼圧の正常値が10mmHgから21mmHgとされていましたが、現在ではこれを平均値と捉える傾向が強く、眼圧が高い場合だけでなく、正常値範囲内でも緑内障のリスクがあることが認識されています。
また、機械による眼圧検査は誤差が生じやすいため、より正確な測定を求める場合は、眼に直接特殊なコンタクトレンズのような検査器具を置いて測定を行います。この方法により、より精確に眼圧の値を計測することができます。
眼底の状態を観察する
眼底とは、眼球の後内壁面を覆う網膜のことをいいます。緑内障の診断においては、眼底の状態を観察することも重要です。
視神経が圧迫されることで視野が欠けることがあるため、眼底検査では視神経の一部である視神経乳頭の形状を検査することが一般的です。
緑内障の場合、視神経乳頭の陥凹(中心部分の凹み)が拡大していることがあります。このような変化は、会社の健診や人間ドックでしばしば指摘される部分であり、緑内障の早期発見に役立つ重要な指標となります。
視野の欠落状態を確認する
視野検査では視野の範囲を詳細に調べ、緑内障の進行具合を判断します。初期段階の緑内障では、通常は中心部位から15度から30度の範囲内で視野の異常が見られ始めますが、末期になるまで中心部の視野は保たれることが多いです。 視野検査には主に2つの方法があります。
・静的視野検査
この検査では、異なる明るさや大きさの光を提示し、その光が見える最小の輝度から視野の感度を決定します。特に緑内障による変化が出やすい中心30度の範囲で検査を行うことが多く、初期から中期の緑内障の検出に適しています。
・動的視野検査
指標を外側から中心に向かって動かし、見える位置を記録して視野を測定します。この方法は、広範囲の視野を測定するのに適しており、静的視野検査では困難な視野の測定に用いられます。
3次元眼底像撮影装置で検査を行う
緑内障の診断において、3次元眼底像撮影装置、特にOCT(光干渉断層撮影)検査が重要な役割を果たします。この検査は、近赤外光を用いて網膜層の断面画像を撮影するもので、患者さんは光を見るだけです。
眼底検査を一般的なレントゲン写真に例えると、OCT検査は、より多くの情報を提供するCTやMRIに匹敵すると言えます。この検査によって、網膜疾患、特に黄斑部の病変などの精密な診断が可能になり、緑内障の早期かつ正確な診断に大いに貢献します。
緑内障の治療方法
緑内障と診断された場合、どのような治療を行うかを解説します。
薬物療法(点眼、点滴)
最初の段階では、点眼薬による治療が行われます。最初に1種類の点眼薬から始め、視野障害が進行する場合は、2種類、3種類と薬剤の種類を増やしていくことが一般的です。
3種類でも進行が止まらない場合は、レーザー治療か手術を検討します。
レーザー治療
点眼薬による治療が十分な効果を示さない場合に、レーザー治療が検討されることがあります。レーザーを照射し、眼圧を下げることが目的です。
観血手術(メスを使った手術)と比較すると、体への負担が小さくて済み、手術時間が短くてすむのがメリットです。一方、観血手術よりも治療効果が持続する時間が短いというデメリットがあります。
レーザー治療には、目の状態に応じたさまざまな手法があります。
・レーザー虹彩切開術
レーザー虹彩切開術は、主に原発閉塞隅角緑内障の治療に用いられる手術方法です。この術式では、レーザーを使用して虹彩に小さな穴を開けます。
原発閉塞隅角緑内障は、眼球内の房水の排出口である隅角が閉じてしまい、房水が眼球内に蓄積することで発症します。これにより眼圧が上昇し、視神経が圧迫されることで緑内障に至ります。
レーザー虹彩切開術により虹彩に排出口が作られると、房水の排出が促進され、眼圧の低下が期待できます。
・選択的レーザー線維柱帯形成術
選択的レーザー線維柱帯形成術は、原発開放隅角緑内障や正常眼圧緑内障の治療に用いられる方法です。角膜と虹彩の間にある、メッシュ状の膜である線維柱帯の目詰まりを解消することを目的としています。
線維柱帯は通常、房水の排出経路として機能しますが、メラニン色素の発生により目詰まりが発生することがあり、これが眼圧の上昇につながります。
この手術では、レーザーを照射して線維柱帯を目詰まりさせているメラニン色素に焦点を当てます。メラニン色素が破壊されることで線維柱帯の目詰まりが解消され、房水の通り道が復活し、結果として眼圧が下がります。
手術
レーザー治療と比べて治療効果が高いとされているのが、観血手術です。進行した緑内障や、他の治療法でコントロールが難しい症例に対して選択されることが多いです。
そのぶん体への負担が大きく、また術後の感染症リスクも高くなります。そのため多くの場合、手術後の入院が必要です。
・流出路再建術
流出路再建術は、線維柱帯の目詰まりした部分を切開し、網目を広げて房水の排出を促す手術方法です。線維柱帯切開術、またはトラベクロトミーとも呼ばれています。
手術後には角膜と虹彩の間の前房内への出血が起こり、それによって一定期間眼圧が上昇しますが、時間の経過と共に出血は収まり、視力も回復するのが一般的です。
流出路再建術は、観血手術の中では比較的体への負担が少なく、手術時間も短めです。治療効果は観血手術の中では低めですが、とくに若年者の緑内障などには高い効果が期待されます。
・濾過手術
濾過手術は、線維柱帯の一部を切り取り、新しい房水の排出路を形成する緑内障治療方法です。この手術は線維柱帯切除術やトラベクレクトミーとも呼ばれ、緑内障手術の中でも代表的な術式の一つです。
濾過手術の最大のメリットは、治療効果が高く、ほぼすべての緑内障タイプに適用可能である点です。しかし、その効果の高さゆえに、眼圧を必要以上に下げ過ぎるリスクもあります。このため、手術では切除した部分を初めはきつめに縫合し、房水の過剰な排出を防ぎます。
術後は定期的に眼球の状態をチェックし、必要に応じて縫合部分をゆるめるなどのメンテナンスが行われます。このような入念なケアが必要とされるのが、濾過手術のデメリットの一つです。
・チューブシャント手術
チューブシャント手術は、目の中にチューブを挿入して房水の排出路を新たに設ける手術方法です。この手術は特に、濾過手術が十分な効果を示さない場合や、術後の感染症リスクが高い場合に選択されます。
この術式の主なメリットは、眼圧を効果的に下げることができる点と、術後の感染症リスクが比較的低いことです。しかしながら、術後ケアやメンテナンスが不十分な場合、視力の低下を招く可能性があります。
また、チューブシャント手術後には、チューブがずれるリスクに注意する必要があります。チューブの位置がずれた際には、再手術を行って固定し直す必要がある場合も出てくるでしょう。
まとめ
緑内障は失明の危険性を伴う病気ですが、早期発見と適切な治療でリスクを大幅に減らせます。決して、過剰に怖がる必要はありません。
治療は点眼薬から始まり、必要に応じてレーザー治療や手術が行われます。治療法は病状の進行度に応じて選択され、各治療にはそれぞれのメリットと注意点があります。
何よりも早期発見・早期対応が重要です。定期的な健診が、緑内障から視力を守る鍵となります。
参考文献